手軽なメモ代わりや会議内容の録音機器として、コンパクトで持ち運びに便利なICレコーダーはすっかり定着した。その中で、現在一番人気なのはオリンパスの「VN-2100」。2月の「BCNランキング」で集計した販売台数シェアは10.1%で1位を獲得し、カラーバリエーションを合算した販売台数シェアでは06年12月から3か月連続でトップを走っている。実勢価格が6000円前後の入門機だが、使い勝手と高機能が受け、消費者から支持を集めているようだ。

No.1の舞台裏――オリンパス「VN-2100」


 手軽なメモ代わりや会議内容の録音機器として、コンパクトで持ち運びに便利なICレコーダーはすっかり定着した。その中で、現在一番人気なのはオリンパスの「VN-2100」。2月の「BCNランキング」で集計した販売台数シェアは10.1%で1位を獲得し、カラーバリエーションを合算した販売台数シェアでは06年12月から3か月連続でトップを走っている。実勢価格が6000円前後の入門機だが、使い勝手と高機能が受け、消費者から支持を集めているようだ。「VN-2100」を世に送り出したのはオリンパスのICレコーダーで初の女性商品企画担当。ヒットの背景には女性ならではのこだわりがあった。


 「VN-2100」の発売は06年8月。大型ボタンと日本語表示対応の大きめの液晶パネルを採用して、初心者でも使いやすい操作性を追求したのが特徴だ。64MBのフラッシュメモリを内蔵。モノラル録音でパソコンと接続はできないが、超高音質の録音が可能で、長時間モードでは最大35時間50分の録音ができる。音程を変えずに再生スピードだけを変えることができる「早聞き・遅聞き再生機能」も搭載した。



一般への普及にしたがって低価格機が急速に伸びていた


 「VN-2100」の開発がスタートしたのは05年末。ICレコーダー全体を統括するマーケティング本部オーディオ事業推進部 企画・営業グループの木村課長代理の発想が起点だ。その頃、ICレコーダーは限られた人がビジネスで使っているというイメージが強かった。しかし、政治家に記者がICレコーダーを向けるといった映像がテレビで映し出されるなど、認知度は高まりつつあった。


 そんな中、木村氏は、自社のICレコーダーの中で実売価格が8000円前後の「VN-240」や実売価格5000円前後の「VN-120」といった低価格機の売り上げが急激に伸びていることに着目。ICレコーダーが一般に浸透し始め、低価格機の売れ行きが拡大、「初心者が使っていて、すそ野が広がっている」と考え、初心者向け製品の開発を決めた。

 現在、ICレコーダーはステレオ録音でPC接続なども可能な1万円以上の機種と、PCとの接続はできないが手軽な録音機器として利用できる1万円未満の低価格機に二分されている。中でも売れているのは低価格機のほうだ。木村氏が「VN-2100」の構想を練り始めた当時から、低価格機は市場で人気を集め始めていた。その一方で、安いだけはなく、録音時間などの基本機能が充実した機種をユーザーは求めていた。競合メーカーは、そうしたニーズを汲み取った機種を9800円前後で売り出した。

 当時、オリンパスでは、この価格帯の機種は空白だった。「負けてはいられない」――木村氏は、新機種の開発に踏み切った。新製品は入門機でターゲットは初心者、9800円前後という価格を設定した。一口に初心者といっても学生、シニアなどユーザー層はさまざま。その中で木村氏が目を付けたのは女性だった。買い物のメニューのメモやカルチャースクールなどの習い事でICレコーダーを使う女性が増えており、アンケートでも女性からの声が多く寄せられていた。そこで、女性を中心ターゲットにしながら、初心者の取り込みも狙った。


女性がはじめて商品企画を担当、こだわった女性ならではの視点


 木村氏のアイデアを受け、商品企画のプロジェクトの中心となったのは商品戦略本部オーディオ事業推進部 企画・営業グループの庄司課長代理だった。女性の立場から意見を求める中で、木村氏の「やってみない?」という一言がきっかけだった。庄司氏は、05年6月に商品企画戦略本部に配属後、チームの一員として商品企画には関わっていたが、この製品で初めてメインの担当を任された。「とにかく男性とは違う観点で取り組んだ」と庄司氏は当時を振り返る。

 操作性、長時間・高音質、デザイン、そして価格――庄司氏は、開発のポイントを4つ掲げた。女性ユーザーを獲得するためには価格の安さは必須条件。しかし、それだけでは十分ではない。特にデザインは重視した。自身も女性という立場から、女性ユーザーに受け入れられるための要素を模索した結果だ。「女性は欲が深いというか、アレもコレも入っていて、デザインも良くてそれで安ければなお良いという心理を誰でも持っている」と庄司課長代理は笑顔で理由を説明する。

 デザインにこだわったのには理由がある。「VN-2100」の開発時、ICレコーダーは「まだまだ男性よりの市場」(庄司氏)という状況。製品も男性受けする鋭角的なデザインが多かった。そんな中、「もっとやわらかいイメージを作りたい」というという想いがあった。カラーも黒やシルバーが主流の中で、「見た目で受け入れてもらいやすく、日本人が好きな色」(同)という「白」を選んだ。操作性では、使いやすい大型ボタンの採用が決められた。


コストダウンのためオリジナル半導体を新たに開発


 庄司氏の想いを、ものづくりの現場から具体化していったのは技術のプロジェクトリーダーの三浦啓彰課長代理。技術者やデザイナーとの連携を密に行いながら、低価格で使いやすさと高機能の実現、女性が受け入れやすいデザインというこだわりを1つずつクリアしていった。

 一番の難関は「半導体の立ち上げだった」(三浦氏)。価格を抑えるには、搭載する回路の構造をシンプルにしてコストダウンを図る必要がある。そこで、「ASIC」と呼ばれるICレコーダーに積む半導体を、新製品用にオリジナルで開発することを決断した。半導体は技術者が発注先の半導体メーカーに足しげく通ってすり合わせを行ったことで、「作り直しは2回」(同)と、従来よりも少なくて済んだものの、開発には1年半を要した。

 半導体を新規開発するには費用がかかる。しかし、三浦氏は「(低価格機の)市場が広がっており、前モデルのVN-240も世界で一番売れていたので、新製品は(数が)それ以上いく」と確信。量産効果でASICの開発費用を吸収し、価格を抑えられるという自信があった。

 半導体の低価格化にはメドが立ったが、操作性のポイントとなる大型ボタンと回路の配置には骨を折った。「VN-2100」ではコストを考え、使える基板は1枚だけ。「回路とボタンをどう置くか苦労した」(同)というように、1枚の基板にボタンの位置を決め、回路をどのようにうまく置くかが課題となった。しかし、何とか今の形に収めることができた。


使いやすさと性能、価格のバランスを追求


 操作性ではディスプレイも工夫した。液晶パネルのタテとヨコの比率を変え、少し縦長の画面にして、文字を大きく映し出すことで見やすくした。文字サイズは画面に入るギリギリまで大きくすると同時に、ギザギザのない滑らかに表示できるようにした。縦長の画面にするために専用の液晶パネルも作った。専用パネルは製品のコスト増になるのは明らか。しかし、三浦氏には半導体と同様、製品の量産効果で部品コストを抑えられるという計算があった。そこで、「便利に使ってもらうためにやるべき」(同)と判断した。

 記録媒体のフラッシュメモリは、容量が多ければ長時間の録音ができるメリットがある一方、初心者には管理が難しくなったり、間違って消去してしまう恐れがある。そこで使いやすさを念頭に置きつつ、価格と市場での録音時間のトレンドをにらみながら「64MB」に決定した。また、オリンパスでは録音形式がステレオのICレコーダーはパソコンとの連動を前提にしている。パソコンとの接続操作は「初心者には敷居が高くなる」(同)ことからモノラルを採用。そのため、パソコンとの接続も見送るなど「コストが高くなるため、ある一定の線は引いた」(同)と三浦氏は説明する。

 高音質録音と長時間録音の両立という課題は、2つの音声圧縮方式を併用することで克服した。超高音質モードでは、録音時間は短いが音が良い「ADPCM(適応的差分パルス符号変調方式)」を採用。長時間モードや標準モードなどでは携帯電話などで利用されているメモリ消費量に合ったバランスの良い音が録音できる「CELP(符号励振線形予測)」を利用した。

 2つの圧縮方式を組み合わせた結果、64MBのメモリで超高音質モードは約2時間50分、長時間モードでは約35時間50分の録音ができる製品に仕上げた。

 デザインは技術担当として「前モデルが人気だったということもあり、下手なことをすると売れなくなる。でも新しさも出したい」(同)というジレンマがあった。しかし、最終的には「厚みがあり持ちやすく、にぎりやすい」という庄司氏のこだわりを尊重。デザイナーとやりとりを繰り返しながら、つかみやすい19.5mmの厚さと、左右対称で丸みのあるデザインに仕上げることができた。

 こうして生み出された「VN-2100」は、男性が中心と思われたICレコーダー市場で、女性をはじめとする初心者ユーザーの開拓に成功。3か月連続でトップシェアを維持するなど売り上げは好調だ。市場の動向や女性ユーザーに着目した木村氏と製品の実現を技術面で支えた三浦氏、そして、2人の後押しを受けながら、女性目線から見た機能やデザインに妥協しなかった庄司氏のこだわりが成功をたぐりよせた。(WebBCNランキング編集部・米山淳)


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