地デジのフルセグ対応チューナーが相次ぎ登場

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2008/11/14 16:50

 地上デジタル放送(フルセグ)がパソコン周辺機器ベンダーに開放されて初の年末商戦を迎える。周辺機器ベンダーは、今年5月にフルセグ対応のチューナーを相次いで投入。発売当初の販売は物珍しさもあって好調だったが、直近の売れ行きには失速感も現れている。メルコホールディングス(メルコHD)では、「地デジ関連ビジネスは気長にやっていく」と、中長期の息の長い戦略が必要だと捉える。パソコンでフルセグを視聴するには、グラフィックボードやディスプレイなどがコピーガード機能を装備することが必要で、マルチメディア関連機器をトータルで揃える“総合力”が販売増のカギになりそうだ。

 パソコン周辺機器ベンダーにとって、フルセグは大きなビジネスチャンスである。チューナーだけでなく、フルセグ映像を処理するグラフィックやディスプレイなど、すべてにコピーガード機能を装備しなければならないため、既存の周辺機器の買い換え需要につながると期待されるからだ。

 ユーザーからみれば、チューナーだけ購入すれば気楽に視聴できる“ワンセグ”とは異なり、ハイビジョン映像を受信できる“フルセグ”の敷居は高い。一通り買いそろえると、地デジチューナー内蔵のHDD・Blu-rayレコーダーが買えてしまう価格帯になることもある。この敷居の高さが、発売当初に比べて販売を鈍らせる要因の一つ。メルコHDでは、第2四半期(7-9月)に入り、フルセグチューナーが第1四半期に比べて「ぱったりと売れなくなったので驚いた」(同社)と、本格的な立ち上がりまでしばらく時間がかかるとみている。

 メルコHDグループと激しいシェア争いを展開するアイ・オー・データ機器(IOデータ機器)は、「パソコンならではのフルセグの楽しみ方をいかに提案していくのかが今後の課題」(加藤光兼・デジタルホーム開発課長)と指摘する。メルコHD、IOデータ機器ともに、フルセグ視聴に必要なチューナー、コピーガード対応のグラフィックボード、ディスプレイなどの商材を一通り揃え、ようやく先行する家電と同じスタートラインに立った段階。パソコンならではの付加価値を打ち出さなければ、ユーザーの需要を掴みきれない。

 IOデータ機器は、複数のチューナーを搭載し、多チャンネルを同時に録画する機能を強化するなど、拡張性の高いパソコンならでは使い方を模索する。ワンセグでは、外部のネットサービスと連携し、同一番組を視聴している他のユーザーとコミュニケーションがとれる試みをしてきた。フルセグでもインターネットと親和性の高いパソコンの強みをどう生かしていくか検討を重ねる。

 メルコHDグループのバッファローは、フルセグ再生ソフトを一世代前のOSに対応させたり、受信した映像をチューナーに搭載した専用ハードウェアで圧縮し、古いパソコンでもストレスなく再生できる機能を付加。今、手元にあるパソコンで「手軽にフルセグを見たいというユーザーニーズを取り込む」(中村智仁・市場開発事業部DHマーケティンググループリーダー)ことに力を入れる。

 フルセグには制約事項も多い。暗号化されている地デジ放送を視聴するには、復号するための“鍵”に相当する特殊なカードが必要。不正コピーを恐れる放送事業者やコンテンツホルダーが求める高水準のコピーガード基準を満たすことがカード発行の条件となっている。ネットワークや携帯プレーヤーなどを介して自由にデータをやりとりするパソコンの最大の強みを生かせないケースもある。

 とはいえ、フルセグ映像の取り込みは、チューナーのみならず、グラフィック関連やメモリなどさまざまな商材の需要増に結びつく。周辺機器ベンダーにとっては総合力とパソコンならではのアイデアを生かしたビジネス展開が求められる。


週刊BCN 2008年11月17日付 Vol.1260より転載