トラを間近で撮る触れる

オピニオン

2019/06/30 17:00

 タイには生きたトラと触れ合える施設がいくつかある。バンコクから車でおよそ2時間、パタヤビーチから車で30分ほどの場所にあるタイガーパークパタヤもその一つだ。およそ600バーツ、日本円で2000円ほど支払うと、生きたトラと同じ檻に入り、15分程度トラに触れたり写真を撮ったりすることができる。貴重な体験ができるとあって観光客の人気も高い。

 しかしタイでは2016年、トラを抱いて一緒に写真が撮れると有名だった仏教寺院タイガーテンプルが、劣悪な飼育環境や虐待行為を原因に閉鎖に追い込まれたという事件が起きている。あれから3年。今タイでは、健全な環境でトラを撮ったり触れたりすることはできるのか。この5月、実際に訪れて確かめてきた。

 タイガーパークパタヤでは、生後1カ月(New born)から3歳(Big)まで五つの年齢層のトラを対象に、客に触れさせたり写真を撮らせたりしている。年齢層別に料金が決まっており、最も安いSmall(生後6カ月~1歳)が599バーツ、最も高いNew bornが899バーツ。そのほか、複数の年齢層を組み合わせたパック料金もある。

 今回は、1299バーツ(約4500円)でBigとSmallのトラと遊んでみることにした。実際にトラとふれあえる場所は、鉄格子を張り巡らせた小さな広場、あるいは大きな檻だ。入り口は2重の扉で区切り、触れれば感電する電線張貼って、トラが逃げ出さないよう管理している。
 
生後8カ月のトラと。まだ子どもとはいえ意外に大きい

 トラと触れ合う広場は、同時に3組までしか入れない。4組目からは檻の外でしばらく待つことになる。待つ間、トラの前足より下は足もしっぽを触っても大丈夫だが、前足より上や顔には触れてはいけない、正面からは近付いてもいけない、と警告を受けた。ほどなく係員に案内され中に入った。最初はSmallのエリアだ。

 人間も電線に触れると感電するため、またいで中に入る。またぐ都度、係員から危険だから気をつけるようにと必ず注意される。中にはトラが5~6頭、広場に散らばっていた。そのうちの1頭に案内された。トラの後ろに座るよう指示される。言われるがままに、恐る恐る座っているトラの後ろに座る。生後8カ月だというが意外に大きい。

 胴体を触ると、すべすべとして毛並みは良かった。体は清潔で、食事も飼育環境も悪くないように見えた。胴体や足、しっぽを触ってもおとなしい。しかし、薬を使っておとなしくさせているようには見えない。係員は時々小さな木の棒で威嚇するフリをしながらトラを誘導しながら、いろんなポーズを引き出して写真を撮ってくれた。

 次はBig。生後2年だという。さすがに大きくかなり恐怖心をおぼえたが、幸いかまれることもなく、無事に撮影できた。
 
2歳のトラ。カメラを構えるとしっかりポーズをとってくれた。
撮られ慣れている感じだ。奥には寝ているトラも

 広場の中央にプールがあり、トラは自由に水浴びもできる。一日中、観光客の相手をしなければならないことを考えると、相応のストレスはありそうだ。しかし、どのトラも体の状態はとてもきれいで清潔だった。多少体に傷がある個体もあったが、どうやら仲間とのケンカでできた傷のようだ。

 人間と触れあう場所以外でも、トラは多数飼われている。その檻は多少狭く窮屈だが、広場に出たり、隣の檻に移動したりすることもできる。最高の環境ではないかもしれないが、日本の一般的な動物園で飼われているトラよりも自由度は高そうだ。タイの物価を考えると、トラと触れあう料金はかなり高額だが、それに見合った環境だと感じた。
 
さすがネコ科。仕草はネコそっくりだ

 仏教寺院タイガーテンプルは、劣悪な飼育環境だけでなく、漢方薬の材料にすることを目的とした繁殖も大きな問題になり閉鎖された。こうした施設はもとより言語道断だが、トラと触れあうことだけでも悪なのだろうか。動物愛護団体は、一緒に写真を撮ることすらトラにとっては大きな苦痛であり、人工的な環境について本来野生のトラが生きるべき世界ではないと訴えている。

 確かに、その通りかもしれない。世界自然保護基金(WWF)によると現在、野生のトラは世界でおよそ3900頭まで減り、絶滅の危機に瀕しているという。タイはインド、マレーシアに次いでトラの個体数が多い国だが、確かにタイガーパークパタヤがどこからトラを調達したのかは分からない。
 
人と触れ合わない2軍でも、プールがある広めの檻で生活しているトラもいる

 一方、タイガーパークパタヤでは販売や交換を目的として育てるいわゆる「トラ農場」ではないと主張している。子どものうちから人間と一緒に育て、専門家が訓練して人々とトラが共存できるようにする施設だという。彼らの主張がすべて事実としても、野生とはほど遠い環境であることに違いない。

 しかし、一歩間違えばかみ殺されるかもしれない彼らと触れあうことで、大きな感動を覚えた。自分も彼らも同じく生きているという強烈な感覚だった。ネットサーフィンでは決して味わうことのできない、生々しいアナログの感覚だ。清潔で良好な飼育環境が維持できるのであれば、こうした施設も意義あるものだと感じた。(BCN・道越一郎)