変わる携帯オーディオ市場、音楽専用のウォークマンとiPod touchの対決へ

特集

2011/02/14 19:11

 この1月、「BCNランキング」で、2010年12月に続き、「ウォークマン」のソニーがシェア54.6%で携帯オーディオプレーヤーの月間販売台数1位を獲得した。あくまでも音楽専用プレーヤーとして、音質や再生機能に重きを置くソニーと、ゲームやアプリも楽しめるiPod touchを主力とするアップルでは、目指す方向は明らかに異なる。iPodと同じ音楽再生機能を備えたiPhoneも売れており、この分野のシェア争いはあってないようなもの、という否定的な意見もいただいた。過去の年間販売台数シェアを紹介しながら、改めて現状を分析しよう。

ソニーが2か月連続月間1位を獲得、週次集計では10週連続トップを記録中



 1月6日に掲載した記事(ソニーが携帯オーディオで大躍進、月間・週間ともに初のシェア5割超え)の通り、ソニーは2010年8月と12月、長年1位だったアップルに代わって、携帯オーディオプレーヤーのメーカー別月間販売台数1位を獲得した。

2011年1月 携帯オーディオ メーカー別販売台数シェア トップ5
順位 メーカー 販売台数シェア(%) 販売金額シェア(%) 平均単価(円)
1 ソニー 54.6 47.2 12,227
2 アップル 40.4 51.1 17,922
3 トランセンドジャパン 1.8 0.5 3,591
4 日立リビングサプライ 0.9 0.2 3,065
5 マウスコンピューター 0.5 0.2 5,657
「BCNランキング」2011年1月 月次<最大パネル>

 今回は「1か月天下」に終わらず、翌2011年1月もシェア54.6%でソニーがトップに立ち、アップルはシェア40.4%で2位にとどまった。3位のトランセンドジャパンのシェアは1.8%。4位以下のメーカーに至ってはシェア1%未満で、上位2社による寡占化が進んでいる。前年同月比は、ソニー133.4%、アップル80.9%、携帯オーディオ全体だと101.9%で、アップルのiPodの落ち込みをソニーのウォークマンがカバーして、何とか前年並みの水準を保っている状態だ。

2011年1月 携帯オーディオ シリーズ別(※) 販売台数シェア トップ10
順位 メーカー シリーズ・型番 容量 動画再生 前月順位 販売台数
シェア(%)
1 ソニー NW-S754 8GB 対応 3 13.6
2 アップル iPod touch 32GB(4th) 32GB 対応 4 10.7
3 ソニー NW-S754K 8GB 対応 1 10.4
4 アップル iPod nano 8GB(6th) 8GB 非対応 2 9.7
5 ソニー NW-E052 2GB 非対応 6 6.2
6 アップル iPod touch 8GB(4th) 8GB 対応 7 6.1
7 ソニー NW-S755K 16GB 対応 10 5.0
8 アップル iPod nano 16GB(6th) 16GB 非対応 5 4.5
9 アップル iPod shuffle 2GB(7th) 2GB 非対応 8 4.3
10 ソニー NW-E052K 2GB 非対応 9 4.2
※同じ容量のカラーバリエーションは合算して集計
※太字は前月より順位が上がったもの
「BCNランキング」2011年1月 月次<最大パネル>

 週次集計では、2010年12月第1週(2010年12月6日-12日)以降、、2011年2月第1週(2011年2月7日-2月13日)まで、ソニーが10週連続でトップを記録。ただ、一時は19.9%まで拡大したソニーとアップルのシェアの差は、1月に入って、徐々に縮小している。


 販売金額ベースで集計すると、平均単価の高いアップルが依然としてトップだ。2011年1月のメーカー別販売金額シェアは、アップルが51.1%、ソニーが47.2%、その他メーカーが1.7%。台数ベースではソニーに14.2ポイントもの差をつけられたアップルが、金額ベースでは逆に4.0ポイント上回っている。


7年連続年間1位のアップル、シェアの最大値は2008年



 アップルは、「BCNランキング」に基づき、ジャンル別に年間で最も販売台数の多かったメーカーを表彰する「BCN AWARD」の携帯オーディオ部門を、2004年度から2010年度まで7年連続で受賞している。記憶媒体の違いによって別々に集計、表彰していた2005~2007年度は、携帯オーディオ部門(フラッシュメモリ)と携帯オーディオ部門(HDD)の2部門のダブル受賞だった。

 過去6年間の年間メーカー別販売台数シェアの推移をみると、アップルのシェアが最も高かったのは2008年。7月にスマートフォンの「iPhone 3G」、9月に動画再生に対応した細長い形状の「第4世代iPod nano」を発売した年だ。年間シェアは56.1%に達し、2位のソニーとのシェアの差は2倍近く開いていた。その前後の2007年、2009年もシェアは5割を超えている。しかし、2010年は48.2%にとどまり、4年ぶりに5割を割り込んだ。
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 対してソニーは、順位は2位のままだが、シェアは2008年の28.5%から2009年は35.4%、そして2011年は44.4%と、右肩上がりで上昇している。およそ1か月半が経過した2011年は、今のところ、ソニーがシェアトップだ。

ウォークマンとiPodは「戦っている土俵が違う」



 こうした現状に対して、ソニーとアップルの広報担当者にそれぞれコメントを求めた。ソニーは、「今まで継続してアピールしてきた『ウォークマン』の音質のよさが口コミでじわりじわりと広がり、幅広い世代に受け入れられている」と分析する。例えば、2010年10月に発売した現行の「ウォークマン Sシリーズ」では、どの色でもノイズキャンセリング機能が欲しい、というユーザーの声に応え、全機種に周囲の騒音を約98.0%カットするデジタルノイズキャンセリング機能を搭載した。こうした細かな改善・機能向上の積み重ねがシェアの上昇につながったのだろう。 


ソニーの「ウォークマン NW-S750シリーズ」

 一方、アップル側は、「(ソニーのウォークマンとは)戦っている土俵が違う」と断言。「従来の携帯オーディオプレーヤーの枠組みでのシェアの数字には、もはや意味がない」と語った。主力モデルのiPod touchの最大のライバルは、任天堂やソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の携帯型ゲーム機であり、「ゲーム業界もそれを認めている」と話す。

 転換期は2年前。iPodシリーズのなかで、音楽に加え、インターネットやゲーム、アプリを楽しめるマルチプレーヤー「iPod touch」の販売台数がトップとなったときだという。グローバル市場で変化が起きた後も、日本では長らくiPod nanoシリーズが一番人気だったが、モデルチェンジ後の2010年10月以降は、旧機種を含め、iPod touchシリーズの販売台数がiPod nanoシリーズを上回っている。 


 iPhoneを持っている友人とゲームやアプリの話題を共有するために、同じiOSのiPod touchを求める人も多いそうだ。一方、iPod nano、iPod shuffleの現行モデルは、スポーツ時に使うなど、音楽再生だけで十分と考えている人向け。iPod touchにシフトさせるため、あえてターゲットを絞っているように思える。

iPhone 4と同じ高解像度のRetinaディスプレイを搭載し、ゲーム機としての魅力が高まった新しいiPod touch(右)。iPod nano(中央)、iPod shuffle(左)は、ともにクリップ付きで、サブ機の印象が強くなった

「iPod touch」はウォークマン全体を上回る伸び率



 アップルのiPodの月間販売台数は、2010年9月以降、前年割れが続いている。しかし、iPod touchに限ると、前年同月比179%~200.7%と、前年を大きく上回っている。iPod nanoの落ち込みはカバーし切れていないが、1年前に比べ2倍近く売れているのだ。

 2010年秋のモデルチェンジ以降、ソニーとアップル、上位2社の方向性の乖離がより鮮明になってきた。従来の分類に従って集計すると、シェア1位はソニーであり、音楽専用プレーヤーとして「ウォークマン」が支持されていることは間違いない。その一方で、ゲーム機、ネット端末としての側面をもつ「iPod touch」の人気も高まっている。(BCN・嵯峨野 芙美)


*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。


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