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ローソンの白石卓也執行役員 「生産性向上の切り札はロボット、AI、ICタグ」

インタビュー

2017/04/21 12:00

 「日本の人口が50年後の2065年に8808万人になり、生産年齢人口が15年比で4割減の4529万人になる」という厚生労働省が4月10日に発表した衝撃的なリリースが、小売業界を揺さぶっている。ローソンの白石卓也執行役員は「生産性向上の取り組みは待ったなし。これまでとは別次元のステージに向かおうとしている」と、足元の地殻変動を見据えている。

取材・文/細田 立圭志、写真/大星 直輝


ローソン執行役員の白石卓也業務システム統括本部副本部長 兼 経営戦略本部副本部長
兼 ローソンデジタルイノベーション社長

■生産性向上の切り札はロボットAI、ICタグ
 

テクノロジー革命で別次元のステージへ

―― コンビニエンスストアを含む小売業全体を取り巻く課題は数多くありますが、中でも注目している課題は何ですか。

白石 人手不足と生産性の向上です。この2点はセットで、待ったなしの状況です。人手不足と人件費の高騰というダブルパンチがわれわれを襲っており、ここにメスを入れないと5年先、10年先がないほどの危機的な状況にあります。

―― 店舗オペレーションが立ち行かなくなり、経営の継続が困難になるほどの切迫した状況だと。

白石 そうです。最低賃金は毎年上がっていくので、生産性を上げなければ収益が確保できない事態に陥ります。もう一つが、自車業界や金融業界でも起きている新規参入ベンチャーによるビジネスモデルの大改革です。同じ現象が小売業でも間近に迫っていると認識しています。これまでわれわれが40年かけて蓄積してきたテクノロジーでは太刀打ちできない、非連続的な別次元のステージに移ろうとしているのです。

―― 昨年2月に、最新のデジタルテクノロジーに特化したローソンデジタルイノベーションを設立したことも関係しますね。

白石 生産性の改善に向けて、システムと業務を内製化した点がポイントです。IoTAI、RFID(タグやカードに埋め込んだID情報の自動認識技術)などの最新テクノロジーを使って、ローソンがどのようにビジネスモデルを変えていくかなので、むしろ外部のベンダーは提案できないでしょう。危機意識を一番持っている内部の人間が携わらなければならず、新しい会社を立ち上げたのです。
 

人手不足と生産性の向上の対策は待ったなしの状況と指摘する

―― これまでのSCM(サプライチェーン・マネジメント)やCRM(カスタマーリレーションシップ・マネジメント)の延長線上ではないテクノロジーですか?

白石 顧客の販売データをSCMやCRMで分析するレベルとは次元の異なる、ビジネスモデルそのものを変えてしまうテクノロジーの刷新が起きています。(レジのない)Amazon GOのように、まさに従来の延長線上では考えつかなかったことが、現実になろうとしています。われわれも取り残されないようにしなければなりません。

販売の完全自動化で人間は何をするのか

―― 販売の完全自動化というイメージでしょうか。そうなったときに、販売員である人間は何をすればいいのでしょう。

白石 レジや決済まわりはある程度、自動化が進むでしょう。しかし、われわれは決して大きな自動販売機をつくろうとしているわけではありません。

 クルー(店員)の仕事はレジでバーコードを読むことではなく、商品以外の多岐にわたるサービスの丁寧な説明や提案、ファーストフードと呼ぶレジまわりのチキンやおでん、コーヒーなどの温かい食べ物を接客しながら提供することなのです。本当に人がしなければいけないことと、機械に任せられることを切り分けしましょうということです。
 

レジまわりが自動化されても人間のすべき仕事はある

―― 約1万3000店のリアル店舗は今後も必要ですか。

白石 もちろんです。ローソンはお客様とのタッチポイントやコミュニケーションハブとしてのインフラになろうとしているので、店舗ネットワークは必要ですし、お客様とのコミュニケーションには人の力が必要です。

―― 生産性を上げるテクノロジーはどこに使われますか。

白石 昔の人海戦術で行う業務システムならば品揃えの変更は1万3000店の10%が限界でしたが、ITを駆使すれば1万3000通りの品揃えも可能です。コンビニは出店形態一つをとっても地方や都市部、幹線道路や住宅地、駅前、駅中、オフィス街など、フォーマットはさまざまです。

 客層や売れる時間帯も異なります。1店ごとに品揃えを変えるのではなく、共通と個別の仕様の複雑なバランスを取りながら運営するところに、テクノロジーの入る余地が生まれるのです。

・<レジロボの実証実験で試したかったこと>に続く
 
■プロフィール
白石卓也(しらいし・たくや)
1969年生まれ。東京大学大学院工学系航空宇宙工学科卒業。フューチャーアーキテクト、プルデンシャル生命保険、日本IBM、ベイカレントコンサルティングを経て、2015年4月ローソン入社。ローソンが推し進める製造小売業としての生産性改革を実現するための次世代システム構築の責任者。16年2月に戦略的システム子会社としてローソンデジタルイノベーションを設立し代表取締役社長を兼務。最新テクノロジーの導入やシステム内製化に向けた組織づくりを推進

・【動画】役員が語る『会社の夢』― ローソン 白石卓也執行役員
 
◇取材を終えて

 あるメーカー取材では東京・品川駅から出るシャトルバスに乗るのだが、バスの待ち時間に利用する「ナチュラルローソン品川インターシティー店」で、ある変化に気づいた。店長らしき女性が新メニューやお買い得品を元気な声でアナウンスし、販売員もその声に合わせているのだ。「レジまわりの展示やPOPを変えても、興味のないお客様の視野に入らない」と語る白石執行役員。販売の自動化が進んでも、最後の一押しや気づきを与える声掛けに人の力は必要なのだ。(至)
 
※『BCN RETAIL REVIEW』2017年5月号から転載