<インタビュー・時の人>インテル 取締役副社長 宗像義恵

特集

2012/03/28 10:25

 薄型・軽量で高性能、しかもスタイリッシュなノートパソコン「ウルトラブック」が、ここにきてパソコンメーカー各社から相次いで発売されている。提唱者のインテルは、「ウルトラブック」をパソコンの存在意義を変革させる次世代ノートパソコンと位置づけている。さらに、今年はインテル製CPUを搭載したスマートフォンやタブレット端末も登場することから、これらのデバイスとパソコンとのシームレスな連携を訴求する。インテルは、未来の像としてどのようなデバイスを思い描いているのだろうか。(取材・文/佐相彰彦)

◎プロフィール
宗像義恵(むなかた よしえ)
1981年、東京都立大学工学部卒業。82年、インテルジャパン(現インテル)に入社し、管理本部情報システム部に配属。92年、マーケティング本部マーケティング・マネージャーとして製品マーケティングやマーケティング・プログラムを担当。ソフトウェア技術部長、プラットフォーム技術マーケティング部長、組込型半導体製品マーケティング部長、戦略マーケティング部長なども兼任する。その後、コミュニケーション製品事業本部長、社長室長経営企画担当、事業開発本部長などを歴任し、09年4月、取締役副社長に就任。

「ウルトラブック」でパソコン変革
デバイスがシームレスにつながる世界が来る



Q. ウルトラブックの手応えは?

A.
 すぐに使える高性能の次世代ノートパソコンとして、これまでの概念を変えたという声をいただいている。スマートフォンやタブレット端末に引けを取らない話題の製品で、販売も順調だ。年末までに75機種が登場する予定で、今年がウルトラブック普及元年になることは間違いない。

Q. 普及への課題は?

A.
 ずばり、ウルトラブックを世間に知ってもらうこと。テレビCMや店頭などで、メーカーや家電量販店と共同で、これまでのパソコンとは違うプロモーションで「ウルトラブック」を前面に押し出していく。また、無線LANに加えてWiMAX搭載モデルなども出てきているので、キャリアとのパートナーシップを深めていくことも重要だと考えている。

Q. そもそも、なぜ「ウルトラブック」を提唱したのか。

A.
 昨年の国内パソコン市場は1500万台規模だった。伸びるには伸びたが、パソコンが普及期に入った2000年の状況と比較して大きく成長しているわけではない。世界でみても、先進国ではパソコン市場が爆発的に拡大しているとはいえない。一方、携帯電話はスマートフォンに急速に移行するなど、進化が著しい。

Q. パソコンがマンネリ化している、と。

A.
 その通りだ。確かにコンピュータは身近になったが、市場の成長が鈍化しているのは、パソコンに「業務的・事務的」というイメージがあるからだ。もっと身近なものにするためには、もう一歩先の提案が不可欠となる。そこで、高性能でスタイリッシュ、しかもファッション感覚で持ち歩くパソコンを提案した。実際、パソコンメーカー各社が、それぞれ趣向を凝らしてデザイン性の高い製品を市場に投入している。ユーザーの意識を、「自分の好きなデザインのパソコンを持ちたい」といった感覚に変えていき、さらには購入者が自分に合ったソフトも購入する状況になること、つまりパソコン関連業界全体が活性化することに期待している。

Q. スマートフォンやタブレット端末向けのCPUも開発しているが、パソコンとの兼ね合いは?

A.
 遅まきながらスマートフォンやタブレット端末向けCPU市場に参入し、今年、当社のCPUを搭載した端末が初めて登場する。その意味でも今年は重要な年なのだが、今後はパソコンだけ、スマートフォンやタブレット端末だけを使うといった環境にはならない。パソコンとスマートフォンやタブレット端末がシームレスにつながり、シーンに応じて端末を使い分ける世界がやってくる。スマートフォンやタブレット端末にも対応したのは、これが理由だ。

・Turning Point

 ターニングポイントの一つは、東日本大震災。自分に何ができるかを考えたとき、「パソコンを贈れば、被災者が何か情報を発信できるのではないか」と思い立ち、被災地に向かった。「食べ物など、被災者には本当に必要なものがある。しかし会社として、何よりも人として何かしなければならないという思いでいっぱいだった」という。

 被災地で、パソコンメーカー各社とともに支援活動に取り組んだ時に、そこでライバル同士が協力する姿を見て、「何かを成し遂げるには仲間が必要」と実感した。この震災で、「人としていかにあるべきか」ということを改めて考えさせられた。


※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2012年3月26日付 vol.1425より転載したものです。 >> 週刊BCNとは