<strong>――オリンパスのリニアPCMレコーダー「LS-10」体験記</strong>
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 楽器の生演奏や乗り物の駆動音、鳥の鳴き声などを臨場感たっぷりに録音できるリニアPCMレコーダー。かつて1970年代、ポータブル録音機を屋外に持ち出して蒸気機関車の走行音や小川の流水音などを録音した、いわゆる「生録(なまろく)」ブームが巻き起こった。手軽なリニアPCMレコーダーが登場しはじめたことで、中高年男性を中心に、その熱が再燃しようとしている。そこで、オリンパスのリニアPCMレコーダー「LS-10」を東京・吉祥寺で試した。

●ICレコーダーよりやや大きめ、高級感溢れるデザイン


 リニアPCMレコーダーとはICレコーダーの一種。音質を最優先した非圧縮記録方式のリニアPCM形式で録音できる。まるでその場にいるかのように、リアルな音が録れるのが特徴だ。これまでは演奏を録音する目的で、主に音楽関係者が活用していたが、今ではメーカー各社が手頃な価格のモデルを提供するようになり、一般のユーザーにとっても身近になってきた。しかし、価格はICレコーダーと比べるとまだまだ高価。2万円台から、中には10万円を超えるものもある。

 08年2月に発売したオリンパスイメージングの「LS-10」の第一印象は、「結構大きいし、重いね」というのが率直な感想。通常のICレコーダーのサイズや重さを知っているだけに、つい比べてしまった。ちょうどストレート型携帯電話を持った時の大きさに似ている。電池を含めた重さは165g。しかし、他社のリニアPCMレコーダーと比べると、「LS-10」が大変小型・軽量で、持ち運びしやすいのがわかる。


 まず目を引くのは、動物の耳のようで愛嬌がある、左右90度の角度で配置したステレオマイク。削り出し加工を施したアルミ部品を使用し、本体の振動が伝わりにくくノイズにも強い。ディスプレイは屋外でも見やすい1.8型半透過型液晶。外観は、ブラックのボディにシルバーのボタンやマイクが配置されており、高級感がある。同社のオンラインショップ価格は4万9800円。

●さまざまな現場に対応する多彩な調節機能 CDよりも高音質

 背面にはステレオスピーカーに加え、三脚穴を装備。手持ちだけでなくマイクの角度を固定して録音することもできる。記録媒体は2GBの内蔵メモリと、外部メモリのSD/SDHCカードに対応。カードスロットは左側面の上部に備える。なお、貸出機のせいか、SDカードのメーカーによってはカードを取り出す際に抜けにくくなるものがあった。


 録音レベルは、オートとマニュアルの2つから選ぶ。マニュアルの場合は、画面上に表示するレベルメーターを見ながら、右側面に備えるダイヤル「REC LEVEL」で調節する。いずれも録音開始前に待機状態でレベルメーターを確認できるので便利だ。また、低周波音をカットする「ローカットフィルタ」や、録音する範囲に合わせてマイク感度をHIGH・LOWから選ぶスイッチも備えるので、現場の状況に応じて細かく調節できる。

 録音モードはリニアPCM、MP3、WMAの3種類。リニアPCM形式では96kHz、48kHz、44.1kHzからそれぞれ24bitと16bitが選択でき、最高音質は96kHz/24bit。CDの音質が44.1kHz/16bitなので、それを上回る高音質な録音が行える。96kHz/24bitなら、内蔵メモリで約55分の録音が可能。電源は単3形アルカリ乾電池2本。

●どこまでリアル? ――「街音」で描く吉祥寺の風景

 さて、さっそく「LS-10」で収録した音を紹介しよう。リニアPCMレコーダーは中高年男性に人気があるということだが、私は残念ながら中高年男性ではないので、ここは思い切って若者かつ女性の趣向で録音場所を選択。東京の吉祥寺で「街音(マチオト)」を集め、その日常風景を探った。録音レベルはオートで、マイク感度はLOW、録音モードは最高音質の96kHz/24bitに設定。ウインドスクリーン(風防)は無し。なお、掲載する音声は一部前後をカットし、ファイル形式はすべてMP3に変換した。リニアPCM形式ではないが、雰囲気だけでも味わって頂きたい。

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 吉祥寺といってまず思いつくのはJR中央線。電車の発着を知らせる注意音を下りホームで録音した。収録位置は、ホームの天井に設置するスピーカーから斜め下3m程度。何度か録音に挑戦したが、同じ時間帯に上りと下りの電車が一緒に到着すると放送が重なってしまい、折角のメロディが聞き取りにくくなってしまった。また、離れたホームを通過した特急の音も騒音になった。
【音声1:JR中央線吉祥寺駅の下りホーム】


 北口正面の便利なサンロード商店街もいいけれど、こじゃれたお店が立ち並ぶ、駅の西側の中道商店街が最近のお気に入り。さっそく道行く人の足音を収録した。収録位置は、地面から高さ50cm程度。普段歩く時はあまり気付かなかったが、録音してみると意外に多いのがベビーカー。カラカラと軽い車輪音がそれだ。休日は若いママ・パパが子ども連れでやってくる通りだということがわかった。
【音声2:中道商店街】


 吉祥寺の行政区は武蔵野市だが、同市を象徴するものの1つにコミュニティバス「ムーバス」がある。通常の路線バスでは通り抜けができないようなエリアをカバーする。吉祥寺駅北口停留所で発車時のエンジン音を収録した。収録位置は車体後部のエンジンから50cm程度。最近のバスは停車時にエンジンを切るので、いつエンジンがかかるかわからない。発車時刻を参考に少し前からスタンバイした。
【音声3:ムーバスのエンジン】

●春真っ盛りの井の頭公園や風情あるハーモニカ横丁


 ちょうどこの日はお花見ができる最後の週末。JRの線路の南側に位置する井の頭恩賜公園は、花見客でごった返していた。井の頭池の噴水前でひと休み。この噴水の音を収録した。収録位置は噴水から5m程度。すぐ後ろのベンチで人が話をしていたが、マイクの向きのせいかうまく噴水の音だけ拾うことができた。時々鳥の鳴き声が収まってくれたのもいい。
【音声4:井の頭池の噴水】
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 公園の西側にある弁財天にも立ち寄った。賽銭箱に小銭が入る音を収録したが、お堂の中では催しを行っており、その太鼓の音まで拾ってしまった。収録位置は賽銭箱の上面。キュッキュッという音は、頭上に設置する鐘を突くためのロープの金具がきしむ音。参拝者が心の中でつぶやく願い事まで録音できたらおもしろかったのだが……。
【音声5:弁財天の賽銭箱】


 日が傾きかけた頃、自然に足が向いたのがJRの線路の北側にある商店街「ハーモニカ横丁」。小さな店が細い路地を挟んでひしめき合う、どこか懐かしい空間だ。目に留まったのは生花店「フラワーショップはやし」の店先に飾られた、小さな2つのかざぐるま。この回転音を収録した。収録位置はかざぐるまの真横、1cm程度。ちょうど3人の親子が、お母さんの誕生日に花束をプレゼントするために訪れていた。
【音声6:フラワーショップはやしのかざぐるま】

●音によって見慣れた街が深い味わいを醸し出す

 最後に反省点を挙げておこう。まず、収録した日は風がとても強く、いずれの場所でも風の音を拾ってしまった。したがって、付属のウインドスクリーンを使用するとよかった。次に、現場での録音タイミングが結構難しいということもわかった。時間が経過しても原音が変わらない対象ならいつ録っても構わないのだが、その瞬間しか録れない音、またはしばらく待って機会をうかがわないと録れない音があるので、その見極めが肝心だ。リニアPCMレコーダーの操作が難なく行えるのを前提に、場の状況を判断できようになると理想の音が得られそうだ。

 なお、今回録音場所として選んだ吉祥寺は、私にとってとても身近な街。しかし見慣れた風景も、リニアPCMレコーダーで収録した音を通して見つめ直すと、通常では気付かない新しい発見がいくつもあった。今までよりも一層吉祥寺に親しみがわくようになったのは間違いない。(BCN・井上真希子)