高画素、高機能化と価格競争が激しいコンパクトデジタルカメラで、今、販売のポイントになっているのがデジカメメーカーが作る専用のデジカメケース。メーカー各社ではカメラの「薄さ」「軽さ」「デザイン」を追求する一方、ケースでもデザインや素材などにこだわり、ユーザーの心を引くようなファッション性や本物感を打ち出した製品を発売しています。そこにはどんな狙いがあるのでしょうか? 個性的なケースを手がける富士フイルム、ソニーに話を聞きました。

 専用ケースに注目が集まる背景には「女性を意識したコンパクトデジカメを出したことで、2-30代の女性ユーザーが増えたことがあります」とは、ビックカメラ有楽町店本館カメラコーナーの國丘大輔主任。「コンパクトカメラを買う人はケースも購入することが多いのですが、その年代の女性はケースのデザインも重視している」といいます。そうした女性たちが買うのは「自分が選んだデジカメのメーカー純正ケースがほとんど」(國丘主任)。その理由を「2-30代の女性は同じブランドでそろえて統一感を出したいという考えが強い」(同)と話します。

●高級・セレブ感のあるケースに力を入れる富士フイルム

 こうした流れを受け、独自のケースを展開するのが富士フイルム。富士フイルムではデジタルカメラ「FinePix(ファインピックス)」で、コンパクトタイプでは2-30代の女性をおもに狙ったデザイン性の高い「Z」シリーズ、30-50代の男性を中心ターゲットにする「F」シリーズを発売しています。


 富士フイルムが特に力を入れているのが「Z」シリーズの専用ケース。最新の上位機種「FinePix Z100fd」では、カメラの縦型フォルムを反映した縦型ケースを発売しています。コンセプトは「スクウェア(四角)」で、「ピンク」「ブラック」「ホワイト」「ゼブラ」を展開。「ゼブラ」以外は表面を艶のあるグロス仕上げにして高級感を出しました。これまで7万3000個が売れています。


 ケースを企画しているのは富士フイルムイメージング営業本部の工藤ありささん。「コンパクトデジカメはデザイン性が高まり、それに合うケースが重要になっています。デザイン性のあるケースならカメラと一緒に購入してもらえるし、ケースが良ければカメラを買ってもらえる相乗効果が期待できます」とケースの狙いを語ってくれました。


 「Z」シリーズ用ケースでは「カッコ良いデザインと高級・セレブ感を常に意識している」(工藤さん)といいます。素材は本革、ケースカバーを留めるマグネットはデザインを損なわない小型タイプといった点がこだわりです。また、内側にクッションを入れ、裏地はスウェードを使うことで、カメラ本体やディスプレイを保護するケース本来の機能にも気を配っています。

●Z100fdでファッションを取り入れた“トレンドを作り出す”ケースを展開

 最新の「Z100fd」用ケースでは「衣服の流行を取り込んでケースのトレンドを作り出すこと狙いました」と工藤さん。人気カラーは「ピンク」と「ゼブラ」。「ピンク」は以前のケースよりも紫色を入れることで高級感を出しました。
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 「ゼブラ」は「日本でアニマル柄が流行すると読んで、その前に一歩先を見越して企画した」(同)というケース。素材は本物の牛の毛を使用。毛を一定の長さに切って白く染めた後、黒を着色して柄と毛の質感を再現しました。柄を染めるパターンは毎回変わるため、1つとして同じ模様がないといいます。一番人気で、これまで2万2000個を販売しました。


 工藤さんは06年7月からケースの企画を担当。最初に手がけたのは「FinePix Z5fd」のケースでした。Z5fdは女性ユーザーを狙ったカメラで、工藤さんもあえて女性向けにケースを絞ったといいます。作ったのは横型の「ブラック」と「ピンク」「ホワイト」のケース。なかでも「ブラック」は内側の裏地をにラズベリーレッドにして「コントラストの面白さを出しました」(同)。


 ケースに対して、当時、社内からは「男性のことを考えていない」「下品」といった否定的な意見が多く出ました。しかし、発売後、それまで数%だったカメラと一緒に専用ケースを買う比率は50%以上に増加。工藤さんは「多くの人から支持されて自信が持てた」といいます。


 ポイントにしているのは「私がカメラとケースがターゲットにしている女性と同じ年代なので自分が欲しいと思えるもの」(同)。企画は外国のファッション雑誌やセレクトショップ、海外の高級ブランド店などで、新作などからトレンドをチェックしてアイデアを練っているといいます。

●08年春のトレンドを想定した“鏡面加工”の限定ケース

 工藤さんが08年春の流行と読むのが「ポリッシュ(鏡面加工)」。2月にはそのトレンドをいち早く取り入れた、Z100fd用ケースを限定で大手量販店を中心に発売しました。


 カラーは「ピンクゴールド」「シルバー」「ブラウンゴールド」の3色。特に「ピンクゴールド」は鏡の質感を出すために、色をつけたケースにイタリア製の箔を貼り付けるほどこだわったといいます。「シルバー」ではそのままではアルミホイルのような質感になってしまうため、シワ加工をすることでアクセントを出しました。これまで5000個が売れています。

 「私は人と同じものではイヤだという気持ちが強い」と工藤さん。今後も自分が欲しいと思うようなデザインを基本に「高級感があってデザインや質感でこれまでにないケースを作っていきたい」といいます。


●「デザイン」と「バリエーション」で幅広いユーザーを狙うソニー

 一方、「デザイン」と「バリエーション」で勝負するのがソニーです。コンパクトデジタルカメラ「サイバーショット」では現在、11種類の専用ケースを展開。最新のカタログではケースだけで6ページを割き、専用サイトも開設するほど力を入れています。


 ケースを企画しているのは、06年4月から担当するDI事業本部周辺機器ビジネス部門商品企画部の三浦真希子さん。三浦さんは「カメラの価値を高めるためにもケースは重要」といい、「サイフや手帳のように使う人が出かける時に自分の一部として持ち歩けるようなファッション性を追求している」とデザインについて説明します。


 ソニーでは女性だけでなく幅広いユーザーにケースを使ってもらうことを狙っています。そこで、「『ファッション性』に加え、『素材』『色』といった『バリエーション』を増やすことで、様々なユーザーの好みに対応できるようにしています」(三浦さん)。

●最新作は日・欧のデザイナーがタッグを組んだ独自ケース

 三浦さんは海外のファッション雑誌からデジタル製品の情報雑誌まで目を通したり、街頭観察することで企画のヒントを得ているといいます。最新ケース「ヨーロピアンデザインケース」では、東京と欧州のデザインチームがコラボレーションで他社にない一味違ったケースを目指しました。


 「ヨーロピアンデザインケース」は高級本革の「LCS-THM」「LCS-WG」とポリウレタンを使った「LCS-TWG」の3種類。サイバーショットから抽出した「Precision(精密)」「Egineered(工学的)」「Functional(機能的)」というキーワードをケースに反映しました。カメラの金属感をイメージさせるデザインがベースになっています。
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 「LCS-THM」はケースを止めるマグネットをケースに埋め込み使い勝手と質感を追求。「グロスレッド」ではエナメル革で高級感を演出しました。「LCS-WG」は片手で外せるストラップタイプのマグネットつきカバーを採用。「LCS-TWG」は表面にマットな質感を出し、カメラを挟み込んで収納するユニークなケースに仕上げました。


●デザインの基本は「ムダなデコレーションの排除」

 東京のデザインチームで、クリエイティブセンターコンスーマープロダクツデザイングループデザイナーの勝樂純子さんは「デザインコンセプトは『ミニマム』。装飾的な要素を排除しデザインと色を効果的に見せるようにしている」と説明します。また、「飾り付けが流行の衣服ファッションの流れとムダをそぎ落とすデザインが主流のデジタルカメラのトレンドを組み合わせ、旬を逃さないデザインを心がけている」といいます。


 クリエイティブセンターコンスーマープロダクツデザイングループシニアプロデューサーの石井大輔さんも「余計なものを排除するのがソニーのデザイン」と強調。「(1)白・黒といったモノトーンの定番色(2)レッド、ブルーなどのビビットカラー(3)表面が光沢のあるグロス」が現在の色の流行だと話します。

 「他社が使ったものは使いたくない」(勝樂さん)ほどこだわっているのが素材。例えば、「LCS-TWG」ではポリウレタンを新たに使いました。一方で新素材をどう生かすかでいつも苦労しているといいます。そのため、試作品はカラーバリエーションを含めると毎回、数十通りにも上ります。

●1つのカメラに対応するケースの豊富さをアピール

 販売についてソニーマーケティング デジタルイメージマーケティング部の岡祐介さんは「ケースからサイバーショットを選んでもらえるようなプロモーションをしていきたい」と話します。

 そのため店頭でカメラとケースを並べての展示はもちろん、カメラの箱にケースのチラシを同梱、カタログにケースのページを設けたり、専用サイトを開設して認知度を高めています。

 「ソニーは1つのカメラに対応する複数のケースがあるのが他社にない強み」と岡さん。例えば、「T-300」では対応する9つのケースを用意。こうした点をカタログなどでユーザーにアピールしています。「他社はここまではできていない」と、岡さんは自信をみせます。カメラと一緒に専用ケースを買う比率も他社よりも高いといいます。


 ソニーでは海外でも日本と同じケースを販売。今後のケースについて三浦さんは「世界中の人に持ってもらえる商品を展開していきたい。『デザイン』『素材』『色』で試したいものがまだたくさんある」といいます。

 デザインでは「ベーシックでシンプルなデザインだけれども使う人が勇気を出して持てる程度の少し派手なものを作っていく」(勝樂さん)、「流行り廃りのないファッション性をキープしつつ飽きのこないものを出していく」(石井さん)ことを考えています。


 岡さんは「『価格』や『機能』のバリエーションも今後増やしていきたい。価格では品質や機能が良くて安いもの、機能ではネックストラップやカバー、スタイラスといったもの。今後はこういった点が重要になってくる」と話しています。

●統一感の醸成や万全のカメラ保護、単価向上の寄与も専用ケースの魅力

 専用ケースは周辺機器メーカーの製品とは違い、「色合わせやフィット感で統一イメージを出して、カメラのブランド力を高めることができる」(富士フイルムイメージングの工藤さん)というメリットがあるとメーカーでは話します。そのほか、「カメラの保護も万全な対応ができる」(ソニーの三浦さん)こともあります。

 また、コンパクトデジタルカメラは「メモリーカードが付属する製品でも単価が下がる」(ソニーマーケティングの岡さん)ほど価格競争が激しい製品。そうしたなか、量販店では専用ケースについて「価格が3000-4000円と比較的高く、価格も下がりにくいため、カメラと一緒に売ることで、販売単価を上げることができる製品」(ビックカメラ有楽町店本館カメラコーナーの國丘主任)だといいます。こうした点もメーカーが専用ケースに力を入れる理由となっています。(BCN・米山淳)