市場環境は変わっても、ものづくりの考え方は変わらない――第68回

千人回峰(対談連載)

2012/07/04 00:00

高橋 啓介

高橋 啓介

インターコム 代表取締役

構成・文/小林茂樹
撮影/小林茂樹

おもしろいことをやりながら収益を上げていければ……


 奥田 そして創業後の30年間を総括して、どんな想いを抱いておられますか。

 高橋 ものづくりの考え方は基本的には変わりません。でも、市場環境は大きく変貌しました。

 昔は、ソフトをつくってそれを売ればいいと単純に思っていましたが、ハードばかりでなくソフトの値段もこれだけ下がってしまうと、単純に売るだけでは商売になりません。創業の頃に5万円したパソコン用のソフトが、今は5000円です。iPadなどのアプリなら500円です。ですから、クラウドを通じて永続的に売っていくというやり方も併用しなければならない。

 当社のビジネスの三本柱は、クラウドによってソフトを貸し出すサービス、昔と同じようにソフトを売るサービス、そして売った後の保守サービスです。保守サービスについては、ビジネス向けのものはすべてその対象になっています。一回売ってそれで終わりにしないための仕組みですね。

 奥田 その3種類の売上構成は?

 高橋 まだオンプレミス(買取り・自社運用)が70%ほどで圧倒的に多く、サポートが20%くらい、残りがクラウドです。収益率はクラウドのほうがいいのですが、絶対額がまだ小さい。だから、オンプレミスとクラウドの両方をうまく組み合わせてやっていかないと、収益を上げるのは難しいですね。

 将来的には、オンプレミスのほとんどをクラウドサービスに置き換えていくと思います。ただし、私どもの場合、保守サポートはついてくるけれども、会計ソフトのように税率変更などによるバージョンアップで儲けることはできないので、そこのところを自分で考えていかなければなりません。いずれにせよクラウドビジネスの比重を高めなければ、企業基盤を強化することができないと思います。

 奥田 ビジネス向けとコンシューマ向けのシェアは、どのくらいですか。

 高橋 ビジネス向け95%、コンシューマ向け5%くらいです。コンシューマ向けは、卸値や返品条件が厳しく、価格も安いので、収益を上げることが難しい。だからコンシューマだけやっていたら、たぶんアウトでした。ただ、ソフトづくりとしては、コンシューマ向けのほうが業務系よりもおもしろいですよ。

 業務ソフトはやることが決まっていますが、われわれのソフトはまったく何もないところから考えていく。オリジナルの自分のアイデアをその製品に生かせるわけです。映画のエンドロールで、どんなに小さな仕事をした人でも自分の名前が出てくるのはうれしいじゃないですか。それと同じで、われわれのソフトづくりには「参加している」というおもしろさがあると思います。もちろん、おもしろいことをやりながら収益を上げていくというのは大変なことですが……。

 奥田 この先の30年は、高橋さんにとってどんなイメージですか。

 高橋 全然わからないですね。新年度のスピーチでも、私は会社の基礎をつくったから、後は皆さんで考えて、という感じでした(笑)。

 宿題として残っているのは、もう一度IPO(株式公開)に挑戦するかどうかですね。準備はかなりしてあります。コンプライアンスの問題もクリアしていますし、業績もまあまあで内部的に問題はありません。後は成長力があるということを打ち出せるかどうかだけなんです。

 奥田 商品企画の神様といわれていたんだから、お得意でしょう。

 高橋 いや、BCNさんが力を入れておられる「中国ビジネス」のような盛り上がりがないといけません。奥田さんは中国に肩入れしすぎているともみえますが、でもそのくらい凝らないとダメですね。私どもソフトウェアの世界で成長が期待できるとすれば、ひとつにはソーシャルネットワークをベースにビジネス向けアプリの製品開発を行うことが考えられます。例えば、人材採用に使われる「LinkedIn」のような感じです。

 奥田 明るい展望が開けているわけですよね。

 高橋 でも、私も64歳ですからもう引退ですよ。あくまで、希望ですがね……。

 奥田 それは私も同感ですね。ただ、BCNは昨年、一足先に30周年を迎えましたが、この大きな節目までよくやれたなという充実感を味わうことができました。

 高橋 会社の30年間生存率は、わずか0.2%ですからね。私は素晴らしい人たちに恵まれて非常にラッキーだったし、この30年は楽しかった。でも、そういうふうに思うこと自体が、歳をとったということなんでしょうね。

 奥田 お互い、どのタイミングで引退するかを虎視眈々と狙っている。ほんと、いつまで(社長を)やるんでしょうね(笑)。

「お互い、どのタイミングで引退するかを虎視眈々と狙っている(笑)」(奥田)

(文/小林 茂樹)

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Profile

高橋 啓介

(たかはし けいすけ)  1947(昭和22)年、千葉県生まれ。商事会社を経て、72年、オートメーション・システム・リサーチ(略称ASR)設立に参画、NHKの選挙速報システムの開発で通信ソフトの基本技術を習得。82年、インターコムを設立、代表取締役社長に就任。97年、情報化促進貢献で「通商産業大臣賞」を受賞。BCN AWARD通信ソフト部門12年連続最優秀賞受賞。2010年より、スタンダード&プアーズ(S&P)日本SME格付けの最上位「aaa」を2年連続で取得。今年6月、同社は創立30周年を迎えた。