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MaaSでシームレスな移動へ、小田急電鉄との協業を実現した「駅すぱあと」

経営戦略

2019/05/14 07:00

【「駅すぱあと」の今までとこれから・8】 経路検索サービス「駅すぱあと」を軸に次世代の移動サービスの創造を目指すヴァル研究所(ヴァル研)。1社単独ではなく、さまざまな企業とパートナーシップを組むことで実現しようとしており、その一つに小田急電鉄を中心とした企業間連携がある。小田急電鉄が目指す「小田急MaaS」にヴァル研が参加。MaaSを活用した次世代の移動サービスを模索している。

ヴァル研究所の太田信夫社長(左)と小田急電鉄の西村潤也課長

 小田急MaaSは、小田急グループ保有のさまざまな交通サービスや生活サービスをパートナー企業と連携しながら、一つのサービスとして利用者に提供するもの。システム開発やデータ連携、サービスの検討を相互に連携・協力することで、タイムズ24、ドコモ・バイクシェア、WHILL、そしてヴァル研が合意している。

 小田急電鉄では、この4社との合意に基づいて「小田急MaaSアプリ(仮称)」の開発に着手。ヴァル研の検索エンジンと連携し、小田急グループの鉄道やバスなどの交通データ、タイムズ24が提供するカーシェアリングサービスの所在地や車両空き情報などのデータ表示、ドコモ・バイクシェアのサイクルポートの所在地や自転車貸出可能台数などのデータ表示を可能にする。

 また、公共交通機関を降りた後のラストワンマイルの移動手段として、パーソナルモビリティ(次世代型電動車椅子)のWHILLとの連携も進めていく。将来的には、アプリを通じて、目的地までの移動をはじめ、目的地での楽しみ方の提案から飲食や宿泊などの予約・決済までを一括して提供するネットワークの構築を目指している。

 現在、開発を進めているアプリを活用して、19年中に箱根エリアと新百合ヶ丘・町田エリアで、利用者のニーズなどを確認する実証実験を行う。この実験では、各エリアの交通サービスの情報提供のほか、小田急グループの商業施設などとも連携して“おすすめ”の店舗や割引優待を提供するなど、公共交通機関の利用とともに商業施設などの利用も促進していく。

 小田急電鉄で次世代モビリティチームの統括リーダーを担当する経営戦略部の西村潤也課長は、「2018年4月に発表した中期経営計画で、次世代の“モビリティ・ライフ”を掲げ、20年度までにMaaSを活用したシームレスな移動サービスを享受できる生活の実現を目指している」と説明した上で、「今回のパートナーシップによって、5社それぞれが持つ強みを融合して、利用者が自由に、安心して、快適に移動できる社会を構築したい」との考えを示す。
 
「シームレスな移動サービスを目指す」と話す小田急電鉄の西村課長

 次世代の移動サービスを構想するヴァル研と小田急電鉄とのパートナーシップは、さらに強固なものとなっている。小田急電鉄が展開する、鉄道やバス、タクシーなどの交通データやフリーパス・割引優待などの電子チケットを提供するためのデータ基盤「MaaS Japan」の開発を、ヴァル研が支援することに決定したのだ。

 MaaS Japanは、小田急MaaSで開発しているアプリに対応。また、他の交通事業者や自治体などが開発するMaaSのアプリでも活用できるようにする。これによって、小田急電鉄による実証実験の対象エリア以外でも、交通事業者や自治体などがMaaSの実証実験を容易に実施できる環境整備が目的だ。

 これによって、ヴァル研は、シェアサイクルと公共交通の複合経路検索サービス「mixway」を開発した実績を生かして、鉄道やバス、タクシー、オンデマンド交通にも対応したデータ基盤の開発を進める。小田急電鉄は、小田急グループの鉄道やバスなどの交通データをこのデータ基盤に接続させるとともに、ホテルや商業施設とのシステム連携なども進めていく。
 
システム構成図

 そもそも、ヴァル研と小田急電鉄が協業したのは「将来的に描いているビジョンを含めて、“社風”が合ったから」と小田急電鉄の西村課長は言う。また、「歴史が長く信頼性の高い『駅すぱあと』を、ぜひ活用したいと考えていた」と評価している。ヴァル研の太田信夫社長は、「以前からMaaSへの取り組みに力を注いでいる小田急電鉄さんと組めるのは、大変喜ばしいこと」とかみ締める。こうしたパートナーシップによって、シームレスな移動サービスがますます実現へと近づくのは間違いないだろう。