なぜ今、専門チャンネル? 「dTVチャンネル」の狙いとは

販売戦略

2018/03/22 19:00

 「VOD全盛期の時代になぜ専門チャンネル?」―― NTTドコモが1月30日に新サービス「dTVチャンネル」をローンチしたとき、そう疑問を抱いた人は多いはずだ。そもそもドコモにはすでに「dTV」というVODの柱がある。なぜあえて今、専門チャンネルに参入するのだろうか。


1月30日にサービスを開始した「dTVチャンネル」

低コスト・スマホ主体で差異化 専門チャンネルの新しい提案

 NTTドコモは2017年まで三つの映像配信サービスを展開していた。総合コンテンツを配信するVOD「dTV」、アニメ専門のVOD「dアニメストア」、17年2月にスタートしたスポーツライブストリーミングサービス「DAZN for docomo」だ。これらを配信形態とコンテンツを軸にセグメントすると、“総合コンテンツ/リアルタイム視聴”のエリアは空白であることが分かる。
 

 「dTVチャンネル」は、この空白を埋めるサービスという位置づけだ。専門チャンネルというとプランやオプションが多彩にあるものだが、「dTVチャンネル」のサービスは1体系のみ。アニメ・ドラマ・映画・音楽・趣味など、さまざまなジャンルの31チャンネルが見放題のプランを提供する。スカパー!やJ:COMといった競合と比較すると、チャンネルの総数では劣るものの、「dTVチャンネル」には既存のサービスと決定的に異なる二つのポイントがある。

 まず、1点目が価格だ。「dTVチャンネル」は31チャンネル見放題で、ドコモユーザーであれば780円、非ドコモユーザーであれば1280円という設定。これが競合だと、スカパー!なら47チャンネルの「新基本パック」で3400円、J:COMならネット回線とセットになった32チャンネルの「スマートお得セレクト NET320M」で5505円(東京都・集合住宅の場合)となる。

 J:COMはネット回線とセットが基本なので比較しにくいが、専門チャンネルを視聴できるサービスとして「dTVチャンネル」がいかに割安であるかが分かるだろう。ドコモユーザーには、さらに「dTV」とセットで月額980円という選択肢もある。
 

 2点目は視聴デバイスだ。専門チャンネルを取り扱うサービスは基本的にテレビが主体。ここ数年、スマホやタブレット対応は進んでいるとはいえ、見逃し配信や録画番組のみというケースが多い。

 一方、「dTVチャンネル」はスマホ視聴に重点を置いている。B-CASカードや専用チューナーではなく、インターネット回線で配信しているので、すべてのチャンネル・機能がモバイル端末に対応。インターフェースもスマホに最適化されている。

 その分、テレビで視聴する場合は、サービス開始と同時に発売したセットトップボックス(STB)「ドコモターミナル」もしくはGoogleの「Chromecast」を中継する必要がある。
 

「dTVチャンネル」のサービス開始と同時に発売した「ドコモターミナル」に接続すれば、テレビでも視聴可能

スマホで“ながら見” メッセージは若者に届くか

 ここまで特徴をみていくと、「dTVチャンネル」のターゲットが明確になってくる。NTTドコモのコンシューマビジネス推進部 デジタルコンテンツサービス 映像ビジネス 内田 良隆 担当課長は「ドコモの調査によると、日本の約5000万世帯のうち2000万世帯が専門チャンネルに関心を示している。1000万世帯はすでになんらかのサービスに契約しているが、残りの1000万世帯は視聴環境や価格にハードルを感じて契約していない」と、狙っていくユーザーのペルソナを説明する。
 

ターゲットを説明する、NTTドコモ コンシューマビジネス推進部 デジタルコンテンツサービス 映像ビジネス
内田 良隆 担当課長

 記者もかつてケーブルテレビを契約していたが、現在は自宅で視聴時間を確保できなかったり、引っ越しのたびに環境を整えるのが面倒だったりで、結局、外出先でも利用できるVODに移行した。とはいえ、専門チャンネルにしかない趣味性の高いコンテンツが恋しくなることはある。自身の経験がベースではあるが、手軽に安く視聴できるなら、利用したいという層は一定数いるのだろう。内田氏は「これまで専門チャンネルに縁がなかった若者に対してもリーチできる」と、新規顧客の獲得にも意欲を示す。

 内田氏は「オンデマンド配信は作品を集中して見ることが多いが、リアルタイム配信なら“ながら見”にも向いている」と、視聴スタイルの違いにも言及。すべてのチャンネルに対応しているわけではないが、放送から2週間以内の番組の見逃し配信や、配信中の番組を最初から視聴できるスタートオーバー機能も備えており、視聴方法の自由度は高い。

 チャンネルは当面、現在の31チャンネルで運営していくが、大半のチャンネルでは「dTVチャンネル」だけの特別編成シフトを敷く。また、共同でサービスを運営するNTTぷららの「ひかりTVチャンネル+」などでは、オリジナル番組や生配信のコンテンツも配信している。今後は「dTV」とクロスオーバーした企画なども期待できそうだ。

 理解を深めると「dTVチャンネル」は非常に魅力的だ。戦略も理にかなっているし、現時点では唯一無二のサービスといえる。不安があるとすれば「専門チャンネル=ハードルが高い」というイメージを払拭できるかということだ。専門チャンネルのコンテンツの魅力を知らない10~20代なら、無料で複数のオリジナルチャンネルからなる「AbemaTV」との違いを認知させることも必要だろう。スマホで動画を視聴する行為が一般化しているからこそ、ユーザーの拡大には一歩踏み込んだメッセージが求められそうだ。(BCN・大蔵 大輔)