データと関連ニュースで振り返る“地デジ化”10年

時事ネタ

2011/07/24 09:00

 7月24日正午、テレビの地上アナログ放送が終了する。東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手・宮城・福島の東北3県を除き、テレビ番組はすべて地上デジタル放送(地デジ)へと移行することになる。放送業界はもちろんのこと、テレビ・AV・PC関連メーカー、家電販売店、そして全国のテレビ視聴者を巻き込んだ地デジ化の一大ムーブメントは、徐々に終焉に向かうことになる。地デジ化に向けたこの10年間の歩みを、関連製品の販売実績データやニュース記事を振り返りながら追った。

ピーク時のテレビ販売台数は2004年実績の約93倍



 下記のグラフは、地デジチューナーを搭載した薄型テレビ(液晶テレビ+プラズマテレビ)の販売台数の推移を表したものだ。BCNが集計を開始した2004年10月の薄型テレビの販売台数を「1」として、その後、どのように販売台数が伸びてきたかを指数化した。なお、長期間にわたる時系列データをみていくために、標準パネル(リアル店舗中心)のデータを使用している。


 電波周波数帯の有効利用と情報のデジタル化への対応のために、アナログ放送終了の期限を2011年7月24日までとしたのは、2001年施行の改正電波法。その後、大都市圏で地デジの試験放送が開始され、2003年に国内で初めて地デジに対応したテレビが登場した。しかし、2004年までの販売台数はほぼ横ばいの状態。地デジ対応テレビのラインアップが増えていくにしたがって、2005年下期から販売台数は少しずつではあるが上向いた。この年、地デジテレビ普及の目安といわれた「1インチ1万円」の価格の壁をクリアし、次第に現実的な商品になってきたことが、時代の先端をいくデジモノ好きの購入マインドを後押ししたともいえる。

 しかし、2007年2月に総務省が発表した意識調査によると、地上アナログ放送停波の認知度は93.9%に上るものの、地デジ対応受信機の世帯普及率は27.8%にとどまり、一足飛びの普及には至らなかった。薄型テレビ販売台数の伸びを「顕著」と表現できるようになったのは、2009年の後半以降。家電エコポイントの導入で弾みがつき、2010年11月の年末商戦ではポイント半減の駆け込み需要で指数は93.4に達し、まさに驚異的な伸びを記録した。ちなみに、2010年12月に実施した総務省の調査では、地デジ対応受信機の世帯普及率は約95%に到達している。

 エコポイントが終了した今年3月の実績は、東日本大震災の影響で予想を下回ったものの、2台目のサブテレビとして小型モデルの販売が好調。タイムリミット間際の6月販売実績も42.2と数値を伸ばしている。

サイズ別では、リビングから個室まで対応する32V型が一番売れている
(左から、シャープの「LC-32V5-B」、三菱電機の「LCD-32ML10」)


 地デジチューナーを搭載したレコーダーについても、同様に2004年10月の販売台数を「1」として指数化した。レコーダーはテレビとセットで購入することが多いので、テレビの販売台数指数とほぼ同じ動きを示している。最近ではブルーレイディスク(BD)レコーダーの価格も手頃になり、地デジ化の必須アイテムとして販売を伸ばしている。「テレビは地デジ化したけれど、録画はまだアナログのまま」という人は、購入を検討していい時期だ。


トピックで完全地デジ化までの軌跡をたどろう!



 1953年にNHKのテレビ放送が開始され、広く世帯に普及し、親しまれてきた地上アナログ放送。その停波と地デジへの完全移行の軌跡を、年代別に主なトピックと当サイトの記事でまとめた(次のページへ)。
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【主なトピック:2006年まで】
※注意事項
本記事内で紹介している過去記事は、サイトリニューアル等の影響により、レイアウトが崩れている場合があります。また、価格や肩書、社名などは、記事掲載当時のものとなり、現状と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

■1998年10月/地上放送のデジタル化計画発表
 政府がテレビの地上放送をアナログからデジタル化する計画を発表

■2001年7月/アナログ放送終了期限が10年後に決定
 改正電波法の施行で、地上放送のデジタル化とアナログ放送終了期限が2011年7月24日までと決定

■2003年4月/世界初のBDレコーダーが登場
 ソニーが世界初となるBDレコーダー「BDZ-S77」を発売。BSデジタルチューナーを内蔵し、デジタル対応の先駆けとなった

ソニーの世界初となるBDレコーダー「BDZ-S77」

■2003年6月5日/地デジ対応ハイビジョンテレビが登場
 東芝は12月から始まる3大都市圏での地デジ放送に対応したハイビジョンテレビ「FACE DIGITAL」を発売

東芝の業界初となる地デジ対応ハイビジョンテレビ「FACE DIGITAL 32D4000」

■2003年7月/地上デジタル放送推進協会(Dpa)設立
・地上波デジタル放送 開局準備、急ピッチで進む
 現在の社団法人デジタル放送推進協会の前身。2007年4月、BSデジタル放送推進協会と統合し、地上・BSデジタル放送の普及推進と地上・BSアナログ放送の終了を周知する団体として、地デジ普及の推進役となる

■2003年12月/3大都市圏で地デジの放送スタート
 全国に先立って、東京・名古屋・大阪の3大都市圏で地デジ放送がスタート

■2004年1月/地上デジタル録画対応PCが登場
 NECは地上/BS/110度CSのデジタル放送・録画に対応したデスクトップPC「VALUESTAR TX」を発売

■2005年1月
・「地デジ」で選ぶDVDレコーダー、10万円切って今が買い時か
 地デジチューナーを搭載したDVDレコーダーの価格が10万円前後となり、種類も充実。普及がスタート

■2005年2月
・低価格化が進む液晶&プラズマモニタ、大画面薄型テレビの買い時はいつ?
 大画面薄型テレビの低価格化が加速して、普及の目安といわれた「1インチ1万円」が実現

■2005年9月
・NHKや民放キー局、移動体端末向け地デジ放送「ワンセグ」を来年4月に開始
・各局美人アナがワンセグ開始で勢ぞろい、新宿で記念イベント
 NHKと民放7社は、2006年4月1日から地デジの移動体向け放送サービスワンセグ放送を開始すると発表。スタート日には、新宿で記念イベントが開催された

■2005年12月
・今「買い」の大型液晶TVは32V型? 24%もの値下がりで一層お手頃に
 画面サイズ32V型クラスの価格が下がり、販売数も増加。テレビ画面の大型化に拍車がかかる

■2005年12月
・KDDIなど、携帯で地デジが見られる初の「ワンセグ」対応端末を発売
 地デジ放送の携帯・移動体向けサービス、ワンセグ放送に対応したau携帯電話「W33SA」(三洋電機製)が登場

■2006年6月
・デジタル家電のW杯需要、DVDレコーダーと液晶テレビに大幅プラス効果
・日本戦当日に何が売れた? 「32型お持ち帰り族」も登場したW杯駆け込み特需
 4月下旬に始まったサッカーワールドカップによる需要で、DVDレコーダーと液晶テレビの販売は好調

■2006年11月
・「地デジ化率」薄型テレビは9割、急激に立ち上がる地デジ需要
 年末に全国に拡大する地デジ放送を受けて、薄型テレビ、レコーダー、PCで地デジチューナー搭載モデルが急増

■2006年12月1日/全国で地上デジタル放送がスタート
・今日から地デジ全国に拡大、記念式典で草なぎ剛さんや安倍晋三首相らが祝辞
 地デジ放送の受信可能地域が全国47都道府県に拡大し、全国世帯の84%、3950万世帯で視聴できるようになった

■2007年5月
・総務省、地上デジタル放送対応受信機の世帯普及率は27.8%、普及に弾みか
 総務省が実施した浸透度調査で、地デジの認知度は約9割。地デジ対応受信機の世帯普及率は27.8%に

■2007年10月
・40V型以上が2割突破目前の薄型テレビ、気になるサイズ別の売れ筋は?
 画面サイズ32V型クラスの価格が下がるとともに、40V型以上の大画面モデルが躍進。大型モデルへと人気がシフトしていった
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【主なトピック:2008年~現在まで】
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■2008年3月
・次世代レコーダー動く! 台数で3割、金額で5割に迫る勢い、本格的拡大期へ
 ハイビジョン画質に対応するBDレコーダーの人気が本格化。北京オリンピック需要をにらんで 市場が活性化した

■2008年6月
・マイクロソフト、地デジ視聴をOS標準搭載へ
 マイクロソフトはWindows Vistaの「Home Premium」と「Ultimate」の2エディションで地デジ対応する「TV Pack」を搭載すると発表

■2008年10月
・今や40-42V型でも20万円前後、リビングの大画面化は夢じゃない!
 画面サイズが40V型以上のテレビも単価が下がり、買い求めやすい価格帯になった

■2009年5月
・総務省、地デジ浸透度調査、地デジ対応受信機の世帯普及率は60.7%
 総務省が実施した浸透度調査で、地デジの認知度は約97.6%。地デジ対応受信機の世帯普及率は60.7%に

■2009年5月
・エコポイント別薄型テレビの売れ筋は? 前年比6割増で絶好調のスタート
 エアコン、冷蔵庫、地デジ対応テレビに対して、お得なエコポイントが導入され、地デジ化推進に期待が高まる

■2010年1月
・JEITA、PC国内出荷実績、12月は地デジチューナー内蔵ノートPCが前年比2倍
 地デジチューナー内蔵PCが前年同月比17.9%増の5万6000台に拡大。特にノートPCは約2.1倍の1万6000台と大幅に伸長した。

■2010年4月
・薄型テレビのエコポイント駆け込み特需、3月第4週は前年比3倍と盛況
・2010年3月の薄型テレビは過去最大の伸び、エコポイント基準切り替えが影響
 4月1日からのエコポイント基準の切り替えをきっかけに、薄型テレビの駆け込み需要が発生。過去最大の伸び率をマークした

■2010年4月
・地デジの受信可否がわかるアンテナキットの無償貸し出し、対象を全国に拡大
 総務省テレビ受信者支援センターは、地デジが実際に受信できるかを確認するための「地デジ専用アンテナキット」無償貸し出しサービスの対象を全国に拡大

■2010年4月
・話題の3Dテレビ「3D VIERA」、好調スタート
 パナソニックが国内初の3Dに対応した「3D VIERA(ビエラ)」を発売

■2010年6月
・W杯の販売効果は!? 家電量販店の期待度を探る
上新電機編/ソフマップ編/ビックカメラ編/100満ボルト編/ベスト電器編/ユニットコム編
 開幕間近のサッカーワールドカップをにらんで、薄型テレビ、BDレコーダーなどの店頭での販売が活性化した

■2010年7月
・日本「地デジカ」大作戦、草なぎさんらが銀座をパレード、珠洲市ではひと足早くアナログ放送停波
 地デジへの完全移行まで残り1年となった7月24日、総務省とDpaなどが、草なぎ剛さんらを司会に迎えて記念セレモニーを開催

■2010年7月
・石川県珠洲市のアナログ放送が終了
 石川県珠洲市は総務省の「アナログ放送終了リハーサル実施地域」に選定され、1年前倒しでアナログ放送の停波を実施

■2011年4月
・復興へ――、BCNランキングにみるPC・デジタル家電の震災インパクトとこれから
 エコポイント終了による駆け込みなどの特需は特にみられず、震災の影響を物語る結果となった

■2011年6月
・総務省とDpa、「地デジ難視対策衛星放送」の一時利用を受け付け、約半年間OK
 アンテナ工事の遅れなど、やむを得ない事情で地上デジタル放送を視聴できない家庭や施設向けに、「地デジ難視対策衛星放送」が一時的に利用できるかたちに

■2011年7月/東北3県以外の全国でアナログ放送が終了
 震災で被害を受けた東北3県を除いて、7月24日に地上アナログ放送が終了。地デジへ移行した


なぜ、アナログからデジタルに移行するのか?



 そもそも、なぜ、アナログからデジタルに移行するのかを、ここでもう一度おさらいしておこう。

 デジタル化の最大の理由は、電波の有効利用だ。これまでのテレビ放送で利用していたVHF・UHF帯に加え、携帯電話や無線ブロードバンドの普及によって、国内の電波事情は逼迫していた。テレビ放送をアナログからデジタルへと移行することで、テレビ放送で使用する電波帯域を大幅に節約し、限りある国内の電波を有効に活用することができるようになる。

Dpaは残り1か月を切った2011年7月1日から17日まで、地デジ化周知活動として「山手線デジタル放送トレイン」を実施した(写真は記者会見の様子)

 第二の理由が、情報のデジタル化の流れだ。インターネットを中心に、情報の多くがデジタル化されているいま、テレビ放送も例外ではいられない。情報をデジタル化することによって、取り扱いやすくなるというメリットがある。

 もちろん、ユーザーにとってのメリットも大きい。フルHDの美しくクリアな画質で番組を視聴できるうえ、5.1chサラウンドの臨場感ある音声も楽しめる。このほか、ゴーストなどの電波障害が解消や、リモコン操作での番組表の閲覧、データ放送などで地域情報を簡単に入手できるなど、新しい便利な機能も手軽に利用することができる。ユーザーとしては、アナログをデジタルにただ置き換えた「番組を見るだけ」という使い方にとどまらず、地デジならではの便利さを積極的に楽しみたいところだ。

 最後に、これからアナログテレビの画面がどうなるのかを紹介しておこう。7月24日の正午に地上アナログ放送は終了する。この時間を境に、番組は映らなくなり、ブルーバックの「お知らせ」表示に切り替わる。そして、24時にアナログ放送は完全に停波し、アナログテレビは何も受信できない、いわゆる「砂嵐」状態になる。

7月24日24時でアナログ放送は終了し、その後は「砂嵐」状態になる
(写真は、石川県珠洲市で2010年7月に実施した「アナログ放送終了リハーサル」で撮影したもの。上段がデジタルテレビ、下段がアナログテレビ)

 地デジ化によって、放送は新しい時代を迎える。コンテンツも、デジタルの特徴を生かした新しい手法のものへと生まれ変わりつつある。それでも、情報の入手手段やエンタテインメントの楽しみ方が多様化しているいま、「放送」の地位は相対的には低下しつつあるといえるだろう。デジタルに完全に生まれ変わった「放送」が、これから何を提供してくれるのかに期待したい。


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