日本の資源は日本で使う 真の循環型社会を実現――第112回(上)

千人回峰(対談連載)

2014/06/05 00:00

松山 保夫

イー・アール・ジャパン 代表取締役社長 松山 保夫

構成・文/谷口一
撮影/勝山弘一

週刊BCN 2014年06月02日号 vol.1532掲載

 携帯電話やパソコン、DVDプレーヤーなどの小型家電製品は、金や銀などの貴金属、レアメタルなどを多く含んでいる。しかし、「都市鉱山の産物」ともいわれる、それら貴重な資源は、きちんと再利用されずに、多くは埋め立て処分されているのが実状。そこに着目したのが家電量販店大手のエディオングループだ。リユース・リサイクルの子会社イー・アール・ジャパン(ERジャパン)を設立し、自前の工場でリサイクル事業を本格稼働したのだ。そこに至るまでの経緯、思いなどを松山保夫社長にうかがった。(本紙主幹・奥田喜久男) 【取材:2014.4.10/東京都千代田区のBCN本社にて】

2014.4.10/東京都千代田区のBCN本社にて
 
 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第112回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

「小型家電リサイクル法」でお客様の利便性が向上

奥田 家電量販店のグループ企業が自前の工場をもって、リユース・リサイクルまで行うというのは特異なケースだと思いますが、まずはそこに至るまでの経緯を聞かせてください。

松山 われわれは家電量販店ですから、購入していただいた商品をお客様にお届けします。血流にたとえれば、これが動脈物流です。そして、1対1の下取り回収もします。例えば掃除機をお届けしたら、不用になった古い掃除機を引き取ります。つまり静脈物流です。この量販店の物流の仕組みを利用したら、リサイクル事業における運搬コストも抑えられるのではないかと、そういうところから発想していったわけです。

奥田 1対1の下取り回収とおっしゃいましたが、1対2とか3の回収はできないのでしょうか。

松山 電子レンジを届けたら、不用な電子レンジを無償で引き取ることはできますが、そのときに「ラジカセもいらないから引き取ってほしい」と言われても、一般廃棄物に関する業の許可をもたない販売店などは回収することができませんでした。しかし、2013年4月に施行された法律によって、そこのところが変わろうとしています。

奥田 それはなんという法律でしょうか。

松山 「使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律」、通称「小型家電リサイクル法」です。

奥田 どんな内容でどう変わるのですか。

松山 小型家電リサイクル法は、資源の有効利用と環境汚染の防止を目的としていますが、国が認定した事業者の管理体制の下で使用済小型家電の回収・リサイクルを行う場合、業の許可が不要となる特例があります。販売店は認定事業者から回収の委託を受けることで、小型家電のリサイクルに積極的に協力することができるようになるのです。お客様の利便性を考えますと、小型家電を取り扱う販売店が回収も行うことが自然な流れだと思います。一方、認定事業者は、高度なリサイクル技術をもち、広域で継続的に資源回収を行う能力を有していることを求められ、認定の要件ともなっています。ERジャパンはエディオングループの物流ネットワークを通じた使用済小型家電の回収はもちろん、周辺市町村からの引取りについても積極的に行いたいと考えています。

奥田 小型家電の再資源化は認定事業者を中心にして行われるわけですね。ERジャパンがその中間処理を担う再資源化認定事業者になるということですか。

松山 そうです。今、その認定を受けるために申請を出しているところです。
 

「完全販売」という企業理念を具現化

奥田 2012年の4月に会社を設立されて、13年12月16日にリユース・リサイクル工場を稼働されたということですが、会社のプロフィールを紹介してください。

松山 資本金は1億円で、出資会社はエディオン、木村メタル産業、三井物産の3社です。

奥田 それぞれどういうつながりなのですか。

松山 木村メタル産業は、解体などにおける技術や設備をもっておられますし、三井物産は資源に非常に強くて、流通を含めてさまざまなネットワーク・情報をもっておられます。そういった企業とのつき合いのなかで、われわれもリサイクルの事業化ができるのではないかと考えたわけです。

奥田 とはいっても何か伏線はあったのでしょう。
 

 

2013年12月に稼働を開始したERジャパンのリユース・リサイクル工場

松山 そうですね。2009年の11月から翌年の2月にかけて、経済産業省が「たんすケータイあつめタイ」という使用済み携帯電話の回収促進実証事業を展開されました。このときにわれわれ販売店も使用済み携帯電話の回収に協力したのですが、その実証事業への協力を通じて木村メタル産業や三井物産とのつながりができました。ちなみにこの事業の成果は、56万9464台のケータイが回収され、その中から金22kg、銀79kg、銅5690kg、パラジウム2kgが取り出されたのです。

奥田 それらの金属がたんすに眠っていた、と。そこに着眼されたわけですか。

松山 たしかに一つのヒントになりました。それが、エディオングループの理念と結びついたのです。

奥田 その理念とは、どういうものなのですか。

松山 エディオングループのトップである久保允誉の考え方は、お客様満足のなかで、「完全販売」ということをずっと言っております。完全販売というのは、お客様が最高の満足を得られる商品を提案して、納得したうえで買っていただく。それをお届けして設置もする。故障すれば修理もする。商品寿命が尽きるまで常に最良の状態で使い続けていただき、そして不用になったら引き取る。今までは、そこで終わっていたのですが、今度は最後に引き取ったものを資源化して国内循環までやろうと、そういう考えなのです。

奥田 完全販売の循環のサイクルを広げたわけですね。

松山 家電製品を販売する者の使命として、家電販売の一環として取り組むということです。そして、お客様の利便性も向上し、環境貢献にも繋がる。

奥田 まさに完全販売ですね。(つづく)


循環型社会の一翼を担う解体作業


 瀬戸内海に面した広島県福山市のびんごエコ団地内に、ERジャパンのリユース・リサイクル工場がある。敷地面積は1万9707m2、延床面積は5590m2。A棟とB棟の2棟があり、A棟ではリユース作業、B棟ではリサイクル処理が行われている。リサイクル処理では、最新の機器を導入し、鉄・プラスチック・アルミ・ミックスメタル・銅・ステンレスなどに分けられ、重量ベースで約95%の再資源化を実現している。

Profile

松山 保夫

(まつやま やすお)  62歳。岐阜県出身。1970年、栄電社に入社。91年4月、情報事業部長に就任、パソコン専門店事業を立ち上げた。95年6月、取締役に就任。社長室長など歴任。2010年6月にはエディオン取締役に就任。エディオンでは物流サービス本部長を務め、12年4月からイー・アール・ジャパン代表取締役社長。