<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第24回 米子工業高等専門学校

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2006/11/15 17:11

 かつてはコンピュータ同好会のメンバーが中心となってプロコンの競技部門に出場していたが、4年前の第13回大会(石川)から、卒研のメンバーで臨む方式に変え、現在は電気情報、電子制御の両学科にも広く呼びかけ「卒研メンバー+有志」で応募している。3年前には課題部門で審査員特別賞を受賞した。昨年、地元で第16回大会を主催し、プロコン委員として大車輪の活躍をした電子制御工学科の河野清尊助教授に加えて、電気情報工学科の西尾公裕助手が指導教員に加わり、ようやくフルエントリーが実現した。

果敢なチャレンジ精神を発揮し
知られざるデバイスの可能性を提示


 かつてはコンピュータ同好会のメンバーが中心となってプロコンの競技部門に出場していたが、4年前の第13回大会(石川)から、卒研のメンバーで臨む方式に変え、現在は電気情報、電子制御の両学科にも広く呼びかけ「卒研メンバー+有志」で応募している。3年前には課題部門で審査員特別賞を受賞した。昨年、地元で第16回大会を主催し、プロコン委員として大車輪の活躍をした電子制御工学科の河野清尊助教授に加えて、電気情報工学科の西尾公裕助手が指導教員に加わり、ようやくフルエントリーが実現した。(佐々木潔●取材/文)

●生体網膜に学んだチップで物体追跡や監視に役立てる

 茨城大会でもプロコン委員として大忙しだった河野清尊助教授に代わって、今年は課題・自由の両部門とも西尾公裕助手が指導したチームが予選を通過した。体協の公認スポーツ指導者(卓球コーチ)でもある熱血漢の河野先生の願いは、「プロコンを通して学生たちに“他流試合”を経験させたい」ということ。外の世界で自分の立場や位置がわかるような経験を積むことにより、「自分が何をどう頑張らなければならないか」知ることができるようになるからだ。一方、西尾先生は、生体の視覚システムに学んだ動き検出機能のアナログ集積回路化、つまり視覚センサーの俊英として将来を嘱望されている。

 今大会では入力装置にセンサーを利用した作品が多かったが、とくに意欲的だったのが米子高専の課題部門「行け行けゴーゴー追跡隊」と、自由部門の「Watcher」であった。今回、両チームは西尾先生の研究テーマである網膜・脳機能に学んだビジョンチップの応用に取り組んだ。人間や動物は外界からの画像を網膜に投影し瞬時に動画処理を行っているが、コンピュータではその画像を膨大な数の直列演算で逐次処理することしかできず、外界の画像を即時に処理することができない。

 そこで西尾先生は外界の画像のエッジが動いたときだけパルス信号を発生するビジョンチップの原理をシステム化した。ただし、このチップはLSI化されているわけではない。同校の学生たちは、これを大胆にも物体の追跡や監視に使うことを考え、さらにはゲームに仕立て上げようと挑戦したのであった。

 例えば「行け行けゴーゴー追跡隊」では、このビジョンチップに物体に追従する機構を加えて入力部とし、センサーが感知し追尾したときの信号をAD変換してPCに送り、この信号をもとにゲームをつくれないかと考えた。実際には、センサーが感知できる範囲に横幅2メートルほどのフィールドを設置し、プレーヤー(子供)の身体にライトをつけてセンサーの反応を誘い、PC画面内を落ちてくる敵から逃げたり撃ち落としたりするインベーダーゲームに仕立て上げたのだった。専攻科2年の松坂建治さんがデバイス・ハードウェアを担当し、これを卒研のテーマとする5年生の斉藤太巳さんと渡辺恭大さんがプログラミングに取り組んだ。

●動き感知センサーが開く、未来の生活支援システム

 一方、自由部門の「Watcher」はその名の通り動き感知センサーを用いた監視システムで、やはりビジョンチップによる動き検知機能の電子回路を用いて、コンピュータの動画処理の遅さをカバーしつつ、このシステムを防犯システムや一人暮らし支援システムなどに応用するための原型となるモデルを示した。まず、センサーが動体をキャッチすると制御部を通して掲示板(LCD)・スピーカー・移動体部に信号が送信され、それぞれが警告メッセージや警告音、写真撮影を行うというもので、会場のブースでは家屋の模型を使ってその動きをデモし、審査員の目を引きつけた。ここでいう一人暮らし支援とは、帰宅したときにロボットのペットが「お帰りなさい」と玄関に出迎えてくれるようなシステムをイメージしたものだ。メンバーは昨年も出場した3年生の田野弘之さんを中心に、4年生の井上翔太さんと5年生の佐々木慎吾さん。

 大会初日のプレゼンはまあまあだったが、ビジョンチップに対する世間の知識や関心がそれほど高くなく、システムの持つ意義を十分にアピールできなかったこと、そして作品が将来のシステムの可能性を示すにとどまったことなどから、課題・自由両部門とも惜しくも敢闘賞にとどまった。それでも、応用例の少ないデバイスの可能性を示すべく、果敢にチャレンジした両チームの勇気は賞賛に値するし、何よりも自らの技術者や研究者としての将来を切り開く有力な手立てとなるに違いない。

 会場には遠路はるばる駆けつけて陰から祈るように展示ブースを見守る水島校長の姿もあった。

●技術者としてプレゼン能力を磨け 水島和夫校長

 米子高専の水島和夫校長は、「これからの高専生は技術力に加えてコミュニケーション能力を高めなければならない」と強調する。赴任したのは昨年の秋からだが、同校では以前から卒業研究の発表会を、地元米子市(鳥取県)の商工会議所等を借りて、関係者以外にも聞いてもらう試みを実施してきた。それは自己表現力やプレゼン能力でもあり、就職試験や大学編入試験の面接時にも試される。したがって、実践的技術教育を行うなかで、常に他者や周囲からの理解を得る努力を重ねている。

 同校は他校に少ない物質工学科と建築学科をもつ関係で、女子学生の比率が高い。本科(5学科)全体の女子比率は21%だが、上記2学科に限れば実に41%に及び、全国でもトップクラスだと思われる。出身中学も他校に比べると幅広く、島根・岡山・広島・兵庫など他県出身者が15%を超えている。

 今春の本科卒業生は、約7割弱が就職した。王子製紙米子工場や日立金属安来工場など大手を含め、就職者の2?3割が地元に定着するという。

 高専機構主催の3大コンテストでは、建築学科をもつ関係からデザコンは創設以来の常連校、ロボコンも準優勝の経験があり、残るはプロコンでの活躍。昨年からはフルエントリーできる実力も身につけ、入試面接でプロコンに出場したいという中学生も現れるようになったそうだ。

BCN ITジュニア賞
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BCNは、未来に向けて技術の夢を育む人たちを応援します。

今年1月27日に開催されたBCN AWARD 2006/
ITジュニア賞2006表彰式の模様


※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第24回 米子工業高等専門学校は、週刊BCN 2006年11月13日発行 vol.1162に掲載した記事を転載したものです。