放送局仕様のプロ機材が一堂に会する「Inter BEE 2025」が11月19~21日、千葉県の幕張メッセで開かれた。もともとは国際放送機器展(International Broadcast Equipment Exhibition)と言われていた展示会。映像・音声コンテンツ関連の最新機材を一望できる大イベントだ。技術の進歩と低価格化が進む昨今。個人でも放送局並みの映像コンテンツを製作できるようになってきた。放送業界の関係者はもちろん、玄人はだしのコンテンツを制作する猛者も大集結。今回は、立体的な音を実現する、いわゆるイマーシブオーディオ界隈、音のVR(Virtual Reality=仮想現実)関連の出展を中心にぐるっと回ってきた。
三研マイクロホンが参考出品した
アンビソニックス用マイクシステム「AMB-4S(仮称)」
今回、個人的に最も注目したのは、知る人ぞ知る三研マイクロホン。アンビソニックス用マイクシステム「AMB-4S(仮称)」を参考出品していた。いわゆるVRマイクというカテゴリーの製品だ。本体に4つのマイクカプセルを備え、4方向から音声を同時に収録。収録後に加工することで、立体音響を作り出したり、音の方向を変化させたりすることができる。それに三研が取り組んでいるわけだ。まだまだ試作レベルだが、製品化に向けてこれからどんどんブラッシュアップしていくという。三研と言えば今年創業101年。ラジオ時代から、NHKを始めプロフェッショナルの現場に数多くのマイクを納入してきた老舗中の老舗だ。音質の高さとノイズの少なさはピカイチ。どんな製品に仕上がるのか、今から胸が高鳴る。
Soyuz Microphonesの
「013 Ambisonic アンビソニックマイクロホン」
VRマイクと言えば、ゼンハイザーの「AMBEO」やRODEの「NT-SF1」が定番だが、一昨年あたりから参入メーカーが増え始めている。今回のInter Beeでは露・Soyuz Microphones(ソユーズ マイクロフォン)が昨年発売した「013 Ambisonic アンビソニックマイクロホン」の展示があった。高品質なハンドメイドマイクのメーカーとして知られているSoyuz。ゼンハイザーやRODEの製品が20万円前後なのに比べ、こちらは60万円超の高級品だ。実際の音質は体験しないほうが身のためかもしれない。高級品と言えば、2023年に米・Voyage Audioが発売した「Spatial Mic Dante」も60万円弱の高価なVRマイク。なんと8つのカプセルを備え8チャンネル同時収録が可能。きめ細かいVR空間の再現に貢献する。さらにDante対応というのも新しい。LANケーブルで多チャンネルのデジタル音声伝送を可能にする規格だ。VRマイクはどうしてもチャンネル数が多くなってしまう。アナログ接続だと4チャンネルでも12ピンのコネクタと太いケーブルが必要。これが結構煩わしい。Danteによるデジタル伝送なら、細いケーブルでも高音質伝送が約束されている。VRマイクにはうってつけだ。
TASCAMのフィールドレコーダー
「FR-AV4」
手軽に音のVR収録を楽しみたければ、中国・Saramonic(サラモニック)が昨年リリースした「SR-VRMIC 3D Microphone(SR-VRMIC)」がある。発売当初はご祝儀価格だったのか、1万円台の破格値で買えていたが、最近では6万円越えで販売されている。とはいえ、他社より安いことには変わりない。品質もまずまずなので、試してみる価値はあるだろう。音のVRを収録するにはマイクだけでは足りない。少なくとも4チャンネルで同時録音できるレコーダーも必要だ。Inter Beeでは、TASCAMが32ビットフロート録音に対応する新製品「FR-AV4」を展示していた。いわゆるフィールドレコーダーというカテゴリーの製品。32ビットフロート録音に対応するため、レコーダー側での音割れが発生せず、録音の失敗が極めて少なくなる。タイムコードジェネレーターを本体に内蔵し、別売りアダプターを使えばBluetooth経由でワイヤレスタイムコード同期も可能だ。さらに、HDMI Sync機能を備え、キヤノン、ニコン、ソニー、パナソニック、富士フイルム、ブラックマジック・デザインなど、主要メーカーのカメラにHDMIで接続すると、自動的にタイムコード同期するという機能もある。さらにBluetoothイヤホンなどでモニターできるなど、なかなかの意欲作だ。もちろんVRマイクの収録にも対応している。
ラグナヒルズが参考出品した「64ch Surface Array Speaker」。
聴取位置ごとに違うコンテンツを出し分けることができる
変わり種のスピーカーもあった。ラグナヒルズが参考出品した「64ch Surface Array Speaker」だ。大きな箱に小さなスピーカーユニットが64個取り付けられている。本体の中央付近で聞くと男女の声がミックスして聞こえるが、左側に立つと男性の声だけが聞こえ、右側に立つと女性の声だけが聞こえる。左右だけでなく、上下で音を出し分けることも可能。音の遅延をうまくコントロールして実現する技術だという。64ものチャンネルを個別制御する必要があるため、これもDante接続だ。聴く位置によって聴かせる内容を完全に変えることができるわけで、応用範囲は広そうだ。
ソニーの75インチ空間再現ディスプレー。
写真では色が不鮮明だが実際に見ると鮮やか。
本体上部のカメラで目の位置を検知し3D映像を最適化する
映像の3D関連の出品も多かった。今回、特に目を引いたのが、ソニーの空間再現ディスプレー(Spatial Reality Display)だ。裸眼で3D映像を見ることができる技術を使ったもので、現在業務用で27型の製品が販売されている。主に医療や設計など3Dが必要な現場のディスプレーとして活躍している製品だ。その75インチバージョンが参考出品されていた。超大型の裸眼3Dディスプレーだ。残念ながら現状では、きちんと見られるのはひとりだけ。ディスプレー上部にあるカメラで視聴者の目の位置を検知し、最適な3D映像を映し出すためだ。今のところ3Dコンテンツのチェック用など、限られた用途しかないというが、まだまだ伸びしろがありそう。指定の場所に立って見る3D映像はとても自然で、思わず引き込まれてしまう美しさがあった。
一時期大騒ぎした3Dテレビは、今や市場から完全に消えてしまった。しかし、立体的な映像や音響の技術は日々着々と進歩している。次に3Dブームが来る頃には、一気に広がるまでに洗練されていることだろう。現在のAIのように……。今回のInter Beeでは、そんな予感を抱いた。(BCN・道越一郎)
アンビソニックス用マイクシステム「AMB-4S(仮称)」
今回、個人的に最も注目したのは、知る人ぞ知る三研マイクロホン。アンビソニックス用マイクシステム「AMB-4S(仮称)」を参考出品していた。いわゆるVRマイクというカテゴリーの製品だ。本体に4つのマイクカプセルを備え、4方向から音声を同時に収録。収録後に加工することで、立体音響を作り出したり、音の方向を変化させたりすることができる。それに三研が取り組んでいるわけだ。まだまだ試作レベルだが、製品化に向けてこれからどんどんブラッシュアップしていくという。三研と言えば今年創業101年。ラジオ時代から、NHKを始めプロフェッショナルの現場に数多くのマイクを納入してきた老舗中の老舗だ。音質の高さとノイズの少なさはピカイチ。どんな製品に仕上がるのか、今から胸が高鳴る。
「013 Ambisonic アンビソニックマイクロホン」
VRマイクと言えば、ゼンハイザーの「AMBEO」やRODEの「NT-SF1」が定番だが、一昨年あたりから参入メーカーが増え始めている。今回のInter Beeでは露・Soyuz Microphones(ソユーズ マイクロフォン)が昨年発売した「013 Ambisonic アンビソニックマイクロホン」の展示があった。高品質なハンドメイドマイクのメーカーとして知られているSoyuz。ゼンハイザーやRODEの製品が20万円前後なのに比べ、こちらは60万円超の高級品だ。実際の音質は体験しないほうが身のためかもしれない。高級品と言えば、2023年に米・Voyage Audioが発売した「Spatial Mic Dante」も60万円弱の高価なVRマイク。なんと8つのカプセルを備え8チャンネル同時収録が可能。きめ細かいVR空間の再現に貢献する。さらにDante対応というのも新しい。LANケーブルで多チャンネルのデジタル音声伝送を可能にする規格だ。VRマイクはどうしてもチャンネル数が多くなってしまう。アナログ接続だと4チャンネルでも12ピンのコネクタと太いケーブルが必要。これが結構煩わしい。Danteによるデジタル伝送なら、細いケーブルでも高音質伝送が約束されている。VRマイクにはうってつけだ。
「FR-AV4」
手軽に音のVR収録を楽しみたければ、中国・Saramonic(サラモニック)が昨年リリースした「SR-VRMIC 3D Microphone(SR-VRMIC)」がある。発売当初はご祝儀価格だったのか、1万円台の破格値で買えていたが、最近では6万円越えで販売されている。とはいえ、他社より安いことには変わりない。品質もまずまずなので、試してみる価値はあるだろう。音のVRを収録するにはマイクだけでは足りない。少なくとも4チャンネルで同時録音できるレコーダーも必要だ。Inter Beeでは、TASCAMが32ビットフロート録音に対応する新製品「FR-AV4」を展示していた。いわゆるフィールドレコーダーというカテゴリーの製品。32ビットフロート録音に対応するため、レコーダー側での音割れが発生せず、録音の失敗が極めて少なくなる。タイムコードジェネレーターを本体に内蔵し、別売りアダプターを使えばBluetooth経由でワイヤレスタイムコード同期も可能だ。さらに、HDMI Sync機能を備え、キヤノン、ニコン、ソニー、パナソニック、富士フイルム、ブラックマジック・デザインなど、主要メーカーのカメラにHDMIで接続すると、自動的にタイムコード同期するという機能もある。さらにBluetoothイヤホンなどでモニターできるなど、なかなかの意欲作だ。もちろんVRマイクの収録にも対応している。
聴取位置ごとに違うコンテンツを出し分けることができる
変わり種のスピーカーもあった。ラグナヒルズが参考出品した「64ch Surface Array Speaker」だ。大きな箱に小さなスピーカーユニットが64個取り付けられている。本体の中央付近で聞くと男女の声がミックスして聞こえるが、左側に立つと男性の声だけが聞こえ、右側に立つと女性の声だけが聞こえる。左右だけでなく、上下で音を出し分けることも可能。音の遅延をうまくコントロールして実現する技術だという。64ものチャンネルを個別制御する必要があるため、これもDante接続だ。聴く位置によって聴かせる内容を完全に変えることができるわけで、応用範囲は広そうだ。
写真では色が不鮮明だが実際に見ると鮮やか。
本体上部のカメラで目の位置を検知し3D映像を最適化する
映像の3D関連の出品も多かった。今回、特に目を引いたのが、ソニーの空間再現ディスプレー(Spatial Reality Display)だ。裸眼で3D映像を見ることができる技術を使ったもので、現在業務用で27型の製品が販売されている。主に医療や設計など3Dが必要な現場のディスプレーとして活躍している製品だ。その75インチバージョンが参考出品されていた。超大型の裸眼3Dディスプレーだ。残念ながら現状では、きちんと見られるのはひとりだけ。ディスプレー上部にあるカメラで視聴者の目の位置を検知し、最適な3D映像を映し出すためだ。今のところ3Dコンテンツのチェック用など、限られた用途しかないというが、まだまだ伸びしろがありそう。指定の場所に立って見る3D映像はとても自然で、思わず引き込まれてしまう美しさがあった。
一時期大騒ぎした3Dテレビは、今や市場から完全に消えてしまった。しかし、立体的な映像や音響の技術は日々着々と進歩している。次に3Dブームが来る頃には、一気に広がるまでに洗練されていることだろう。現在のAIのように……。今回のInter Beeでは、そんな予感を抱いた。(BCN・道越一郎)





