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リニアPCMレコーダー普及の鍵は? 高音質な“録音新時代”、主要3社の戦略

インタビュー

2009/04/13 15:00

 音声を圧縮せずに高音質で録音できる「リニアPCMレコーダー」が人気を集めている。08年秋以降、各メーカーはICレコーダーの録音形式に「リニアPCM(WAV)」を積極的に採用。09年3月の「BCNランキング」では、1年前の08年4月と比べて台数で4倍という伸びを見せている。主要メーカー3社に販売戦略を聴いた。

ビジネスや語学学習、楽器演奏、料理教室など、幅広いシーンで活躍する

 一口にリニアPCMレコーダーといっても、大きく分けて2つの種類がある。一つは、MP3やWMAに対応する一般的なICレコーダーに、リニアPCM形式を新たに追加したもの。

 もう一つは、音声をデジタル化して録音できるテープ「DAT(Digital Audio Tape)」の技術を継承するもの。主に業務用で使われているサンプリング周波数と量子化ビット数「96kHz/24bit」に対応するものが中心で、一般的にこちらをいわゆるリニアPCMレコーダーと呼ぶことが多い。「BCNランキング」では、この2つを合わせてリニアPCMレコーダーと呼んでいる。

「CDにしたい」ユーザーに応える 消費電力にも注目――三洋電機



 07年3月から2年間、「BCNランキング」のリニアPCMレコーダーのメーカーシェアで首位をキープしているのは三洋電機。小型のボディで高音質が手軽に楽しめる「ICレコーダー+リニアPCM」タイプを販売する。「(録音した音声を)CDにしたい」というユーザーの要望に応えるため、CDと同じ音質の「44.1kHz/16bit」のICレコーダーを充実。現在同社が販売する13機種のうち9機種が対応している。

三洋電機の主な「44.1kHz/16bit」対応モデル
(左からICR-PS1000M、ICR-PS603RM、ICR-PS503RM)

 CD化を望むユーザーの声を考慮した結果、自然の音やSLの駆動音などを録音するいわゆる「生録(なまろく)」向けの音質「『96kHz/24bit』に対応しても意味がない」と、三洋電機 デジタルシステムカンパニー DI事業部 DI商品部 DA商品課の加藤圭太課長は断言する。

 「『96kHz/24bit』にすれば、大型マイクなど(高音質で録音するための機構)が必要になり、本体が大きくなる。扱うデータ量や消費電力も増える」とデメリットを語る。音楽関係者やプロが主に使っている音質「96kHz/24bit」に対応した製品は発売しない考えだ。

 ところで、三洋電機のICレコーダーは、独自の半導体を搭載し消費電力が小さいのが特徴だ。そのため、08年秋以降に発売した新モデルはすべて単4形または単3形乾電池1本で駆動でき、MP3形式の場合、他社の製品と比べて電池の持続時間が長い。多くのモデルは単4形乾電池2本なので、その分本体サイズも小型化できる。

三洋電機の主なカードスロット搭載モデル
(左からmicroSD/SDHCカード対応のICR-RS110M、SD/SDHCカード対応のICR-S003M)

 さらに、記録媒体にmicroSD/SDHCカードやSD/SDHCカードが使えるカードスロット搭載モデルが8機種と多い。もし内蔵メモリを使用すれば、容量違いの豊富なラインアップを家電量販店で展示でき、販売台数が増える。しかし、カードスロットだとラインアップが増やせず、メーカーにとってはデメリットになるという。

 「自分の首を絞めることになる」と加藤氏は苦笑する。しかも、メモリカードメーカー各社が販売するカードの動作検証に時間とコストもかかる。しかし、「メモリカードで用途ごとにデータを管理したい」とユーザーから要望が多く寄せられたため、導入に踏み切った。三洋電機はこうした他社にはない付加価値で差異化を図る。

性別・年齢で細分化するユーザーの利用シーンに訴求――ソニー



 一方、09年2月の「BCNランキング」のリニアPCMレコーダーのシェアで2位に躍り出たソニー。09年1月の6位からランクアップした理由は、ICレコーダーとして初めて「44.1kHz/16bit」のリニアPCM形式を採用した上位モデル「SXシリーズ」を発売したためだ。カラーバリエーションを合算したシリーズ別のリニアPCMレコーダーの販売台数シェアでも、容量2GBの「ICD-SX800」が1位を獲得。3月も1位をキープし、人気を集めている。

「44.1kHz/16bit」に対応するソニーの「SXシリーズ」
(左から容量4GBのICD-SX900、2GBのICD-SX800)

 「リニアPCMレコーダーの上級機『PCM-D50』『PCM-D1』の手応えは感じていた。また、『リニアPCMレコーダー』という言葉の認知度の向上も後押しした」。ソニーマーケティング パーソナルAVマーケティング部 パーソナルAVMK課の家喜(いえき)大輔マーケティングマネージャーは、「SXシリーズ」誕生の背景をそう振り返る。

★三洋、ソニーに続き、「ボイストレック」シリーズのオリンパスに販売戦略を聴く
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 ただ、「SXシリーズ」はリニアPCM形式に対応するものの、位置づけは「あくまでICレコーダー」。というのも、「『PCM-D50』『PCM-D1』は、本体の操作性、機能、材質など、『生録』のためのいろいろな要素を考えて作っている。リニアPCMという録音形式だけでは音質は決まらない」と、「ICレコーダー+リニアPCM」タイプとは発想が根本的に違うことを示した。実際、「PCM-D50」と「PCM-D1」は、「SXシリーズ」と比べると本体の作りは明らかに異なる。

ソニーの「PCM-D50」と「PCM-D1」

 さて、最近のソニーのICレコーダーで目を引くのは、家電量販店での展示方法。「ビジネス」「楽器演奏」「語学学習」「おけいこ」と利用シーンを示したパネルを配置し、それぞれにふさわしいモデルを一覧にしている。「ユーザーは何を録りたいかが決まっている。それをナビゲートする」形で用途に応じた製品をアピールするわけだ。

 ちなみに、「女性なら語学、趣味や教養を深めるおけいこ。男性は仕事、楽器演奏、『生録』」、男女の比率は7対3または6対4で、最近では女性のユーザーが増えているそうだ。一方、年齢別に見ると30、40、50代がメインだ。

 性別や年齢など、ソニーはユーザーの属性を強く意識した製品をラインアップする。こうした中、「『SXシリーズ』は、同社のICレコーダーの中でも上位モデルなので、ユーザーは男性が中心。そこで、マイクを内部に収めるのではなく外部に配置することで、ぱっと見で『いい音が拾える』という特徴がわかるようにした。また、レベルメーターを表示させたりウインドスクリーンを同梱するなど、細かな点にも配慮した」。

ブランド力が強み 一眼ユーザーに「写真+音」のコラボ提案――オリンパス



 リニアPCMレコーダーシェア3位のオリンパスは08年10月、ICレコーダーブランド「ボイストレック」として初めて、「44.1kHz/16bit」のリニアPCM形式に対応する「DS-71」を発売。「仕事でも趣味でも兼用で使いたい」と一石二鳥を求めるユーザーに訴求する。ICレコーダーとして認知度のあるブランド名「ボイストレック」を使うことにこだわった。

オリンパスの「44.1kHz/16bit」対応モデル3機種と「96kHz/24bit」対応モデル1機種
(左からDS-71、DS-61、DS-51とLS-10)

 ソニーが09年2月に発売した競合モデル「SXシリーズ」について、オリンパスイメージング 営業本部 国内営業統括部 営業企画1グループの渡邊嘉巳課長は「想定の範囲内で自然な流れ。驚きはない」と強気だ。「DS-71」のほか、09年3月には、ICレコーダーの上位モデル「DS-61」「DS-51」でもファームウェアのアップデートでリニアPCM形式に対応できるようになり、ラインアップを拡充している。

 一方、08年2月に発売した同社初のリニアPCMレコーダー「LS-10」は、「96kHz/24bit」対応の上級機。「究極に音にこだわっている人」に向けた製品だ。「LS-10」の呼称については、「人の声だけを録音するわけではないので、製品名に『ボイス』という言葉を入れるのにためらいがあった。そこで、『ボイストレック』のブランド名を使わず、あえてリニアPCMレコーダーとした」とICレコーダーとは一線を画す理由を明らかにした。

デジタル一眼レフカメラ「E-620」と「LS-10」をセットで販売する「鉄撮りキット」キャンペーンを展開

 「LS-10」に関しては現在、他社のリニアPCMレコーダーには見られない取り組みを行っている。同社のデジタル一眼レフカメラ「E-620」と「LS-10」をセットで販売する「鉄撮りキット」キャンペーン(3月4日-6月30日)だ。同社の鉄道写真のコミュニティサイト「FotoPus Train(フォトパス トレイン)」の新設を記念したもので、「いい音といい写真をフットワークよく得るため、軽くて高性能な機器の組み合わせ」を提案している。

 実際、「年配の一眼レフカメラユーザーがリニアPCMレコーダーのユーザーにもなっている」ことから、「写真を撮る」カメラユーザーに向けて「音を録る」リニアPCMレコーダーも同時にアピールする。

高音質な“録音新時代”、主要3社のこれから



 最後に、「リニアPCMレコーダー、ICレコーダーのこれからは?」という同じ質問を3社にぶつけてみた。

 三洋電機は「操作性の向上」と「利用シーンの提案」の2つを挙げた。前者は、録音する現場の環境に合った最適な設定を自動で行う「おまかせシーンセレクト機能」を搭載するなど既に対応しつつあり、さらに工夫していく。

 一方、後者は、リニアPCMレコーダーの使い方として、デジタルビデオカメラとの組み合わせを例に上げた。ビデオカメラは内蔵マイクだと音がそれほどよくないため、音だけ別に録って後で編集時に映像と一緒にするというものだ。

(上段から反時計回りに)三洋電機 デジタルシステムカンパニー DI事業部 DI商品部 DA商品課 加藤圭太課長、
ソニーマーケティング パーソナルAVマーケティング部 パーソナルAVMK課 家喜大輔マーケティングマネージャー、
オリンパスイメージング 営業本部 国内営業統括部 営業企画1グループ 渡邊嘉巳課長

 ソニーは、「こういう風に使いたい」というユーザーのニーズに合わせたモデルの提案を引き続き行うのに加え、ICレコーダーは初めて使う人が多いアイテムのため、初心者でも抵抗なく使えるようなモデルを提供していく方針だ。

 オリンパスは、商談の記録や振り込め詐欺対策などに役立つ、電話の音声が録音できるマイクなどの周辺機器の充実を上げた。加えて、「会議」「音楽」「語学」という最も使われる頻度の高いシーンに対応する機能を充実させ、ラインアップを拡大していくという。

 現在、内蔵メモリの価格が下がり、本体の価格を抑えつつ大容量のメモリを本体に搭載できるようになった。これに伴い、リニアPCM形式のようなデータ容量の大きい高音質でも手軽に録音できる時代がやってきている。今後、リニアPCMレコーダーやICレコーダーの新しい使い方をユーザーに提案していくことが、普及の鍵となりそうだ。(BCN・井上真希子)


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