低迷するカメラ市場が復活するきっかけになるかもしれない。キヤノンは2月13日、カメラと直接つなげるクラウドプラットフォーム「image.canon」を4月に開始すると発表した。新サービスでは、カメラで撮影した画像を直接ネット上にアップロードできるようになる。これまで同社が提供していた「CANON iMAGE GATEWAY オンラインアルバムサービス」から切り替える。カメラから自社サーバーにWi-Fi経由で直接画像を転送。スマートフォン(スマホ)などで閲覧できるようにするほか、Google Driveなどの外部サービスへの自動転送も行う仕組み。地味なリニューアルだが、大きな意味を持つ。

カメラにSIMを挿して画像ファイルをリアルタイム転送……そんな時代の到来は目の前だ

 スマホに押されてカメラ市場は青息吐息だ。CIPA(カメラ映像機器工業会)が発表した2020年の出荷台数見通しでも前年比21.7%減と大幅な後退を予測するほど厳しい。スマホが優位に立っているのは「すでに持っている機器で十分な写真が撮れる」という強烈なアドバンテージがあるからだ。写真の閲覧や共有など撮影後の画像データの扱いに手間がかからないことも大きなメリットだ。何も考えず、自動的にクラウド上のエリアにバックアップすることもできる。回線を持つ電話であるからこその手軽さ。写真を閲覧するためにカメラからメモリカードを取り出して、パソコンやスマホに転送する必要があるカメラとは大違いだ。

 あるカメラユーザーは「カメラで撮ったほうがきれいなことは分かっている。でも撮った後が面倒。それならスマホのほうがいいじゃん、となる。写真もまあまあきれいだし」と話す。SNSをはじめとしたネットとの親和性では決定的にカメラが劣っているのが現状だ。一番のネックはカメラが直接ネットにつながらないことだ。一旦パソコンやスマホに転送するとなると、手間は意外に大きな障害だ。1枚2枚ならまだしも、撮影枚数が増えれば増えるほど、この手間は苦痛になる。特殊なアダプターを介してネットに直接上げることもできるが、そこまでするのは、ほんの一握りのユーザーにとどまるだろう。

 これまでも、直接ネットにアップロードできるカメラは存在したが、通信速度の問題や、通信先との接続問題で普及しなかった。Wi-Fiのスピードアップに加え、将来的には5G接続も視野に入ってきた現在、ネットへの画像リアルタイムアップロードは現実的になってきた。しかも、受け皿をカメラメーカー自身が用意することで、より確実に通信ができ、外部サービスとの接続性を維持することも難しくなくなる。普通のカメラから、クラウドに直接画像をアップロードできるようになると、別の世界が開ける。キヤノンの新サービスはまだWi-Fiでしか使えず、利便性はさほど高くない。しかし、5Gの普及と相まって、カメラが直接5G回線につながり、少額の利用料で高速に画像の送受信ができるようになれば、話は別だ。今流行の「サービスとしての何とか」の流れに乗ることができる。サービスとしてのカメラ、CaaS(Camera as a Service)だ。
 
クラウドプラットフォーム「image.canon」のアプリ画面

 カメラメーカーは、カメラを供給するハードメーカーだけでなく、カメラを発端にした写真・映像サービスの提供会社に生まれ変わる。5G回線のあっせん・提供や画像を受け取るクラウド環境の提供、受け取った画像の高速現像・加工といった後処理など、写真にまつわる一連のサービスから収益を得るチャンスが生まれる。収益モデルは月決めなどで定額料金を徴収する、いわゆるサブスクリプションモデルだ。

 強力なパワーを持ったサーバー上での処理を前提とすれば、カメラで撮ってすぐにスマホで閲覧というスタイルが可能になる。撮影したRAWファイルは常にクラウドに送信され、クラウド側でJPEG画像への現像だけでなく、複数画像を合成した手振れ補正や、露出補正やホワイトバランスをAIでコントロールして常に適正に近い状態に加工して返すなど、写真の利便性が一気に向上する期待が高まる。明らかな失敗ショットの自動削除や、ベストショットの自動レコメンドなどが、リアルタイムでできるようになる。スマホの利便性に近づく。カメラメーカーがこれまで蓄積してきた画像処理のノウハウをデジタル化してシステムに投入すれば、スマホを超えることもできるかもしれない。

 カメラメーカーはおしなべて真面目だ。光学性能を追求したより高機能のレンズを開発し続ける姿勢は、一ユーザーとしては頼もしい限りだ。しかし、問題を光学的に解決することにこだわっていては、レンズの大型化、高価格化は一層進むばかりだ。普通の人が日常的により美しい写真を楽しめるようにするには、撮影後の画像処理、一定機能のレンズをセットで考える必要がある。その際にエンジンになるのが、カメラでの画像処理とクラウド上での処理だ。やり取りを5Gの高速通信が支える。カメラが高速通信と頭脳を得たとき、新しい可能性が生まれる。(BCN・道越一郎)