いつも「創新」~常に新しいものにチャレンジする――第75回

千人回峰(対談連載)

2013/02/04 00:00

魏 芝

魏 芝

芝ソフト 代表取締役

構成・文/小林茂樹
撮影/横関一浩

 奥田 当時のオフショア開発は順調に進みましたか。

 魏 実は、当初は今よりも順調でした。というのは、オフショア開発を行う企業が少ないので、いきなり大きな銀行向けの人事給与システムの要件定義からやらせてくれたからです。当社から十数名ほどの中国人技術者がチームを組んで、銀行の方と打ち合わせをして要件を聞き出し、システムを設計していきました。あの頃は、日本の企業ではまだ、外国人を受け入れるべきかどうかの議論をしている段階でした。不思議でしょう。外国人が日本の銀行の人事給与システムを設計してつくり上げるなんて。

 今は、要件定義までやらせてくれる企業はめったにないですね。一人か二人がチームに入り、日本の人と一緒にやるケースはありますが、以前のように丸ごと受けてしまうという案件には、なかなか巡り合えていません。ちなみに、銀行向けの人事給与システムは、計4行をやりました。そのなかの1行からは、品質優秀賞までもらいました。

見えないものをかたちにする喜び

 奥田 ソフトウェア以外の事業について簡単に説明していただけますか。

 魏 オフショア開発をこなしながら中国のマーケットも開拓していこうという思いがあって、手がけたのが北京のスポーツサービス事業です。具体的にはマラソンレースにおけるタイムの計測サービスを手がけています。選手にICタグをつけてもらい、途中経過を含めたタイムを計測・記録するものですが、中国の陸上競技連盟(中国田径協会)から唯一の許可をもらっており、北京マラソン、厦門マラソン、上海マラソン、広州アジア大会など、協会主催の大会では必ずこのサービスが使われます。ハードウェアはヨーロッパから調達し、ソフトは自前でつくって、それを抱き合わせたシステムです。中国全土に展開して、現在はおよそ100都市と契約を結んでいます。そのほか、文化事業、健康事業も展開しています。

 奥田 魏さんは落ち着いた雰囲気ですが、見かけによらず、すごい行動力があって、おまけに動き方が素早い。何がそうさせるんですか。

 魏 「創新」の精神が大事だと思っているからですね。とにかく、人に、社会に役立つことを、自分たちができるならやりたいという気持ちがあります。事業内容が多岐にわたって、商品やサービスのバリエーションが幅広くなると、接する顧客層も広くなり、みんなそれぞれ独自の考え方やライフスタイルをもっていることに対する理解が深まります。そうした幅の広がりに合わせるならば、のんびりと構えてはいられません。

 奥田 なるほど、「創新」の精神ですね。魏さんは幼い頃からそういうタイプだったのですか。

 魏 いいえ、まったく違います。ものすごくおとなしくて、本をたくさん読む子どもでした。今はまったく別人ですよ(笑)。

 奥田 変わったのはいつ頃なのでしょう。

 魏 会社を設立してからですね。接する人が多くなると、なにかしなきゃと、行動するようになって、使命感や責任感に後ろから押されたのだと思います。

 奥田 行動するといろいろな情報が入る。情報が入ってくると、これはできるのではないかと思う。そう思うとやる、と。

 魏 そんな感じです。でも、静かに本を読んでのんびり過ごすというのも、私の本来の姿なのです。将来的にはそれもいいなと思っています。

 奥田 でも、今は行動ありき、ですね。

 魏 そうですね。中国と日本は世界第二、第三の経済大国ですし、やることはあまりにもたくさんあって、今は、「何をやらないか」を考える必要が出てきたわけです。そうでないと、一つのことに考えが足りなくなり、かえって中途半端になりかねません。なので、行動する前に、きちんと考えることが大事だと思っています。

 奥田 ところで読書家の魏さんとしては、歴史上の人物では、どんな人が好きですか。

 魏 諸葛孔明ですね。そして好き嫌いは別にして、すごいと思うのは毛沢東です。この二人に共通しているのは予測能力の高さです。

 奥田 その予測能力で勝ちにつなげるということですね。

 魏 そうです。ビジネスも勝つしかありませんから。

「魏さんは落ち着いた雰囲気ですが、見かけによらず、すごい行動力があって、おまけに動き方が素早い」(奥田)

(文/小林 茂樹)

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Profile

魏 芝

(Wei Zhi)  四川省成都市生まれ。成都の電子科技大学を卒業した後、中央政府機関で通信分野の教師を務める。88年に来日。日本企業にSEとして勤務し、ソフトウェア開発に従事。97年、芝ソフト株式会社を設立、以来代表取締役に就任。