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コロナ禍がポケモンGOに落とした影、売り上げと引き換えに背負ったリスク

 現実の世界とゲームの世界を結び付けて遊ぶ位置情報ゲーム(位置ゲー)。その認知を爆発的に広めたのがポケモンGO(ポケGO)だ。2016年にサービスを開始して以来、この7月で丸5年が経過した。一時の熱狂的なブームは去ったものの、米・Sensor Towerの推計では、累計ダウンロード総数は6億3200万。獲得した売り上げは50億ドル、日本円でおよそ5500億円にも上る。国別の売り上げ構成比では、米国が36.6%とトップで日本が32.0%で2位。3位のドイツでは5.4%と構成比がガクンと落ち、日米2か国で7割近い売り上げをたたき出している。

現実世界とゲームの世界を融合させるポケモンGO、街に降り立った相棒のニョロトノ

 20年初頭から世界に広がった新型コロナウイルス感染症にともなう外出自粛を求める動きは、外を歩き回ってポケモンを捕まえる、というコンセプトのポケGOにとっては逆風だったはずだ。しかし、今年の上半期は、6億4000万ドルを売り上げ、昨年の上半期比で34%増、2017年上半期比では130%増を記録。勢いよく売り上げを拡大させている。上半期の売り上げ推移をみると、昨年は例年通りの伸びを示しつつ、今年の伸び率が最も大きかった。その要因は、ゲームを運営するナイアンティックが昨年7月に導入した「リモートレイドパス」にあるといわれている。
 

 ポケGO最大の特徴は、現実世界とほぼ同じ地図上に登場したポケモンをプレーヤーが捕まえに行くという点にある。自宅に引きこもっていては楽しく遊べない仕組みだ。また、街中の特徴的な建物やモニュメントなどがある場所に設定されている「ジム」では、ユーザー同士が協力して戦うことで珍しいポケモンを倒して捕まえることができる「レイドバトル」が時折開催される。位置ゲーであるため、このレイドバトルに参加するにも、ジムのある場所まで出かけて行かなければならない。

 しかし、新たに導入された「リモートレイドパス」を使えば、その場所に行かなくても、マップ上で見える範囲なら、バトルに参加できるようになった。さらに、友人から招待されれば、世界中のどこのレイドバトルにも参加できるようになった。位置ゲーのコンセプト否定にもつながりかねない仕様の大幅変更だ。リモートレイドパスはゲーム中に無料で入手することも可能だが、1つ100ポケコイン(1ポケコイン=約1円)、3つで250ポケコインと基本的には有料。なかなか手に入らないポケモンを実際にその場所に行かなくても入手できるとあって人気化、売上が積みあがった。この新システムが今年の上半期の売り上げを大きく伸ばした要因ではないかと考えられている。コロナ禍で移動制限がかかっている国や地域が多いことから導入されたシステムだが、意外にも多くの売り上げを稼ぐ結果になった。
 
収益を一気に押し上げた「リモートレイドパス」

 コロナ禍対応で、ジムなどに届く範囲も通常の倍に拡大された。以前はジムの半径40m以内に近づかなければ、ジムバトルに参加することがてきなかった。現在は半径80mまで範囲が広がっている。狭い範囲に人が集まらないよう、密を避けるための施策ともいえる。ゲーム進行に必要なアイテムを得るための「ポケストップ」も同様だ。半径80mの範囲なら、アイテムを得ることができるようになっている。しかしこの7月、欧米の爆発的な感染状況が終息に向かい始めたのを機に、運営側はこの距離特例を終了させ、範囲を40mに戻すとアナウンスした。これには、世界中のユーザーから大きな不満の声が相次いだ。多少距離が離れていても、ジムやポケストップにアクセスできるのはメリットが大きかったからだ。その声を受け入れ、結局80mの距離特例は今後も継続することになった。
 
2016年7月にスタートしたポケモンGOは5周年を迎えた

 位置ゲーの本質は「実際にそこに行かなければならない」ということに尽きる。ユーザーに対してはあえて不便を強いるが、だからこそ、実際に人流を生み出せる画期的なシステム、ということもできる。リモートレイドパスも距離特例継続も位置ゲーのコンセプトにそぐわない仕様変更。自ら課した制限を自ら緩めるというマッチポンプでユーザーを喜ばせる結果になった。実際に人を移動させる力は、将来的に莫大な収益をもたらす潜在的な力を持っている。その力を弱める方向に進もうとしている。コロナ禍を経たニューノーマル対応と言えるが、ナイアンティックは、将来的な収益源を失うリスクを負うことにもなった。位置ゲーの将来に、コロナ禍がどのような影響をもたらすのか。これから徐々に明らかになっていくだろう。(BCN・道越一郎)