• ホーム
  • トレンド
  • 宇宙からスマホにダイレクト通信? 楽天・三木谷会長が打ち上げた、もう一つの「アポロ計画」

宇宙からスマホにダイレクト通信? 楽天・三木谷会長が打ち上げた、もう一つの「アポロ計画」

 2019年のスペイン・バルセロナで開催されたモバイル通信見本市「MWC Barcelona 2019」で楽天の三木谷浩史会長兼社長がぶち上げた「携帯電話業界の『アポロ計画』」は、汎用サーバーを使ったクラウドとソフトによる完全仮想化ネットワークで5Gに対応する構想について語られたものだが、もう一つ、宇宙から直接、ユーザーが現在持っているスマートフォン(スマホ)で通信できる衛星通信ネットワークの構想もあったようだ。20年3月3日の携帯キャリア事業参入のネット会見で明らかにした、楽天と米AST & Scienceの戦略的パートナーシップの締結がそれだ。

宇宙の通信衛星ネットワーク構想を語る楽天の三木谷浩史会長兼社長(画像は楽天提供)

人工衛星でエリア問題を解決

 周知のとおり、今年の「MWC Barcelona 2020」は新型コロナウイルスの影響で中止となり、昨年の大会で注目を浴びた楽天も参加を取りやめた。本来ならこの場で、米ASTとの事業提携を大々的に発表したかったのだろう。今回の会見で示された1枚のスライドからもその思いは伝わった。「100%エリアカバレッジの実現へ」として、日本列島全域を宇宙から降る楽天モバイルのコーポレートカラーのピンク色で覆いつくしていたのだ。

 三木谷会長は「宇宙空間上の衛星通信ネットワークを構築する。(地球上の)どこにいても利用可能で周波数に影響されない、100%のグローバルカバレッジを実現できる。台風やハリケーンのような自然災害や緊急事態でも通信ネットワークを確保できる」と語った。
 

 楽天モバイルの携帯キャリア(MNO)事業の参入では、屋外基地局の建設の遅れなどで総務省からたびたび行政指導を受けてきた。会見で楽天モバイルの山田善久社長は、基地局について計画を大幅に前倒しして進捗していることをアピールするとともに「人口カバー率ではなく、人が住んでいないエリアはASTとの実現で早期に進めていきたい」と語った。

 たとえ人口カバー率を高めることができても、過疎地などの空白地帯は残る。それを宇宙にある通信衛星で、一気に解決しようというわけだ。ちなみに、基地局は20年3月末に当初計画値の3432を上回る4400を建設する見込みで進んでいるという。
 

市販のスマホでも使える

 現在、楽天モバイルが約2万5000人の無料サポータープログラムでサービス提供しているのは東京23区、名古屋市、大阪市、神戸市に住む人に限られている。3月3日から先着300万人で新規受付を開始した1年間無料の新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」では、主要都市以外のエリアはパートナーのKDDIau)のローミング接続に頼らざるを得ない。無料期間の1年で、どれだけ自社エリアを拡大できるかが新たな課題となる。

 そこで米ASTの、サービス名も文字通りの「SpaceMobile(スペースモバイル)」が登場する。米ASTは、低軌道人工衛星から低遅延な信号を送る衛星通信ネットワークの特許技術や知的財産を保有する。ポイントは、専用の携帯端末ではなく、現在市販されているスマホで直接通信ができるところ。楽天モバイルへの乗り換えが簡単にできる仕様を想定しているようだ。

 人工衛星とスマホの間に特別な衛星通信機器を介する必要はなく、衛星による通信と地上のモバイルネットワーク間でシームレスなローミングが可能だという。しかも、初期段階は4Gの提供準備を進めるが、5Gサービスの提供も予定する。気になるデータ通信料も、地上のローミング価格と同程度になるという。

 既に19年4月に試験用人工衛星の打ち上げに成功しており、米FCC(連邦通信委員会)から実験用ライセンスも取得。軌道上を周回しながらの実証実験が行われている。SpaceMobileがターゲットにする市場規模は、世界の携帯ブロードバンド推定市場の約100兆円。携帯電話を持つ50億人と、エリア外の10億人。地球規模の壮大なビジネスプランを掲げる。

 ASTのアーベル・アヴェランChairman兼CEOは、100%のグローバルカバレッジに自信を示し、特に台風や地震など自然災害時でも通信ネットワークが確保できる点をアピールした。またECにアクセスできない人もアクセスできるようになり、過疎地など地方におけるブロードバンド環境も確保できる。
 

 ただ、現状のBSや110度CSデジタルなどの衛星放送でも雨など空が雲で覆われると受信状況が不安定になるが、低軌道人工衛星なら問題がないのかどうかについては示されなかった。もっとも、こうした技術的な壁よりも、各国の法律との調整などがハードルとなりそうだ。

 今回のASTの事業を、楽天は英ボーダフォンと共に出資する形で支援する。具体的な商用化の時期は示されなかったが、世界初の発表となった宇宙から送信する携帯ブロードバンドネットワーク構想が今度、どのように発展していくのか楽しみにしたい。(BCN・細田 立圭志)

オススメの記事