nanoとtouchとGeniusが変える、新しい音楽の楽しみ方とは?

特集

2008/09/12 17:34

 アップルジャパンは9月10日、第4世代のiPod nanoと第2世代のiPod touch、さらにコンテンツ管理ソフトiTunes 8を発表した。そこで同社は翌11日、メディア向けに製品説明会を開催。そこで明らかになったiTunes 8と新iPodシリーズの魅力をまとめた。

●振ると楽しいiPod nano

 厚さわずか6.2mmという極薄ボディで登場した第4世代のiPod nano。これだけの薄さを実現しながら、「さすがアップルのデザイン!」と唸らせられるのが、その仕上げの美しさだ。表面をぐるりと取り囲むアルミボディは、どこにも継ぎ目のないつくり。しかも、液晶ディスプレイを覆うガラス面も、このボディ曲面にぴたりと合わせたカーブを描く。アルミとガラスという異なる素材を用いているにも拘わらず、まったく段差などがない、完全に一体となったいわゆる「面位置(ツライチ)」という凝った仕上げが施されている。

 液晶ディスプレイは曲面を描いてるのに、そこに表示される画面には曲がりや歪みが見られない。どの角度から見ても、完全にフラットな画面だ。対角2インチの320×240ピクセル、204dpiという高解像度で明るいこの液晶ディスプレイは、単に音楽プレーヤーとしてだけでなく、ビデオや写真などの映像コンテンツ、内蔵ゲームなどを楽しむことも十分に考慮されたものだという。

 新しいiPod nanoには加速度センサーが内蔵されていて、本体を横にすると、プレイリストがアルバムジャケットのCover Flowに切り替わり、ビデオや写真では映像が横位置表示になる。良くできているのは、縦型の本体を反時計回りに倒した場合だけでなく、時計回りに倒した場合でも、それに合わせて表示が切り替わる点である。つまり、左利きの人や左手で操作しているときに時計回りで横に倒しても、Cover Flowや横位置表示になる。


 加速度センサーを利用した面白い機能としては、「シェイクしてシャッフル」がある。これは、曲を再生中にiPod nanoを一瞬強くシェイクすると、シャッフルされた曲の再生に変わる、というもの。ゆっくり振ったのでは、このシャッフルは起こらない。コツは、一瞬だけ強くiPod nanoをシェイクして止めること。持ち歩いている最中に勝手にシャッフルしてしまわないかとちょっと心配になったが、急激な加速度が加わらないと機能しないので、例えば、カバンの中で揺れたり、乗り物の振動を受けたりしただけでは、シャッフルしないという。ジョギング程度でも大丈夫そうだ。

 ところで、スクエアデザインだった第3世代のiPod nanoから、なぜ第1・2世代のような縦型に戻ったのかというと、これは、「横長画面のビデオや写真をフル画面で見たい」というユーザーからの要望に応えたものだという。同時に、加速度センサーを利用した画面表示の切り替えや、「シェイクしてシャッフル」のような機能をよりいっそう体感できるのは、正方形よりも長方形のボディデザインのほうではないか、と考えられる。第4世代iPod nanoでは、加速度センサーの搭載がかなり重要なファクターになっていると言えるだろう。

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iPhone 3Gより美しい!? iPod touch

 第2世代のiPod touchは、ボディの外周部分をシェイプアップして、本体背面が曲面仕上げになっているのが特徴的だ。このラウンドフォルムのおかげで、手にしたときに実際よりもボディが薄く感じられる。実は、もっとも厚みのある部分を比べると、第1世代よりも第2世代のほうが0.5mmほど厚いのだそうだ。しかし、見た目にも、持った感じも、第2世代のほうが断然薄い印象を受ける。

 iPod touchも、液晶ディスプレイとそれを囲むステンレス部分とが、継ぎ目を感じさせない面位置のフラッシュ仕上げになっている。背面のステンレスの光沢もみごとで、全体の美しさではiPhone 3Gよりも、新しいiPod touchのほうが上、と言ってもいいかもしれない。


 第1世代のiPod touchは「電話機能のないiPhone」などと呼ばれることもあったが、この第2世代iPod touchについてアップルは、iPhone 3Gとはまったく別のカテゴリーの製品と位置づけているようだ。iPhone 3Gは、あくまでもコミュニケーションのためのツールだが、第2世代のiPod touchは、音楽プレーヤーとゲームプレーヤーという部分を前面に押し出している。

 実際、加速度センサーを搭載したiPod touchは、ゲームで使ってもかなり楽しい。アップルのApp Storeには無償のアプリもたっぷり登録されているので、iPod touchを購入すればすぐにアプリをインストールして楽しむこともできる。電話としても使うiPhone 3Gは、音楽を聴くにもゲームを楽しむにも、どうしてもバッテリー残量が気になってしまう。しかしiPod touchならその心配もいらない。

●自慢のインイヤーヘッドホンの出来映えは?

 一方同社は、インイヤータイプのヘッドホン「Apple In-Ear Headphones with Remote and Mic」を10月に発売する。左右それぞれのイヤーピースの中に、ツィーターとウーハーの2つのドライバを組み込んだデュアルドライバの高性能ヘッドホンだ。価格は9400円だが、アップルでは、2?3万円クラスの高級・高性能ヘッドホンと同等の高音質を実現した、としている。アップルがここまで「音」にこだわった純正ヘッドホンを登場させたのは、iPod史上初めてのこと。その出来映えは大いに気にかかるところだ。新しいヘッドホンはもう1つあり、こちらは耳にはめるタイプの製品。「Apple Earphones with Remote and Mic」がそれで、価格は3400円。


 製品名が示すとおり、新しいヘッドホンのいずれにも、右耳用のケーブル部分に、新nanoと新touchで機能するリモートコントローラーが付いている。これで、iPod本体をカバンの中に入れたままでも、ボリューム調節や再生・一時停止・早送り・巻き戻しなどの操作ができるようになる。また、コントローラーにはマイクも内蔵されていて、新しいiPod nanoでは音声録音で利用する。ただ、残念ながら今のところiPhone 3Gには対応していない。

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●iTunesの新機能「Genius」、実はかなり画期的

 どうしても新iPodシリーズというハードのほうに注目が集まってしまうが、実は、かなり画期的なことを実現してしまったのではないか、と筆者が密かに思っているのが、iTunes 8に実装されたGenius(ジーニアス)という機能だ。

 Geniusは、iTunes 8で自分のミュージックライブラリの中から聞きたい曲を選んでから、Geniusボタンをクリックすると、その曲と相性の良い曲をライブラリの中から選び出して、プレイリストとして表示してくれるというもの。プレイリストに表示する曲の数は、25、50、75、100曲が選べる。ある1つの曲を基準に、その曲にマッチする最大100曲を自動的に選び出してくれる、というわけだ。さらに、オンラインのiTunes Storeからも、その曲にマッチする曲、例えば、同じアーティストで他のアルバムや自分が持っていない曲、相性の良い曲などが、Geniusサイドバーに一覧表示されるようになっている。


 ところで、この「相性が良い」「マッチする」というのを、Geniusは何をもって判断しているのかだが、アップルによれば、単に曲のメタデータを参照するだけではないらしい。アーティスト名やアルバム名、ジャンル、発売年、曲の長さといったメタデータをもとに、おすすめ曲をピックアップしてくれる機能は、すでに他社の携帯オーディオにもあるのだが、アップルのGeniusの場合は、世界中のiTunes 8ユーザーのライブラリ情報が活用されて、単純に同じジャンルの曲などではない、もっと感性に寄った相性の良さを判断しているようだ。

 どういうことかというと、例えば、ジョン・レノンの「イマジン」をライブラリの中に持っているユーザーは、他にどのような曲を持っているのか、「イマジン」と同じように再生されているのはどの曲か、他には誰のどの曲をiTunes Storeで買っているのか、といった情報なども判断材料になっているようなのである。

 iTunes 8のGeniusは、ユーザーのライブラリ情報をアップルのiTunesサーバーに送信することになるため、最初にこの機能をオンにしようとするときに、使用許諾に同意するかどうかを尋ねられる。利用されるのは、あくまでもiTunes 8のミュージックライブラリの情報だけなので、個人情報やその他のソフトウエアの情報がアップルに筒抜けになることは決してない。そうしたセキュリティーやプライバシーの確保には、「万全を期している」とスティーブ・ジョブズCEOも胸を張っていた。


 Geniusを使って表示されたプレイリストを再生したり、保存したりすれば、おそらくその情報もiTunesサーバーに送られるのだろうから、より多くのiTunes 8ユーザーがGeniusを使えば使うほど、「相性が良い」「マッチする」精度は高まっていくことになる。

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●日々成長していく「Genius」

 実際にこのGeniusを試してみると、iTunes Storeで購入した曲に関しては、まったく問題なくGeniusでプレイリストが表示されるのだが、筆者が独自にCDを購入してリッピングしたり、アナログレコードから取り込んだりして、ライブラリに加えた曲で、iTunes Storeでは取り扱っていないものについては、残念ながら「Geniusは使用できません」と出て、相性の良い曲をピックアップしたプレイリストは表示されない。そういう場合は、GeniusサイドバーのほうもiTunes Storeのトップソングとトップアルバムが表示されるだけだ。

 しかし、アップルの説明によれば、これはまだGeniusがスタートしたばかりで、ユーザーのライブラリ情報の蓄積が進んでいないせいでもあるようだ。iTunes Storeで取り扱っていない曲であっても、多くのユーザーがライブラリに保存して聴いている曲であれば、その情報が蓄積されて、Geniusが働くようになる可能性があるという。

 iTunes 8が搭載するGeniusの検索アルゴリズムは、最低でも週に1度、iTunesサーバーからの情報をもとにバックグラウンドでアップデートされるそうだから、今週は「Geniusは使用できません」と出てしまった曲も、来週になるとしっかりGeniusが機能して、その曲と相性の良いプレイリストが表示されるようになるかもしれない。ユーザーのライブラリ情報、ユーザーのアクションを反映して、日々成長していくのがGeniusなのである。

 このGeniusの機能は、新しいiPod nanoとiPod touchにも搭載されている。また、間もなく提供される予定のOS2.1へのアップデートで、iPhone 3Gでも利用可能になるという。これらの機器では、iTunes 8と同期した際に、Geniusの機能も更新されるそうだ。

 シャッフルは、まったくランダムに曲をピックアップするので、予想を裏切られる面白さが味わえる。「いまこの場面で、この曲?」という、思わぬ曲との出会いが体験できるわけだ。対してGeniusは、ある1曲にひも付いて、次々とそのときの気持ちにぴったり合った曲を聞き続けられる楽しみがある。朝、電車に乗るときに、「まず1曲目に聞きたい曲はこれ。あとはGenius!」とセットすれば、1曲目のテンションをキープしつつ、自分のライブラリの中にあるいろいろな音楽が楽しめるだろう。しかも、日々成長するGeniusだから、同じ曲を1曲目に指定しても、明日は今日とは違ったプレイリストで、やっぱり気持ちをキープしてくれるはずだ。これは、いままでになかった音楽体験になるのではないだろうか。今後、Geniusがどのように成長していくのか、非常に楽しみである。

 9月11日の夕方、とあるファストフード店にいた筆者は、となりの席にいた女子高生たちが、「新しいiPod nanoが出たの、知ってる? 今度のは、振るとシャッフルするらしいよ」と話しているのを耳にしてしまった。もうすでに、彼女たちの周辺では話題になっているようだ。

 「シェイクしてシャッフル」できるし、8GBと16GBのそれぞれに全9色ものカラーバリエーションをそろえた新iPod nano。スピーカー内蔵で、加速度センサーを使った体感ゲームも存分に楽しめる新iPod touch。さらに、4つの新色が加わって全5色になった新iPod shuffle。そして、Geniusを搭載したiTunes 8。またしてもアップルによって、新たな音楽の楽しみ方が広がることになるのかもしれない。(フリーライター・中村光宏)