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NEC米沢のノウハウ吸収、生産性から品質に舵を切ったレノボ

 大手PCメーカーのレノボグループが、日本で培われた製造・品質管理技術の世界展開を本格化している。同社傘下でNEC・レノボ両ブランドのPCを製造する、NECパーソナルコンピュータ(NECPC)米沢事業場の品質ノウハウを、昨年から中国のPC工場でも採用。従来は生産性向上のためのノウハウ共有が中心だったが、今後は細部の品質をさらに改善することで、顧客満足度の向上を図る。

 レノボグループはNECとの合弁で日本市場向けのPC事業を展開しており、2015年からは「ThinkPad」ブランドの一部製品を、山形県のNECPC米沢事業場で製造している。NEC製品とレノボ製品で製造ラインは分かれているものの、製造工程やテスト工程におけるチェック項目は共通で、同じ従業員が組み立てを担当。需要に応じて、両ブランドのPCを同じ品質で柔軟に製造できる体制を整えている。
 

日本市場向けの一部レノボ製品を製造するNECPC米沢事業場

レノボ本社が品質向上で「米沢の目」を求める

 レノボとNECの協業開始以降、互いの生産技術者の間で技術交流を重ねてきたが、NECパーソナルコンピュータで生産事業部長を務める竹下泰平執行役員によると、中国から米沢を訪れたレノボ側の技術者が当初強く関心をもっていたのは、RFIDによる部材管理や製造工程の自動化など、生産性の向上に直接寄与する部分が中心だったという。

 しかし、レノボが全社的に取り組む項目として「顧客満足度向上」がより重要になっていることから、昨年より、中国で製造した日本向け製品の一部をサンプルとして抜き取って米沢事業場へ送り、米沢式のプロセスで品質をチェックし、問題点があれば中国側へフィードバックするという取り組みを開始した。レノボ本社が、生産性に加えて、品質を向上させるための知見を米沢に求めるようになったのだ。

 PC出荷台数の世界首位を毎年HPと争うレノボは、世界に約40か所の製造拠点を擁している。当然のことながら、各拠点で出荷前の検品が行われているため、所定の品質を満たさない製品が市場に出回ることは基本的にはない。しかし、「米沢の目」でレノボ製品を見ると、顧客満足度をさらに向上させられる余地があるのだという。

 例えば、製品を梱包する段ボール箱の角。ある程度の変形があっても製品自体の品質に影響はないが、箱の角がへこんでいる製品を受け取った日本の消費者は「製品の耐久性に影響するような強い衝撃を受けたのではないか」と懸念し、返品・交換を要求することもある。米沢事業場では、ユーザーにこのような思いをさせることがないよう、角がきちんと“立っている”箱で出荷するようにしている。ほかにも、ステッカーの貼り付け角度の曲がりや、わずかな指紋などがあった場合も、日本市場では品質面でのマイナスポイントとしてみられることが多い。

「朝会」にも参加してもらう

 今年に入ってからはノウハウの共有をさらに強化し、日本向けの製品をつくる中国工場の品質管理担当者が、実際に米沢事業場を訪れるようになった。この取り組みについて竹下執行役員は「日本と海外で、品質基準自体にそれほど大きな違いはない。むしろ、品質に対する考え方を共有しようとしている」と説明する。工場内で製品部門と製造部門が顔をつきあわせて改善点を議論する様子や、毎日の始業時に生産ラインのチームが集まって、前日の振り返りや当日の課題を共有する「朝会」などを見てもらい、参加してもらうことで、日本市場での顧客満足度を高めるために何を意識すべきか、ノウハウに加えてマインド面をすりあわせるようにしているという。

 中国で日本向けの製品を製造しているのは6拠点で、それらの工場では既に米沢流の知見が採り入れられているという。例えば、ライン上を流れる製造途中の製品は、USBポート周辺をゴム製のキャップで保護するようにした。テスト時等にケーブル類を接続することもあるが、ケーブル端の金属部分がポート周辺にわずかな傷をつける可能性があるためだ。ひとつひとつの改善は非常に細かい点だが、その積み重ねが顧客満足度の向上につながるという考え方だ。

 時間的・経済的なコストの増大につながる面もあるので、世界の他の工場にもこのような取り組みを拡げるかどうかは、レノボグループ本社側での判断次第となる。ただ、グローバル市場でレノボの競合となるHPやデルも、近年は上質感を強調した高付加価値のPCに力を入れていることから、欧米市場向けの製品などにも米沢のノウハウが注入されていくことは十分考えられる。(BCN・日高 彰)