何でも見てやろう、やってやろうの精神で――第38回

千人回峰(対談連載)

2009/04/06 00:00

トム佐藤

トム佐藤

新規事業開発コンサルタント

次にマイクロソフトがすべきはクラウドへの対応

 奥田 ところで『マイクロソフト戦記』を読んでいると、草創期のマイクロソフトはかなりいい加減な会社だという印象を受けるのですが、当時のソフト会社はみんなそんなものだったんですか。

 佐藤 そうです。昔のマイクロソフトは、かつて乱立した.com会社に似たようなところはありました。当時のソフト会社は、急成長した後、あっという間になくなってしまったところもたくさんありましたし、結果的には手堅いビジネスをやっているところが生き残ったというのも.com会社との共通点です。

 奥田 Windowsがデファクトスタンダードになった経緯は、この本にも詳細に書かれていますが、それを一言でいえばどういうことなのでしょうか。

 佐藤 「device independent」というコンセプトを打ち出して、Windowsを使って製品をつくれば、誰でもどこにでも商品を売っていけるという「最大多数の最大幸福」を追求したことが要因といえるでしょう。

 奥田 では、マイクロソフトとアップルの最大の違いはどこにあるのでしょう。

 佐藤 アップルは、自社でハードウェアまでつくってエンドユーザーに供給するというスティーブ・ジョブズの戦略が基本にあって、これは創業以来ぶれていません。一方、マイクロソフトは、エンドユーザーには売らず、数多くのハードメーカーにライセンスし、OEM戦略で大きくなったという経緯があります。このため、OEM戦略をとらなかったアップルのマーケットシェアは低位にとどまっているわけですが、両社とも戦略を変えることはしていません。

 ところが、Windows XPからVistaに変わって、ユーザーインターフェースも変わってしまいました。使い勝手が変わってしまったのです。新しい機能が付加されることはいいことなのでしょうが、これまでWindowsを使ってきた何億人ものユーザーにとっては不便といえるでしょう。ですから、これからマイクロソフトは、現在のユーザーベースをしっかりメンテナンスして、無理に使い勝手を変えるようなことはしないことですね。

 奥田 Windows XPを復活させたミニノートPCは、マイクロソフトにとって成功だったと私は思うのですが、その点どうでしょうか。

 佐藤 私も成功だったと思います。ただし、マイクロソフトはミニノートPCをそれほど重要視していません。それよりも、いまマイクロソフトがなすべきことは、クラウドコンピューティングへの対応です。

 奥田 このところ、「クラウドコンピューティング」という言葉をよく聞くようになりましたが、ネットとクラウドがどう違うのか、いまひとつわかりません。

 佐藤 たしかに、ウェブホスティングとクラウドの違いはわかりにくいですね。私にもわからないところがあります。

 クラウドは、簡単にいえば、プロセッサのパワーがより多く必要になったら、それをクレジットカードで買えるということです。サーバーを100台追加して買うというのではなく、プロセッシングパワーを買うというコンセプトです。開発者にとってはスケーラビリティ(拡張性)があるため、楽です。それは、たとえば100人だったユーザーが1万人に増えても、あわててサーバーを増設する必要がなく、システムに任せられるからです。

 これからプロセッシングパワーはどんどん必要になってきますから、クラウドは非常に重要です。もし私が、今後コンピュータ関連の事業をするとしたら、間違いなくクラウドでシステムを構築するでしょうね。

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