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中小企業の事業承継が社会問題化、廃業する5割が黒字でもM&Aが浸透しないのは?

経営戦略

2019/08/20 18:05

 中小企業や小規模事業者の経営承継が社会問題になっている。IT業界や家電業界でも、カメラレンズなどの重要なパーツ製造を担う中小企業の経営者が高齢化し、事業が引き継がれずに廃業したりすれば、サプライチェーンの崩壊につながる可能性もある。関係者はM&Aによる承継を促すが、なかなか進まない現状に警鐘を鳴らす。

中小企業庁の資料より

650万人の雇用が失われる

 中小企業庁のデータによると、2025年に中小企業・小規模事業者の経営者の64%に当たる約245万人が70歳以上になり、70歳未満の約136万人を大きく上回る。中小企業の経営者の高齢化は待ったなしの状況だ。しかも、245万人のうち52%の127万人、日本企業全体の3分の1が後継者が決まっていないというのだ。

 この現状を放置すると、中小企業の廃業が急増し、10年間の累計で約650万人の雇用が失われ、約22兆円のGDPの損失につながる可能性があるという。

 中小企業のM&Aを軸に事業承継を提案する経営承継支援の笹川敏幸社長の元にも、多くの相談が寄せられている。

 一例を挙げれば、25年の実績を持つカメラレンズ向けの遠心分離機を製造するメーカーや、自動車に使われるパイプで高い技術力を持ち大手自動車メーカーの製造ラインの一角を担うメーカー、長期間にわたるメンテナンスや供給が重要になる航空機や耕作機械などの金属加工や金型製造を得意とするメーカーの経営者などである。

 「サプライチェーン上にある1社でも失ってしまえば、最終製品をつくる大手メーカーの経営にも大きな影響を及ぼすことになる」と笹川社長は問題の深刻さを指摘する。
 
経営承継支援の笹川敏幸社長

 しかも、これらの企業は経営内容が悪いわけではなく、いずれも業界のシェア争いをするほどの高い技術力や独自ノウハウを擁している。中小企業庁の調査では、廃業予定企業の3割強、廃業決定企業の6割強が同業他社よりも業績が良く、廃業する会社の5割が黒字とのことだ。

M&Aが進まない三つの理由

 潜在的なニーズは高いはずなのに、なぜ、第三者に承継するM&Aが進まないのだろうか。笹川社長は三つの理由を挙げる。まずは、M&Aに対するネガティブなイメージや検討することへの抵抗感、優先順位の低さなど、経営者の心理的な壁がある。

 だが、笹川社長はM&Aこそ一番初めに検討すべきことだと考える。「最初にご子息や親族を検討してダメだったらM&Aを考えるケースが多いが、本来は順番が逆のはず。第三者がM&Aをしてでも買いたいと思う事業を、大切な親族やご子息に継がせるべきではないか」と指摘する。

 二つ目の理由が、中小企業の経営者が経営を相談する接触領域が限られていることにある。地域の経営者同士の会合、地銀や信金などの地元金融機関、自社で依頼する会計事務所と限定されていて、経営コンサルタントに相談するという選択肢につながりにくい。

 最後の理由が、M&A支援機関の対応範囲のミスマッチがある。そもそも中小企業の経営者が証券会社や都市銀行などの大手金融機関にM&Aの相談に行っても、「相手にしてもらえないのではないか」という気後れがある。かといって地元金融機関に相談しても、M&A先の仲介やマッチングの領域に限界がある。引継ぎ支援センターなどの公的機関もあるが、こちらはエリアが広範囲でも扱う事業規模が小さいといった課題がある。
 
M&Aが進まない第3の理由

 こうした三つの理由を解決するために中小企業のM&Aを支援しているのが経営承継支援というわけだが、成功報酬額を中小企業の実態に即した価格に設定したり、着手金や月額報酬が不要にしたりなど、相談するための敷居を低くしている。

 一方で、全国各地の事業引継ぎ支援センターと連携しあい、全国1000超の独自ネットワークを保有することでマッチングパワーも備えている。規模についても、売上高4000万円、社員十数人の零細企業から売上高7億円の中小企業など幅広い。

 M&Aというと、大手企業同士の報酬の高いディールばかりが目立ち、報道する側も花形のスクープ記事として大きく扱われやすい。だが、企業数で圧倒的に多い中小企業のM&Aこそ、もっと敷居が低く、経営者が気軽に相談できるものにしなければならない。そうでなければ、「2025年の悪夢」が現実となってしまうだろう。(BCN・細田 立圭志)