ソニーの携帯オーディオが、2010年8月の「BCNランキング」メーカー別販売台数でシェア47.8%を獲得し、44.0%のアップルを抜いて1位に躍り出た。アップルiPodシリーズの新製品発売前で、ユーザーが買い控えた時期だったとはいえ、健闘した。その後、再びアップルが1位を奪還しているが、その背後にソニーが着実に迫っているのは確かなところ。いま、ウォークマンが目指すものは何か。ソニーマーケティングの中牟田寿嗣コンスーマーAVマーケティング部門パーソナルAVマーケティング部統括部長に聞いた。

 「BCNランキング」のメーカーシェア1位になった理由を、中牟田統括部長は、「販売店の皆さまがウォークマンの価値を理解してくれたおかげだと思っている。製品が売れれば、売り場を新しくつくってくれる。こうした地道な取り組みがブランドの認知度を上げ、販売につながった」と振り返る。8月はiPodの新製品発売を9月に控え、アップルはちょうど新旧の製品が入れ替わる時期だった。「外的要因は常にある。それでも、かなりのペースでアップルに追いついてきていると感じている」と自信をみせる。

ソニーマーケティングの中牟田寿嗣コンスーマーAVマーケティング部門パーソナルAVマーケティング部統括部長

 実際、ソニーの追い上げには勢いがある。直近3年間(07年10月-10年10月)の販売台数の推移をみると、07年10月はアップルが58.6%、ソニーが21.7%と、両社の間には36.9ポイントもの差があった。それが時間の経過とともにじわじわと縮まり、08年10月はアップルが61.9%でソニーが24.7%、09年10月はアップルが59.3%でソニーが31.7%、そして10年10月はアップルが49.6%でソニーは43.6%。ともに40%台が定位置となった。

 ソニーのシェア拡大の要因は、ズバリ、ターゲットの絞り込みにある。ウォークマンのターゲットは、中学生や高校生などの10代の若者。ターゲットをピンポイントで定めているのだ。中牟田統括部長は「いま一番売れている携帯オーディオはiPod touchだと思うが、それは大人たちが無料通話やゲーム、動画の視聴などを楽しむ『マルチプレーヤー』として購入している」として、音楽に特化したウォークマンとは路線が異なることを指摘した。


 10月発売のウォークマンは、クレードル型スピーカーが付属するモデルが選べるコンパクトな「Eシリーズ」、楕円形のスピーカーが付属するモデルが選べる「Sシリーズ」、高音質・高画質を追求したスリムな「Aシリーズ」をラインアップ。「Eシリーズ」「Sシリーズ」のスピーカー付きでも1万円台、「Eシリーズ」なら1万円を切る価格で、「中学生や高校生が自分のおこづかいで購入できるように設定している」(中牟田統括部長)という。

 スピーカー付きモデルを2シリーズで揃えるのは、外出先だけでなく、自宅でも手軽にいい音が楽しめるようにしたかったから。また、中高生は携帯オーディオは自分で買うことができても、スピーカーなどのオーディオ機器を購入するような余裕はないという経済事情も考慮した。さらに、「いまでは『携帯オーディオ=メディア』になっている。ウォークマンが直接つながる機器があれば便利」(中牟田統括部長)という理由もある。

今秋投入したSシリーズ NW-S750K(スピーカー付属モデル)

 ウォークマンが10代の若者にターゲットを絞ったのは、08年春のソニーマーケティングジャパンの宣伝部の調査がきっかけだった。若者の音楽環境を調べたところ、「ウォークマン」の名前を知らない若者がいることがわかった。また、自宅で音楽を聞くとき、携帯オーディオのイヤホンをスピーカー代わりにしたり、携帯電話をスピーカーで聞いたりする若者がいるという驚くべき事実が明らかになった。

 こうした若者の音楽環境に、ソニーはメーカーとして危機感を抱き、10代へのアプローチを真剣に考えて、08年秋に製品を世に送り出したのである。さらには製品だけでなく、販促活動もターゲットを10代を絞り込んで展開。その一つ、ユーザー参加型のプロモーション「Play You」では、アーティストのYUIさんや女優の新垣結衣さんを起用し、10代の心に響く取り組みを展開している。

「Play You」のホームページ

 ウォークマンは、10代の若者に訴求する方向に舵を切ったことで、携帯オーディオ市場で存在感を取り戻しつつある。取材の最後に、「ユーザーにとって、ウォークマンはどのような存在でありたいと考えているのか」と聞いた。「自分の意思で買う最初のデジタル製品がウォークマンであってほしい。つまり、“My First DMP(携帯オーディオ)”がウォークマンということだ」と中牟田統括部長。「いい音を若者に提供していきたい」と、10代へのアプローチを続けていく。(BCN・井上真希子)


*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などのPOSデータを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。