<TopVision>「VR元年」で発揮される軽くて俊敏なエレコム

インタビュー

2016/10/28 17:00

 創業から30周年を迎えたエレコムは、PC周辺機器以外にも事業領域を広げている。コンシューマ事業ではVRや医療機器、ビジネス事業では産業用組み込み機器事業のエンベデッドに注力する。エレコムの葉田順治社長に、節目で何が変わったのかをインタビューした。

取材/道越一郎 BCNチーフエグゼクティブアナリスト
文/細田 立圭志
写真/川嶋久人


エレコムの葉田順治社長

創業30周年でも変わらない快適なデジタル生活をサポート

道越 2013年3月の東証一部上場から事業領域を広げていますね。

葉田 OA家具メーカーから出発したエレコムですが、やっていることは昔から何も変わりません。確かに、PCやスマートフォン(スマホ)、タブレット端末などイノベーティブなデジタル機器は変化が激しいです。とくにPCは30年、スマホは10年という感じで、(製品のライフサイクルの)期間がどんどん短くなっているので、次のデジタル機器は何が来るかを常に考えながら経営しています。

 事業を継続していくには、時代ごとに変わるマーケットに合わせていく柔軟さや俊敏さが必要です。時代の流れに乗ったIT機器を開発しつづけることが重要なのです。しかし、それらのIT機器で快適なデジタルライフのお手伝いをするという、今、われわれが提唱している「ライフスタイル イノベーション」は創業当時から何も変わっていません。

道越 次に来るIT機器は何だとお考えですか。

葉田 今はVR一本です。グラフィック系は手がけませんが、デバイスやスマホ、カメラ、モニター、ゴーグルなどさまざまな要素技術が必要なので横断的な開発体制で取り組んでいます。ただ、みなさん忘れがちなのが、デジタル機器は何でも最後は1000円になるということです。
 

IT機器は「VR」だと語る葉田順治社長

 エレコムは長いデフレ環境のなかで培った、単価下落を前提に在庫をコントロールするノウハウがあるので、価格がちょっと下がり始めたときがチャンスです。

「面倒に感じる」事業がエレコムの得意領域

道越 今年は「VR元年」といわれますが、「PlayStation VR」が出た今がちょうどいいタイミングだと。

葉田 ちょっと早かったですね。VRはハイエンドゲームPCやPS VRなどから入ったはいいけど、スマホのVRがまだ少し見えません。(グラフィック系の)技術はすぐにキャッチアップするでしょうが、半年から1年先かもしれません。エレコムの得意領域は、VRのように変化が激しく、新しい技術が次々に出てきて、しかも単価下落や在庫の問題も発生して(他社が)面倒に感じる分野です。

 ただ、面白いのは(既存の)PC周辺機器事業も売上高が落ちていないことです。新規事業に加えた産業用組み込みの「エンベデッド」もそうですが、技術者をしっかりと確保して、維持しながらまじめに製品開発を続けている企業は意外に少なく、その差が出ていると感じています

・葉田社長が語る、1兆円に向けたエンベデッドとは
 
■プロフィール
三重県出身。1976年に甲南大学経営学部卒業後、86年に家電量販店向けOA家具メーカーとして大阪市都島区にエレコムを設立。当時取締役。92年常務取締役、94年専務取締役を経て、同年11月に取締役社長に就任。PC周辺機器やネットワーク機器、スマートフォン周辺機器など、時代に合わせて事業を拡大し、近年はオーディオやヘルスケア機器も手がける。また、子会社化したロジテックなど3社で代表取締役を兼務し、産業用組み込み機器事業に注力する

・動画インタビュー トップに聞く『会社の夢』

 
 

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 スマホやタブレット関連、AVアクセサリーなどのデジタル周辺機器から、「ライフスタイル イノベーション」分野に事業を広げるエレコム。その一つが医療やヘルスケア関連だ。スマホと連携する点で、ウェアラブル端末や理美容機器は、エレコムにとって成長の見込める「IT機器」に映る。

 
◇取材を終えて
 ここ数年、技術者の社員をどんどん増やしているという葉田社長は、「これからさらに世界に打って出るためにも、軽い組織で、開発も俊敏な技術力に優れた会社にしていきたい」と語った。中期的には年間売上高2000億円を目指すエレコムにとって、フットワークの軽さと積極的な技術投資は極めて重要。その次は、1兆円規模も射程圏内だ。技術力をテコに、10個のエレコムを生み出すことになる。どんな10個の個性が生まれるのか、今から楽しみだ。(柳)
 
※『BCN RETAIL REVIEW』2016年11月号から転載