• ホーム
  • トレンド
  • 「一人で死ねよ」に滲む社会の病理、ITにできることはあるのか

「一人で死ねよ」に滲む社会の病理、ITにできることはあるのか

オピニオン

2019/06/02 17:00

 また子どもが犠牲になる痛ましい事件が起きた。

 5月28日に川崎で起きた殺傷事件だ。背後からいきなり無言で切りつけられれば、大人でも逃げることすら難しいだろう。永年、ITの今を伝える仕事を続けてきた身として、このような悲劇が起きると、技術で防ぐことはできなかったかと考える。昨今、怪しい動きをする人物を監視カメラで発見することは、かなりの精度でできるようになってきた。

 しかし、時間の猶予なく犯行に及んだとすれば、発見できても手を打つ余裕がない。徹底的な監視体制を敷き無数の警護ロボットを盾として配置しなければ、子どもたちを守ることは難しかっただろう。今の技術水準では限界がある。直接的な手立てが無理でも、間接的なことなら、ITにも何かできるかもしれない。

 犯人は19人を殺傷した後、自殺してしまった。他人を巻き添えにした「拡大自殺」とも言われている。他人を、しかも子どもを殺すなんて、どう考えても許されない。事件の事を知り、私は思わず言ってしまった。「死ぬなら一人で死ねよ」と。多くの人が「せめて一人で」と感じたことだろう。しかし、『川崎殺傷事件「死にたいなら一人で死ぬべき」という非難は控えてほしい』とする藤田孝典氏の文章を読んで考えさせられた。

 自分が発した「死ぬなら一人で」のホンネは何だろう。そこで見つけたのは「おまえが自殺したって別に構わないけどな」という、突き放した氷よりも冷たい考えだった。これでいいのか。もちろん、「苦しければ自殺する自由もある」という考え方は理解はできる。しかし、ここでも原因の「苦しさ」については、やっぱり他人事だ。このあたりに、もやもやとした社会の病理のようなものを感じた。
 

 警察庁によれば、2016年の自殺者数は2万1900人。また、厚労省が17年にまとめた、人口10万人あたりの自殺死亡率の国際比較では、日本はワースト6位だった。1位がリトアニア、次いで韓国、スリナム、スロベニア、ハンガリー、そして日本の順。この10年で数こそだいぶ減ってきたが、日本は依然として自殺者がきわめて多い国だ。それでいて、自殺の本当の理由は分からないし、社会として対策を立てるのも難しい。

 こんな環境で、もし今回のような「拡大自殺」が増えてしまえば……。自殺者は潜在的な社会のリスクと捉える必要もあるだろう。死なずに済む社会を目指すことを含め、自殺者を減らす努力は続けなければならない。

 事件があった翌日の5月29日、たまたまポケモンの事業説明会があった。彼らが生み出したスマホゲーム「ポケモンGO」は、世界のアクティブユーザーが1億人を超えるという大ヒットを記録した。外に出かけ、歩けば歩くほど多くのポケモンやイベントに出会えゲームが進む、とてもユニークな世界観。健康維持のため、高齢者が早朝の散歩がてらにポケモンGOで遊ぶという、これまでのゲームの枠を飛び越えた状況をも生み出した。
 
眠りをゲームに取り入れることを発表したポケモンの事業説明会。
当日、ポケモンGOに寝転んだカビゴンを登場させその本気度を示した

 ポケモンの新たなチャレンジは睡眠をモチーフに新たなゲームを作ることだという。その名も「ポケモンSleep」。詳しい仕様はまだ分からないが、夜はしっかり寝て、昼は元気に活動する、ということを促すゲームになりそうだ。ポケモンの面白さは、現実とゲームの世界を融合させながら、より豊かな生活を目指していることだ。よく歩き、

 よく眠ることで、生活のリズムが整い健康を手にすれば毎日に彩りが加わる、そんなゲームに仕上がればとても面白い。OECD(経済協力開発機構)の調査「Gender Data Portal 2019」では、主要33カ国中、最も睡眠時間が短いのが日本だった。自殺者の多さと短い睡眠時間。もしかすると何らかの関係があるのかもしれない。とすれば、ゲームが人の命を救うことにつながる。ITの力で人を救うというのは案外こんなことなのだろう。(BCN・道越一郎)