岸田首相が導入すべきテレプレゼンス・ロボット

オピニオン

2022/08/28 18:30

 岸田首相のリモート会見がシュールだといって話題だ。新型コロナウイルス感染症にかかった岸田首相。幸い重症化は免れ、早々に公邸でのリモートワークで公務に復帰した。外部との接触なしにコミュニケーションするため、公邸と首相官邸を光ファイバー回線で結び、特別なオンライン会議システムを構築。療養期間中でも感染の恐れなく、通常通り記者や来訪者とやり取りできるようにした。記者会見の様子は、中央に首相が映し出される大型モニター。その左右にロープを張って設けたスペースに記者がたまり、マイクに向かって質問をするというスタイルだ。首相はオンラインなのに、なぜか記者は現場に集まってモニター越しに質問を投げかける。これが名ばかりデジタルのアナログでシュールな光景だというのだ。

岸田首相のモニター越しの記者会見を取材する記者
(出典:首相官邸Webサイト)

 コロナ禍の昨今、ほとんどの記者会見は当たり前のようにオンラインで開催されている。発表者もオンラインなら、取材する記者もオンライン。さらに発表者も記者もいずれも自宅から、ということもあるほどだ。首相会見はなぜこうしたフルオンラインでできないのか、との疑問、というか不満が投げかけられているわけだ。今回の会議システムはセキュリティの関係上、公邸と官邸を閉じた光回線で結んでおりインターネットとは接続できない。だから記者には現場に集まってもらい、来訪者にも官邸に来てもらいながらも、モニター越しに首相とやり取りする仕組みにしたという。

 個人的な感想を申し述べるなら、首相のリモート会見の様子は、とてもサイバーな感じに見えた。少し前に思い浮かべた近未来の世界が目の前で展開している、そんな印象だ。大きな会議で出席者に交じってモニターが置かれ、そこに遠隔からの出席者が映っている様子と似ている。しばらく前に流行ったテレプレゼンスというコンセプトが現実のものになっているよう、でもある。ただ、ディスプレイが置かれているだけでは、残念なことに存在感が全く物足りない。

 テレプレゼンスとは、遠隔地に居ながらにして、あたかもその場にいるような存在感を醸し出すことで、コミュニケーションをより円滑にしようとする考え方だ。実際にはテレプレゼンス・ロボットに応用され実用化されている。ロボットといっても、現状では動き回るディスプレイにすぎない。タイヤを仕込んだ土台から支柱が生えており、その先にディスプレイがくっついていて、そこに遠隔地にいる人の姿を映し出す。単純な構造だが、通常のビデオチャットとは異なり、若干の存在感が生まれてくるから不思議なものだ。装置自体が動き回ることが多少影響しているのかもしれない。ゆくゆくはこれに手が生え足が生え、人間さながらのボディも獲得して、本当にその人がそこにいるような存在感あふれる装置になっていくことだろう。
 
テレプレゼンス・ロボットの例。
デンマーク・GoBe Robots(旧 米・Suitable Technologies)の
Beam(CES2017)

 首相のぶら下がり会見といえば、官邸に出入りする際に歩きながら受け答えする光景がおなじみだ。この際、テレプレゼンス・ロボットを使ってモニターに岸田首相の顔を映しながら、首相官邸を出入りさせればいい。声をかけてきた記者に、一旦止まって向き直って応えるなどすれば一層リアリティが生まれる。気にくわない質問なら投げかけを無視して足早に無言で通り過ぎることもできる。岸田首相にはぜひこのテレプレゼンス・ロボットの導入をお勧めしたい。さすがロボット大国、不思議の国日本。首相が感染症にかかってもリモートでロボットに乗り移りバリバリ仕事をしていると、海外からも話題になること請け合いだ。(BCN・道越一郎)