<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第43回 都城工業高等専門学校

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2007/04/11 17:23

 宮崎県の都城工業高等専門学校(都城高専)は、2006年10月に開催された第17回全国高等専門学校プログラミングコンテスト(高専プロコン)で、課題部門の「あかんべえ─必笑!関数侍見参!─」と自由部門の「EasyCPUMaker─簡単CPU作成ツール─」がそれぞれ審査員特別賞を受賞した。ここ数年、競技部門を中心に参加してきたが、結果には結びつかなかった。今回は、実力をいかんなく発揮でき、さらに上位入賞を目指す足がかりとなったようだ。

「出るからには勝つ」が賞を呼び込む
課題部門と自由部門で特別賞


 宮崎県の都城工業高等専門学校(都城高専)は、2006年10月に開催された第17回全国高等専門学校プログラミングコンテスト(高専プロコン)で、課題部門の「あかんべえ─必笑!関数侍見参!─」と自由部門の「EasyCPUMaker─簡単CPU作成ツール─」がそれぞれ審査員特別賞を受賞した。ここ数年、競技部門を中心に参加してきたが、結果には結びつかなかった。今回は、実力をいかんなく発揮でき、さらに上位入賞を目指す足がかりとなったようだ。(國井雅子●取材/文)

●「このメンバーならいける」久々の2部門エントリー

 都城高専はこれまで、情報処理部のメンバーが競技部門を中心に出場してきたが、なかなか受賞には手が届かなかった。「このメンバーならいけると思い、卒研チームは課題部門、情報処理部は自由部門で応募することになった」と、指導教員である電気工学科の樋渡幸次助教授は経緯を語る。

 課題部門の「あかんべえ─必笑!関数侍見参!─」は、PCとWebカメラを組み合わせ、カメラの前で体を動かすとそれに反応して、画面上のキャラクター(関兵衛)が同じ方向に移動したり、いろいろな表情に変化したりと面白いアクションを起こす。

 画像処理、遠隔操作を研究する卒研メンバーが中心のチームだ。研究室の機械電気工学専攻の1年生が、オプティカルフローを用いて研究テーマが生かせるアイデアを提案し、電気工学科5年生の高橋信太郎さん、松岡徹さん、浦田怜士さんを中心に作成した。

 「あかんべえ」の処理は、カメラによってキャプチャされた動画像からオプティカルフローを取得し、そこで得られたベクトル情報を利用してパラメーターを生成する。パラメーターを用いて、関兵衛を定義しているパーツを変形させ、OpenGLを用いて描写するというものだ。

 樋渡助教授は、コンテストの参加に当たって「学生たちの能力を最大限引き出すとともに、参加するからには勝つんだという意識を持たせることが大切」と語る。

 競技部門で過去2回の出場経験をもつ高橋さんは、2005年第26回U─20プログラミングコンテストで団体部門で入賞した実力者。しかし、「Linuxで開発環境を整えたり、OpenGLで3次元プログラムを作成するなど、これまで経験したことがないものへの挑戦に時間がかかった」と振り返る。

 また、予選を通過した際には装備していなかったゲーム機能や効果音などを追加。松岡さんも浦田さんも「プログラミングの経験はほとんどなかった」と言いながらも、持ち前のセンスとチームワークで夏休みに追い込みをかけたことで、より完成度の高いものに仕上げた。

●「仮想CPU」で分かりやすく表現

 一方、自由部門がトライした「EasyCPUMaker─簡単CPU作成ツール─」は、PC上で動く「仮想CPU」を作成するツールだ。メンバーは、情報処理部に所属する電気工学科4年生の松下正吾さん、同3年生の倉園博樹さん、物質工学科2年生の大塚未来恵さん。作品は、これまで2年連続で競技部門に出場していた松下さんのアイデアだ。「CPUが好きで、以前から分かりやすく表現できたらいいなと考えた」そうだ。とはいえ、実際にどう表現していいのかと頭を悩ませたが、結果として、ほかにはない作品に仕上がった。

 システムの構成は、(1)GUIで操作する仮想CPU設計ツール「Easy CPU Maker」(2)プログラムを実行できる形式に変換する「Virtual Assembler」(3)Virtual Assemblerで作成したプログラムを実行する「General Virtual Machine」の3つのプログラムに分かれている。これらが連携しあうことで「CPUの設計」「アセンブラの作成」「プログラムの実行」を行うことができる。

 情報処理部顧問の中村博文助教授は「地味な作品ではあったが、多くの方に興味を持ってもらったことが今回の受賞につながった」とし、技術は日々進歩していくなかにあって、こういったコンテストを通じて、上級生から下級生に知識や技術を伝えていってほしいと願っている。

 チームメンバーの倉園さんは「自分が作っている部分が連携しないといけない。定義ファイルのやりとりで苦戦した」と振り返る。自分の考えていることを伝えることの大変さ、人と人とのコミュニケーションを学ぶことができたのが大きな成果だったようだ。「参加するからには勝つ」の精神を生かして、次の大会ではさらなる活躍が期待できる。

●生涯学習の基礎を築く教育を 廣瀬 寛校長

 都城高専は、「優れた人格を備え国際社会に貢献できる創造性豊かな実践的技術者の育成」を教育理念として掲げる。廣瀬寛校長は、科学は日々進化するものと捉え、「“人間性”と“社会性”に重点を置き、基本的な学力、教養を身につけさせるのが本校の務め。学生には柔軟な対応ができる生涯学習の基礎を築いてもらいたい」と教育の理念を語る。

 同校では、よりよい学校運営を目指し、学外の有識者8名からなる評議員会を新たに設けた。また、校長補佐(社会連携担当)も新設。校長補佐は、産学連携や公開講座など高専の有するリソースを地域社会に還元する役割を担い、地域との連携をさらに強めている。

 産学連携をいっそう進めるための取り組みも積極的に行っている。同校を核とした南九州圏域のハイテク異業種交流グループの霧島工業クラブとの連携に加え、06年6月には宮崎県工業会との連携協定を結んだ。

 廣瀬校長は「宮崎県都城市に位置する高専であるという地域性を生かした教育研究に力を入れていきたい」と構想を語る。

 課外活動に力を入れているのも同校の特徴。全国高等専門学校ロボットコンテスト全国大会では3年連続の特別賞を獲得した。スポーツでは、男子バレーボール部が06年開催の全国第41回全国高等専門学校体育大会バレーボール競技で全国制覇を成し遂げている。

BCN ITジュニア賞
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BCNは、未来に向けて技術の夢を育む人たちを応援します。

今年1月26日に開催されたBCN AWARD 2007/
BCN ITジュニア賞2007表彰式の模様


※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第43回 都城工業高等専門学校は、週刊BCN 2007年4月9日発行 vol.1182に掲載した記事を転載したものです。