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マクセルホールディングスの勝田社長が語る、第二の創業期への想い

インタビュー

2017/11/24 12:00

 「ニッチ市場を突き詰めて、尖った事業を展開する」――。10月1日に日立の持分法適用会社ではなくなりグループから独立したマクセルホールディングスの勝田善春社長は、嬉しそうに語った。電池や磁気テープの分野で有名だった傍ら、近頃は「一人ひとりの消費者に寄り添った製品開発」を進めるマクセル。再出発を機に、どのような変化が起こすのか。

第二の創業期に突入、隙間市場で強みを生かす
 

マクセルホールディングスの勝田善春社長

道越 10月1日にマクセルホールディングスとして第二の創業を迎えました。まずは狙いと、展望についてお聞かせください。

勝田 当社は2000年代前半まで、黎明期から続けてきた乾電池や磁気テープなどの記録メディアが中軸の事業でした。いまでも「カセットのマクセル」の印象は、国内外を問わずに強く残っています。しかし、技術の進歩は速く、10年代に入ると磁気テープだけでは時代の変化に取り残される環境になってしまいました。

 経営の危機から脱し、今後の世の中でも人々の心に残る企業でありつづけるには、われわれが培ってきた経験と新しい技術を駆使し、規模は小さくても競争力のある隙間市場を突き詰めることが重要だと考え、独立しました。

 今後は、より自由に他社とのアライアンスを組むなどして、成長を加速していきます。大規模な社会インフラ事業やソリューション事業からは少し距離を置き、消費者の細分化するニーズに寄り添った、尖った事業を展開していく予定です。

道越 コンシューマ分野では、どの事業に注力していきますか。

勝田 グループ全体としては、人の身近にある「自動車」「住生活・インフラ」「健康・理美容」の3分野を成長領域に位置づけています。なかでも、一般コンシューマに身近なのは「健康・理美容」です。具体的には水、空気、光、音といった、人の周辺に必ずある要素を取り入れた製品の提案を強化していきます。

 例えば、2000年より少し前から、マッサージチェアにも注目しています。もみ心地などの研究を大学の先生と続けながら、ラインアップをさらに強化していく予定です。

 さらに、以前から続いていて、まだ活躍できる分野がDVDです。前年比では数が減ってきつつあるものの、消費者の間では長く現役で活躍しています。同じくカセットテープも人気が再燃しており、連動してラジカセも新しく売り場を設けられるほど息を吹き返しています。このほか、モバイルバッテリ分野も長年の電池技術を生かせる分野です。今後は、既存の分野でも新しい提案をしていきたいと考えています。

道越 量販店における既存の「マクセル」ブランドはどのような立ち位置でしょうか。
 

対談は終始なごやかだった

勝田 乾電池の存在感が圧倒的に大きいです。量販店を見に行くと、ニッチな製品を特設コーナーなどに展示していただくことはありますが、乾電池の棚は常設されています。

道越 ネット販売や通信販売と、実店舗の販売の割合はいかがでしょうか。

勝田 まだ実店舗の比重が高いですが、新しいチャネルとして力を入れるべき販路であると感じています。

道越 8月にアイ・オー・データ機器(I・Oデータ)と資本業務提携を結んだ背景や目的をお聞かせください。

勝田 I・Oデータは、ネットワーク関連製品に強く、当社が持つモノの開発力や販売力と合わせれば、新しいビジネスが展開できると考えました。先進的な分野に向けて共同開発していくために、さっそくプロジェクトチームを立ち上げました。

道越 具体的に発展させていく分野のヒントをいただければ。

勝田 まずは、これから求められていくであろうIoTの分野です。インターネットにつながる技術は当社でも試行錯誤していたので、ノウハウを持っている企業との連携は心強いです。協力関係が進めば、モノを売るだけでなく、IoT製品から集めたデータを生かしたサービス展開もできるようになるかもしれません。直近で考えているのは、プロジェクターの技術を応用した製品、理美容の周辺機器関係、蓄電池・HEMSなどの新しい商材やサービスです。
 

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貼るだけで簡単にトレーニング
 

 貼るだけでウエストラインやヒップまわりを集中的に鍛えられる3wayモードを搭載。複数の動作パターンと強度レベルを組み合わせ、筋肉が刺激に慣れるのを防ぎながら効果的にトレーニングができる。2017年10月にグッドデザイン賞を受賞した。
 
■プロフィール
マクセルホールディングス社長
勝田善春

1956年岡山県生まれ。神戸大学大学院(工業化学)卒業。80年日立マクセルに入社し、約20年にわたり磁気テープの開発に携わる。その後、電池部門にて主にリチウムイオン電池事業の立ち上げに従事。同社役員を経て2011年、日立ビークルエナジー取締役副社長、13年に取締役社長。黎明期の車載用リチウムイオン電池事業を立ち上げる。16年、日立マクセル専務執行役員を経て取締役社長に就任。17年10月、マクセルホールディングス取締役社長(現職)。
 
◇取材を終えて

 IoT社会の進展には、長期間安定して電力を取り出せる「電池」が不可欠だ。すでに欧米で自動車に装着が義務づけられているタイヤ空気圧センサー。使われる電池は、高速で回転するタイヤの中で2000Gもの過酷な環境に耐えて確実に電源を供給できなければならない。この分野でマクセルはダントツの世界シェアを誇る。高い技術力に裏打ちされた信頼性によるものだ。急成長するIoT機器でも同様にニーズが高い。同社のチャンスはさらに広がりそうだ(柳)

※『BCN RETAIL REVIEW』2017年12月号から転載