著作権の切れた作品を再録した『青空文庫』を主宰していた富田倫生さんとの関わりについて久保田さんに尋ねると、富田さんや津田大介さんなどと著作権をめぐるフラットな議論をする場にたびたび招かれていたのだそうだ。「デッドコピーはダメだが、著作権法第1条にある“文化の発展に寄与する”ことは勘案すべき」という立場で、著作権の行き過ぎについて久保田さんは明確に否定する。こうしたACCSのバランス感覚こそが世論を納得させる源泉なのだろう。(本紙主幹・奥田喜久男)

2020.1.10/東京都文京区のコンピュータソフトウェア著作権協会にて

海賊版や無許諾レンタル取引を毎日監視していた

奥田 昔から久保田さんは、事業の構想やアイデアがどんどん湧いてくるタイプでしたが、場合によっては周囲の人がついていけなかったりすることも多かったのではないですか。

久保田 おっしゃる通り、それでいつも周りから叱られています(笑)。でも、次から次へやりたいことが出てきてしまうんですね。誰もやっていないんだったらやらなければと。著作権侵害対策でも、汗水たらしてつくり上げたプログラムや情報を、不正コピーしたり公衆送信して儲けるような輩(やから)が出てきて、技術の発展のためになるからいいのだとか開き直られると、“カチン”とくるんですよ。一種の正義感ですよね。

奥田 その正義感は、検事になりたかった気持ちと共通するものがあるのでしょうか。

久保田 それはありますね。デュープロセス、ルールを守って正義を守ると。8ビットPCの時代のソフトメーカーの大変さを見ていると、海賊版はもちろん、中古ソフトや無許諾レンタルも許せない気持ちになったのです。当時、レンタル業者側は、ユーザーにソフトを知ってもらうことでソフトウェアメーカーにとってもメリットがあると主張していましたが、コピーをさせることを前提としたレンタルは認められないと思っていました。

奥田 なるほど。さらに聞くと、その正義感のルーツはやはり遺伝子?

久保田 母方の祖父が弁護士だったと言いましたが、祖父は中学生の頃、奄美大島から上京し、法務省勤務を経て司法試験に合格した人物で、クライアントを怒鳴りつけるような正義感あふれる怖い弁護士でした。そんな影響もあるのかもしれませんね。

奥田 ACCSとして独立した当時、口角泡を飛ばして熱く語る久保田さんは、社団法人の専務理事というよりは創業経営者のように見えましたよ。

久保田 そうですか。何もお手本がなく、好きにやってきたことでそう映るのかもしれません。実は、この護国寺の事務所に移る前は、末広町(秋葉原)に拠点を構えていました。そこで、海賊版や無許諾レンタルの取引状況を、毎日監視していたんです。

奥田 そうでしたか。当時の状況が目に浮かぶようですね。それから、その後の組織づくりの様子を見ていると、やはり社団法人ではなく民間企業の経営のように感じられました。

久保田 とはいえ、資金面は相変わらず楽ではありませんが、当時からいつも手弁当に近い形で支えてくれる知的パワーを持つ方がたくさんいてくれたことが一つの強みだと思っています。ただお上に頼って補助金をもらって運営するのではなく、自分たちがやるべきことは自前でもやるべきだという思いがあるので、民間企業的に見えるのでしょうね。

ラグビーの精神は規範を守る精神につながる

奥田 ところで、久保田さんは若い頃からずっとラグビーに携わっていますね。

久保田 15歳のときからずっとですね。いまやっている少年ラグビーのコーチや世話役も、23年目に入りました。

奥田 ラグビーの魅力は、どんなところにあるのですか。

久保田 フェアであることですね。規範やルールに基づき、それをまず理解することが求められることは法解釈にも通じます。規範を守らなければ、ペナルティを科され、負けてしまいますから。

奥田 アメリカンフットボールなども、ルールは厳格ではないですか。

久保田 英国発祥のラグビーはノブレス・オブリージュの精神に基づいており、米国生まれのアメフトは懐疑主義的。イデオロギーがまったく違うんですよ。ラグビーはレフェリーがトライと言えばトライですが、アメフトは判定にメジャーを持ち出してくる。

 そしてラグビーは、コミュニケーションのスポーツでもあります。私のポジションはフランカーでしたが、ポジションによって見え方が異なるため、スクラムの前列やバックスに常に状況を伝える必要があるわけです。昨年のワールドカップで「ワンチーム」が流行語になりましたが、ワンチームになるということは、そうそう簡単なことではないんですよ。

奥田 なるほど、ラグビーも久保田さんの正義感につながるところがあるのですね。ところで、ACCSを30年間運営してきて、自慢できる点を三つ挙げていただきますか。

久保田 一つめは、前にお話しした通り、文化庁の下にACCSを設立できたことですね。それによりロビイングができ、ソフトウェアの著作権保護に関する法改正が可能になったわけです。

 二つめは、協会のコンセプトです。法と電子技術と教育がなければ、無体財産で管理がしにくい著作物という情報を守れないということをずっと言い続けていることですね。法はロビイングにより改正可能になり、電子技術については会員各社が自社のソフトにコピープロテクションやアクセスコントロール技術などを施して、容易には不正使用できないようになりました。一番大事なのは教育だと思っているのですが、著作権を広く知ってもらう段階は終わり、ようやく、著作権教育から情報教育へという流れができつつあると捉えています。また、権利侵害の対象がビジネスソフト、ゲームソフトともに、パッケージソフトからダウンロード販売やクラウドサービスに広がっているわけですが、ACCSに来ればそうした権利者の方々にも最先端の技術や侵害対応へのサポートが提供できると自負しています。

 三つめに誇れるのは、侵害対策について、警察庁や各県警とノウハウを共有し、他のどの団体よりも早く確実に行っていることですね。

奥田 ところで、この部屋に「銀河鉄道999」の大きなパネルがありますが、これは?

久保田 松本零士先生は「宇宙戦艦ヤマト裁判」が終わった後に文化庁に相談に行かれ、ACCSを紹介されたそうです。そのご縁でお付き合いが始まりました。一時は理事を務めていただき、私と一緒に講演をしていただきました。また、私の著書作成にあたり、“創作”について多大な影響を与えていただきました。

奥田 松本先生はどんな方ですか。

久保田 とにかく発想が豊かな人で、自身の持つマンダラというか、興味の及ぶ世界がとても広く深い方です。お忙しい方なので15分間のアポということもあるのですが、実際は3時間も科学技術や冒険譚までいろいろなお話をしてくださいました。宇宙、地球からロボットや航空機などの乗り物も好き、でも『セクサロイド』のような色っぽいものも好きというタイプです。それで、あのパネルに描かれているメーテルのモデルは、実は八千草薫さんと先生に教えてもらいました。

奥田 えー! すごい秘密を知ってしまった気がする(笑)。それはそうと、これからのさらなるご活躍、心から期待しています。

こぼれ話

 まずは、久保田裕さんへの感謝と御礼を述べなくてはならない。この連載対談を掲載する 『週刊BCN』の常設欄「視点」の執筆者として最長記録を保持してもらっているからだ。現在も継続していただいており、頭が下がるばかりである。この歴史はまさに一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会の歩みにほかならない。こうして正式名称を表記してみると、長い団体名だと改めて感心する。IT業界にはコンピューターとかソフトウェアなどカタカナ文字の団体名や社名が多いこともあって、略称をよく使う。この団体の略称は「ACCS」だ。紙幅の限られるコラムであっても固有名詞は略さず使わざるを得ない。だから、今回も知らぬ間に予定文字数の半分まで来てしまった。ここら辺りで、古くからの友人である久保田さんについての印象を記そう。

 最初の出会いは大塚に店を構える居酒屋『江戸一(えどいち)』のカウンター越しだった。週刊BCNはこの近所で産声をあげた。いい感じの店だ。ポケットに3000円の余裕ができると、いつの間にか“コの字” 型カウンターに座っていたものだ。決まって「白鷹アツカン!」と店主に声をかける。少し熱めが好みである。

 白鷹は灘の酒で、大正の頃より伊勢神宮の唯一のご神酒として奉納されている。この奉納酒を蔵元から神宮に納めている酒屋に、縁あって伊勢の大学生時代から出入りしていたものだから、東京に来てからは白鷹の看板が気になってしようがない。江戸一は少し料金が高いので、行きつけの店になるまでに時間を要した。敷居が高いといえば、そうかもしれない。久保田さんは若くして懐具合が良かったのだろう、こんな居酒屋の常連なのだ。お酒のせいで(?)、初めての出会いの記憶は定かではないが、「視点」の執筆をお願いする前のことだ。印象に残っているのは、「声の大きな“うるさい奴” がいる」だった。それが久保田さんである。今はどうですか。
 

心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
 
<1000分の第253回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。