ソニーが08年6月に発売した、学習機能付き汎用リモコン「RM-PLZ510D」。細長い蒲鉾(かまぼこ)のような丸みを帯びたデザインが特徴だ。売れ行きも好調で、従来モデル「RM-PL500D」と比べると、約3倍も売れているという。同リモコンが生まれた背景について、商品企画担当者とデザイナー、設計担当者に話を聞いた。

●ボタン面を“ひっくり返しただけ”のシンプルな形状

 テレビやレコーダーなどのAV機器を操作する際に使うリモコン。誰もが1日に1度は手に取る、とても身近なアイテムだ。ソニーが考案した学習機能付き汎用リモコン「RM-PLZ510D」は、つるんとした半円状の曲面をもつ蒲鉾のようなデザイン。一見リモコンに見えないが、ひっくり返した裏面にボタン面を備えるというちょっと変わった形状だ。


 実際手に取ってみると、丸みがあるので手になじんで掴みやすい。ボタン面を下にして置くので、キーの隙間にホコリが入りにくいのもうれしい。ただ、曲面を下にして置くと本体が不安定になる。そのため、ボタン面を上にして置いたまま使うのは難しい。

 従来モデル「RM-PL500D」と同様、事前に登録すれば複数の機器を使えるようになる「学習機能」を備える。テレビのほか、レコーダーやチューナーなどのAV機器4台と、エアコンや照明器具などの赤外線に対応する家電3台までを操作可能。それぞれの機器ごとに使っていた複数台のリモコンを1台に集約できる。


●リモコンもインテリアに合わせたい! 個人的な経験がきっかけ

 さて、「蒲鉾型」という形に辿り着いたのは、商品企画担当者の個人的な経験がきっかけだった。ソニー オーディオ事業本部 統合商品企画MK部門 商品企画MK1部 企画5課の川田三奈子氏は、2年ほど前一人暮らしを始めた。その際、家具やカーテンなど部屋のインテリアを好みのテイストに統一した。ただ、部屋のインテリアにこだわったわりには、リモコンがどうも部屋になじまない。「どんな部屋にも合うかっこいいものがほしい」(川田氏)と率直に感じたという。

 また、一般的なユーザーは、テレビやレコーダーなどに付属するリモコンをそのまま使っていることが多い。仮に買い換えるとしても、1000円程度の安価なテレビ専用リモコンを選ぶ。その理由も、リモコンが「壊れた」もしくは「なくした」からという場合がほとんどだ。そもそも、別売りの汎用リモコンの存在自体、ユーザーにはあまり知られていないという。こうした現状を受けて、「付属リモコンにはない機能やデザインを、別売りの汎用リモコンで追求したい」(川田氏)という狙いもあった。

●置いた状態のたたずまいを美しく、光の反射を生かした曲面

 川田氏の個人的な経験をきっかけに、06年9月、同リモコンのプロジェクトが発足した。「リモコンについて一から考え直したい」「自分が本当にほしいリモコンを考えたい」という相談を川田氏から受け、デザイナーが具体的な形状に落とし込んでいった。その中の一人が、デザインを担当したソニークリエイティブワークス プロダクトデザイン部 1グループ デザイナーの植田有信氏。「リモコンは実は使われていない時がほとんど。その置かれているたたずまいを綺麗にみせたかった」と、「蒲鉾型」にした理由を明らかにした。

 
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 一方、カラーリングを担当したのは、ソニー クリエイティブセンター コンスーマープロダクツデザイングループ カラー&マテリアルデザインチームの界若葉氏。部屋の照明が当たったときに曲面が綺麗に見えるよう、光沢のある塗装を施すことで高級感を出した。「RM-PLZ510D」の価格は5000円前後で、別売りのリモコンとしては決して安くはない。ただ、従来モデル「RM-PL500D」から価格は変更せず、デザインを追加した分値段を上げるということはしなかった。

 ちなみにカラーバリエーションは、シルバー、ブルー、レッドの3色。この組み合わせだと一般的には、「シルバー対ブルー対レッド」が「6対3対1」の割合で売れるそうだ。しかし、同リモコンは3色均等にユーザーから人気を集めている。「ここ数年『デザイン家電』と呼ばれる潮流があり、家電製品であってもインテリアの一部としてとらえる人々が増え、ファッショナブルな外観が強く求められるようになった」と、ブルーやレッドが売れている理由を界氏は分析する。

 ボタン面に関しては「機器選択キー」「数字キー」など、それぞれの役割をもつエリアをブラックとホワイトの2色でシンプルに見やすく色分け。こうして、ボタン面のキーをなるべく目立たせないようにすることで、「表も裏も綺麗」(界氏)に見えるカラーリングに仕上げた。

●「誰もがユーザー、だからこそ難しい」 社内の反対意見を乗り越え製品化

 デザイン性を高めるがゆえに、使い勝手が悪くなってはリモコンとして意味がない。「RM-PLZ510D」は置いたまま使うという方法をあえて切り捨て、持った状態で使いやすい形状をとことん追求した。例えば、本体の重心とボディの幅、厚みを工夫し、掴みやすく握ったときのバランスがよいよう設計した。また、遠く離れた場所に置いてある機器も操作できるよう、通常1つしか搭載しないLEDを3つに増やし、赤外線を広域に飛ばせるようにした。

 ただ、製品化に向けた準備段階において、設計を担当したソニー オーディオ事業本部 第3ビジネス部門 3部 1課 シニアエンジニアの木原雅之氏は、以下のように当時を振り返る。「リモコンは誰もがユーザー。社内からは『機能面(ボタン面)を裏返して置くのはどうなのか』『置いたまま使えないのは不便ではないのか』などの批判の意見が多く出た。単純(な機器)だからこそ難しい」。さらに、「デザインが決定するまで通常のリモコンの3倍、デザインにGOが出てからも(発売まで)通常の2倍はかかった」と苦労を明かす。プロジェクト発足から製品化までおよそ2年。リモコンとしては大変長いスパンで完成まで辿り着いた経緯を語った。

●これからのリモコンのあり方は……暮らしとの融合が鍵

 最後に、今後のリモコンのあり方について質問したところ、「ユーザーの生活スタイルの変化に対応したものが出てくる」と植田氏は答えてくれた。また、界氏は「ファッション、プロダクト、建築など、トレンドは共鳴し合っているので、リモコンにもそうした点が入り込んでくる」と語る。ユーザーの日常の暮らしに溶け込ませるという視点も、これからのリモコンに求められる要素なのかもしれない。(BCN・井上真希子)