【木村ヒデノリのTech Magic #004】 中判ミラーレスカメラにまた一つ可能性が加わった。Hasselbladの交換レンズ「XCD3,5-4,5/35-75(以下、XCD35-75)」は、Xシステムで初となるズームレンズだ(「XCD」は中判ミラーレス機X1D、X1DIIで使用できるXシステムレンズ群の名称)。ズーム機能があると聞くと「初心者向けで安めのレンズ」を想像するかもしれないが、近年他社も開放値が小さいプロ向けズームレンズをリリースし注目されている。ミラーレスの特性を活かすことでズームレンズでも単焦点に迫る性能を実現したのがその大きな要素といえるだろう。

Hasselbladが展開するXCDシリーズ初のズームレンズ「XCD3,5-4,5/35-75」
 
装着すると重量感はあるものの、レンズ交換せずに1本で幅広い撮影ができるのはうれしい

 このXCD35-7は高性能で、同XCDシリーズの単焦点レンズと比べても申し分ないスペックを誇る。屋外で大きな自由度を与えてくれるこのレンズは、中判ミラーレスを外に持ち出す「フィールド撮影スタイル」をさらに加速させる1本ではないだろうか。

そもそも中判ミラーレスは何が画期的なのか?

 あまり知られていないが、中判デジタルはオートフォーカスの速度などフィールド撮影で必要な機能が意外と弱い。もともとスタジオ撮影を想定して作られているため、画質においては追随を許さないものの、外に持ち出して撮るということにおいてはフルサイズミラーレス一眼が圧倒的に使いやすい。
 
プロユースとしての位置づけであるH6Dシリーズは最大4億画素と驚異の性能を誇る

業界に衝撃を与えた中判ミラーレス「X1D 50C」

 そこに全く新しいコンセプトで投入されたのが初代X1D 50Cだ。2017年に発売され、常識を覆すコンパクトな筐体に、当時としては驚きの50万画素センサーを備え、「中判デジタルはスタジオでしか使えない」という概念を一変させた。

 さらに2019年には第2世代であるX1DII 50C(以下、X1DII)がリリースされる。難点だったバッテリー1本あたりの稼働時間やEVFの性能、タッチ画面の反応速度などを大幅に改善し、実用レベルでフィールド撮影を可能にしてくれる1台となった。
 
価格も一新され中判デジタルカメラがコンシューマーの選択肢にも入るようになった

XCD35-75はフィールド撮影体験の快適さを加速させる1本

 そこからさらに進化し、屋外での撮影体験を快適にしてくれるのがXCD35-75レンズだ。XCDレンズ群はラインナップこそ拡充されたもののどれも単焦点で、旅行などで使うには少し難があった。

 食事やポートレートを撮る時と風景を撮る時ではレンズを付け替えなくてはならないし、レンズも複数持ち歩かなくてはならない。キャンプなど限られたスペースで撮影する際には都度レンズ交換するのは面倒だ。
 
XCD4/45Pは軽量で携帯性に優れるものの、柔軟性ではズームレンズに軍配が上がる

 その点このXCD35-75であれば1本で様々なシーンに対応できる。ウェディング撮影によく使われるズームレンズが28-70mmなので、焦点距離35-75mm(フルサイズ換算で28?58mm)は風景からポートレートまで幅広く使えることが容易に想像できるだろう。

フルサイズからは想像できない中判ならではのボケ味

 一見不安なF3.5-4.5という開放絞り値も、使ってみると満足できた。フルサイズカメラに慣れているユーザーは、F値だけ見ると敬遠してしまうかもしれないがセンサーサイズが大きいとボケ味も違ってくるため、実際撮影してみるとF4.5の望遠側でも十分なボケ味が得られた。
 
35mm F3.5 1/100 ISO400
 
75mm F4.5 1/180 ISO1600

 フィールドでテスト撮影してみた写真も紹介しておこう。今回はあまりフォーカスを気にしなかったが、シビアに合わせたい人にはディスプレイとEVFの併用がおすすめだ。日中ディスプレイが見づらい環境でも、ピンチアウトで拡大した後、EVFをのぞくと外光に邪魔されない状況でフォーカスなどの確認が問題なくできる。反応速度も申し分ない。

 XCD35-75のおかげでレンズ交換もなく次々と撮影していけるわけだが、現像してみたらピントが…という状況も十分あり得るので屋外でもしっかり確認できる環境が整っているのは素晴らしい。
 
35mm F3.5 1/640 ISO100
 
35mm F3.5 1/125 ISO200
 
75mm F4.5 1/200 ISO800。キャンプのような限られたスペースでの撮影にも重宝する
 
75mm F4.5 1/320 ISO800
 
ピンチイン・アウトで即座に細部を確認可能な3.6インチディスプレイ

ワークフローの効率化をiPadアプリとの連携で実現

 加えて、Phocus Mobile IIというアプリの存在も大きい。3FRというHasselblad独自のRAWデータに最適化されたモバイルアプリで、iPadとカメラをUSB-Cで接続するかWiFi経由で接続することでRAWデータの読み込み、現像、レーティングが可能となる。

 これにより旅行中撮影したデータを移動中に現像するなど、撮影フローが大幅に効率化される。ネイチャーフォトグラファーなどプロを想定したワークフローだが、操作は簡単なので一般ユーザーが個人的な旅行の際に利用するという用途も十分考えられるだろう。
 
USB-Cで接続すればストレスのない高速読込が可能、大画面を活かしたテザー撮影もできる

単焦点に迫る完成度の高いズームレンズ

 X1DIIはフィールドに持ち出せるサイズとはいえ、単焦点レンズしか選べないことから利用シーンが限られる印象だった。しかしこのXCD35-75を組み合わせることで、他社製中判ミラーレスはもとより、従来のコンシューマー向けミラーレス一眼と比べても遜色ない撮影環境を提供してくれると感じた。うたい文句である「コンパクトズームに単焦点の性能」というフレーズも嘘ではないと思わせてくれる。

 ただ、これらの組み合わせでもミラーレス一眼として物足りない部分はたくさんある。例えば、顔認識フォーカスや動画機能、画面のバリアングル化、さらなるオートフォーカスの高速化など、確かにソニーやキヤノンと比べると粗削りなのは否めない。しかし中判という大型画像素子と広いダイナミックレンジを、フィールドで気軽に利用できるようにした功績は非常に大きいのではないだろうか。

 今回のレビューを通して改めてHasselbladの中判ミラーレス開発に対する本気度がうかがえた。ファームウェアアップデートで解禁される予定の動画機能も含め、どういったミラーレスならではの機能が実装されていくのか。今後の動向が非常に楽しみだ。(ROSETTA・木村ヒデノリ)


■Profile

木村ヒデノリ 
ROSETTA株式会社CEO/Art Director、スマートホームbento(ベントー)ブランドディレクター、IoTエバンジェリスト。

普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で1歳半の娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。

【新きむら家】
https://www.youtube.com/rekimuras
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