<インタビュー・時の人>富士フイルム 電子映像事業部次長兼営業部長 松本雅岳

特集

2012/04/09 11:16

 2月18日、富士フイルムが初のミラーレス一眼カメラ「X-Pro1」を発売した。ボディ単体で15万円前後という実勢価格は、他社製品と比べるとかなり高いが、妥協せずに品質を追求した結果という。勝算はあるのか。「ユーザーの層の広がりに手応えを感じている」と自信をみせる松本雅岳・電子映像事業部次長兼営業部長に話を聞いた。

◎プロフィール
松本雅岳(まつもと まさたけ)
1955年生まれ、群馬県高崎市出身。一橋大学経済学部卒業。78年、富士フイルムに入社。富士宮工場や輸出部などを経て、ブラジル、インド、ドイツ、アメリカなどに駐在。11年4月、電子映像事業部次長兼営業部長に就任。11年10月、韓国現地法人社長も兼務。

幸先のいいスタートを切ったミラーレス ユーザー層の広がりに手応え



Q. 2月18日に発売した「X-Pro1」の感触は?

A.
 市場での引きが予想以上にいい。他社製品と比べて価格は高いが、家電量販店などからは、「実際に試して、満足してから購入していくお客様が多い」と聞いている。写真が趣味のお客様だけでなく、女性も購入しているということで、ユーザー層の広がりを実感している。 


Q. ミラーレスは4社が先行して市場をつくってきた。富士フイルム初のミラーレスも、出だしはいい、と。

A.
 その通りだ。しかし、ここまでの道のりは長かった。高いカメラ性能をもつスマートフォンが登場したことでコンパクトデジカメ市場が下り坂に入り、コンパクトを中心に事業を手がけていた当社は、もう一つの軸をつくらなければならないと判断した。他社から次々と出てくるミラーレス一眼を横目に、当社は「高品質のミラーレス」という他社にないブランドイメージを定着させたいと考え、2年程度の時間をかけてステップを踏んできた。妥協せずに、とにかく品質の高いモデルを出すために、「X」シリーズの開発に踏み切った。そして、昨年3月5日の「FinePix X100」を手始めに、「X10」「X-S1」とコンパクトの高級モデルを出し、多くのお客様から高い評価を得ている。その集大成として「X-Pro1」を出すことができた。

Q. 実勢価格はボディ単体で15万円前後だが、家電量販店の値下げ競争の結果、値崩れしてしまう恐れもある。

A.
 需要を的確に把握し、適正な量を適正な場所に提供していく。また、当社限定のコーナーを設けてくれるよう、各家電量販店と交渉していて、実際にいくつかの店舗で採用されている。目的が共有できて密に連携できる家電量販店とパートナーシップを深めていく。

Q. 現時点での課題は?

A.
 「X-Pro1」はミラーレス一眼に分類されるが、当社では「レンズ交換式プレミアムカメラ」と表現している。これには、「プロの要求に応えて十分に満足のいく撮影ができ、プロ以外の方でも十分に使いこなせる」という意味合いを込めた。この新しいジャンルをいかに市場に浸透させるかが課題だ。もちろん、お客様に家電量販店に行っていただくのが一番だが、当社からも最適な撮影法などを伝えていくことが重要と考えている。そこで、お客様に製品のよさを知ってもらう活動をするチームを事業部内に設置した。このチームでは、アフターサービスをはじめ、キャラバンなど、さまざまなことにチャレンジしていく。

Q. 国内デジカメ市場を、どのようにみているか。

A.
 スマートフォンの影響で、コンパクトは今後も厳しい。しかし、ズームをはじめ、スマートフォンでは実現できない機能を搭載したモデルは売れる。レンズ交換式に関しては、ミラーレスの需要が高まっている。このような状況を踏まえ、価値を見出した製品を出していく。

・Turning Point

 ブラジルから始まり、インド、ドイツ、アメリカと、海外赴任生活は通算16年にもなる。そこでわかったのが、「どの国も、人はみな同じ」ということだった。

 「よく耳にするのが、『○○人は、ここが違う』という表現。しかしそれは、その国だからというわけではない」。例えば、「ある人が、『インド人はお金にうるさい』と言っていたが、日本人だってお金にうるさい人はいる」。文化や風習などに若干の違いはあるが、人としての本質は変わらない。長い海外赴任で「考え方が柔軟になった」ことが、松本部長のターニングポイントになった。


※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2012年4月9日付 vol.1427より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは