「うつわのような佇まい」がコンセプトの象印STAN.シリーズは出しっぱなしでもキッチンに馴染むデザインがポイント!
デザインビジョンは「くらし やさしく、ここちよく」
STAN.シリーズのプロダクトデザインを担当したのは、クリエイティブユニットTENT。前述したようにSTAN.シリーズのデザインコンセプトは「うつわのような佇まい」で、このコンセプトについてTENT代表取締役の治田将之氏は次のように語った。「炊飯ジャーのデザインを依頼されたとき、たまたまユーザーの方から使用中は炊飯ジャーをキッチンに出しておくけど、使い終わるとしまうという話を聞きました。ものづくりに携わる者にとっては残念な気持ちになりました。しかし、食器のようにキッチンに馴染んだデザインであれば、しまわれずにキッチン全体の風景の一つになるのではないかと考え、そこを軸にしてデザインを展開しました」
実際に部屋やインテリアの写真共有サイトであるRoomClipには、STAN.シリーズの製品が置かれたキッチンの写真が数多く投稿され、STAN.シリーズのコンセプトが伝わっていることを同社も治田氏も実感したという。
新製品の電気ケトルでは通常、水量を示す窓が本体に付いているが、「シンプルにまとめたいと考えたときに窓はあまりに主張が強い」と考えて窓をなくした。加湿器は前述のとおり、触ると操作キーが浮かび上がるようにしてノイズのないデザインとなっている。
象印では外部のデザイナーとのコラボだけでなく、社内でもデザイン面を強化するため、2022年に『くらし やさしく、ここちよく』というデザインビジョンを策定。同時にこのビジョンを商品に表現していくメソッドとして設定したのが、『やさしさのカタチ』だ。
デザインビジョンは時代に沿って柔軟に変化
同社の岡島忠志商品企画部デザイングループ長は、「『やさしさのカタチ』は、おもいやり、きびしさ、つよさ、なじむ、うけつぐ、かわるという6つのキーワードから成り立っています」と語る。
前半の3つのキーワードは使う人のことを考えて、製品を厳しくチェックして長く使えるようにするためのもの。後半の3つは「生活に溶け込んで象印らしいものづくりの姿勢を伝承し、ときには変化もアリということを表しています」と岡島氏は解説する。
近年、表面がマット調でやさしい質感を持った製品が増えており、岡島氏は「弊社のデザイナーも『やさしさのカタチ』を取り込んだデザインを指向するようになってきています」という。
また、製品の色についてはモノトーンが主流になってきているが、同社ではたとえ白と黒でも他社製品とはニュアンスの異なるこだわりを持ったカラーにしているとのこと。「象印の家電は、家電っぽくなくなってきたなと感じていただけたら嬉しいですね」と岡島氏は結んだ。
キッチン周りの家電製品は基本的な用途や機能がある程度決まっており、デザイン面ではどのメーカーもさしたる違いはないと思われがちだ。だが、象印はユーザーの使い心地やキッチンとの親和性も高い“暮らしの道具”として家電製品をデザインしている。
単に見た目だけにとどまらない同社のデザインはSTAN.シリーズが体現しているが、今後発売する製品にも確実に同社のデザイン思想が盛り込まれているはずだ。家電量販店の売り場では、このような観点で改めて象印の製品を見てみよう。(BCN・風間理男)





