インターネットで情報が動く、モノが動く、人が動く。そこに産業の“発芽”がある――第59回

千人回峰(対談連載)

2011/11/18 00:00

羅本 礼二

ミツイワ 常務取締役 羅本礼二

構成・文/谷口一

 1964年の創業で、67年に富士通のFACOM電子計算機ディーラーとして飛躍の礎を築いたミツイワ。事業の三本柱として、富士通ディーラー事業、ITシステムの保守・運用事業、半導体・デバイス事業を据えてきた。同社は、さらに4本目の柱とすべく、ネットを活用した独自の商社ビジネスを立ち上げるという。3年後に創業50周年を迎えるミツイワの新たなチャレンジが動き出す。この新事業の責任者である羅本礼二常務に、その経緯と進捗状況などをうかがった。【取材:2011年9月2日 ミツイワ本社にて】

羅本さんは、「日本の漁業の復興を目指して、インターネットの水産物取引もスタートしています」と意気軒昂だ。
 
 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
株式会社BCN 社長 奥田喜久男
 
<1000分の第59回>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

ミツイワ流商社ビジネスの三つのキーワード

 奥田 さっそくですが、ミツイワの4本目の柱となる新規ビジネスについてお話しいただけますか。

 羅本 ネットビジネスを中核にして、そこに商社系のノウハウを持ち込んだ、ミツイワ流の商社ビジネスです。そこには三つのキーワードがあります。

 奥田 その三つとは?

 羅本 一つはインターネット。インターネットをミツイワなりに再定義しました。次は中国。三つ目は地域の活性化です。

 奥田 それぞれのビジネスの中身を教えてください。

 羅本 まず、銀聯オンラインショッピングモールを使って中国市場へJAPANブランド商品を進出させます。今年6月には、モールの中にある「日本館」を運営しているチャイナコマースに出資しました。

 奥田 チャネルとして銀聯モールを選択された理由は?

 羅本 第一に銀聯カードの公式ショッピングモールであるということです。銀聯カードは世界で24億枚発行されていますし、6億人の中国人が持っています。第二に日本の企業が心配している回収リスクがないことです。注文時にデビット決済されて、翌週の円・元レートで換算されて、2週間後には出展者に入金されます。もう一つは流通です。これもしっかりと確立されています。

 奥田 「日本館」を運営しているチャイナコマースとミツイワは、どういう関係でしょうか。

 羅本 チャイナコマースの販売戦略をメインに請け負っているのが富士通マーケティングエージェントで、そことミツイワが協調して、販売を担うというかたちでやっています。

 奥田 銀聯との取引には、何かきっかけがあったのですか。

 羅本 岐阜の多治見の市長が、名産の美濃焼を中国で売りたいと言ってきたのがきっかけです。それで中国のECサイトを調べているときに、富士通マーケティングエージェントが銀聯モールの日本館の運営に関わるというのを聞いて、ぜひ一緒にと手を挙げたわけです。

 奥田 多治見にはどんな縁があるのですか。

 羅本 多治見は私の出身地です。ここから地方活性化の展開につながっていくわけです。多治見を活性化するためには地場産業の美濃焼を復興させるのが一番と考えた市長が、どうしたらそれができるかと考えた末、中国で売るということになって、私に話がきたのが経緯です。それならインターネットでしょうということで、銀聯につながっていった、と。こういうケースは、日本各地の市町村に共通する課題だと思います。

 奥田 インターネット/中国/地域活性化とキーワードが埋まっていきますね。

 羅本 地域活性化をけん引する一つのパワーとなるのが、急速に伸びつつある中国マーケットだと思います。

 奥田 美濃焼はもう中国で販売されているのでしょうか。

 羅本 いえ、まだです。来年4月の販売に向けて、しっかりブランディングして、中国の富裕層に喜んで買ってもらうための仕掛けづくりを今やっているところです。

 奥田 多治見以外にも日本には磁器・陶器の産地は数多くあります。中国市場への進出を出し抜かれる恐れはないのですか。

 羅本 他の産地とも一緒にやることを念頭に入れています。まず、中国の富裕層がほしがる磁器や陶器は何か、そこから入ろうと思っています。JAPANブランドという括りですから、焼物だけではなく、他の商品、他の産地のことも考慮に入れています。

 奥田 それでこそ、品揃えに厚みが出て、お客を引きつけるということですね。
 

価値ある情報をネットで発信する

 羅本 地域活性化についていえば、中国市場を狙うだけでなく、日本の漁業の復興を目指して、インターネットの水産物取引もスタートしています。

 私どもは、ITシステムを作る・売るという仕事をずっとやってきましたけれど、今回の水産取引では、ITシステムをミツイワもお客さまと一緒に使ってビジネスを大きくしようというアプローチなのです。

 奥田 コンサルタントのようなことも行うのですか。

 羅本 いや、そんなかっこいいことでなくて……。これまでは、当社がシステムを構築して、使ってくださいというビジネスでした。それが今回は、インターネットの水産取引そのものを運営することになります。スーパーや飲食店に漁港から直接、魚介類を買っていただいて、その取引量が増えるとミツイワの利益も増えるという仕組みです。従来はシステムを売るだけで、そのシステムを使ったビジネスについてはあまり関係なかったのですが、今回はミツイワ自身もそのシステムを使って水産物取引のビジネスをするわけです。

 奥田 そこには、どんな狙いがあるのでしょう。

 羅本 新しい流通メカニズムを日本の水産業に持ち込むことによって、日本の水産業復興を実現したい、と。

 奥田 通常はこの部分はSIerが立ち入る領域ではなかったですね。また、先方も入ってほしいとは言いません。そこに入っていくわけですね。

 羅本 最初のキーワードで触れましたが、ネットの力をもう一度再定義すれば新しい仕組み、メカニズムができると気がついたんです。これは、たまたま水産物の取引ですが、農業だとか、いろんな業種で可能性を秘めていると思います。ただ、新しいアプローチの仕方が必要ですが……。

 奥田 閉塞感のある業界に風穴を開けるというわけですか。

 羅本 はい。ベースはインターネットを有効に活用すれば情報が動く。情報が動けばモノが動いて人が動く。インターネットでどんな情報をどう動かすかですね。水産物の取引でいいますと、規格外の魚介類ということで魚市場の流通に乗らないけれど、でもおいしい魚という情報が今まではスーパーや飲食店には流れなかった。

 奥田 そういうことはありますね。

 羅本 埋もれた価値ある情報をネットで発信する、そこに大きなビジネスの鉱脈が潜んでいると思っています。

 奥田 たしかにおっしゃる通り、ネットの再定義ですね。

 羅本 地域の活性化というキーワードでは、インターネット水産取引と電動漁船(e-シップ)と自然エネルギーを組み合わせた環境未来漁港・スマート漁港にも取り組みます。次世代型の新しいかたちで日本の水産業を活性化していきたいと考えています。

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