シースルーはまさにSFの世界! エプソンのモバイルビューアー「MOVERIO」を体験

レビュー

2011/11/25 18:26

 エプソンから11月25日発売のシースルーモバイルビューアー「MOVERIO(モベリオ) BT-100」は、メガネのように装着して映像や音楽を楽しむ3D対応ヘッドマウントディスプレイ。世界初のスタンドアローン型のシースルータイプで、目の前の光景に映像が浮かぶ視聴体験は、まさにSF世界にいるかのようだ。

3Dに対応した「MOVERIO BT-100」

液晶プロジェクターの技術で実現したシースルー



 映画やテレビ、PCの画面、ネット上のさまざまな情報が、メガネのレンズ上に映し出される。もちろん、その間も目の前の光景は透過して見えて、自分の周囲にいる人からは、ふつうにメガネをかけているだけで、レンズに投影された映像を見ていることはわからない――。

 まるでSF映画かSFアニメに登場する道具のようだが、電極を脳に埋め込んで直接、映像や情報を視覚野に送り込む電脳化に比べれば、そんなヘッドマウントディスプレイのほうがはるかに現実味があると思っていた。その理想のヘッドマウントディスプレイへの第一歩ともいうべき画期的製品が「MOVERIO BT-100」なのである。

 液晶プロジェクターや液晶ファインダーなどで高い技術力を誇るエプソンだけに、「MOVERIO」は光学技術を駆使して開発した世界初のシースルータイプ。仕組みを簡単に説明すると、メガネの左右のこめかみ部分に超小型の液晶プロジェクターを内蔵し、そこから投写する映像を、メガネのツルとレンズの接合部に仕込んだミラーと、レンズ中央部のハーフミラーの二つを使って屈折させ、目に導く。 

内蔵の液晶パネルの映像を二つのミラーで屈折させて目に導く

 レンズ中央部に仕込んだハーフミラーは、映像光を反射しながら、レンズの外側から入ってくる環境光もそのまま透過する。「MOVERIO」を装着して映像を映し出すと、目の前の光景が普通に見えつつ、そこに映像が浮かんでいるような感覚で視聴できるのである。

 一方、「MOVERIO」を装着している人を周囲の人が見ても、映像を見ていることはわからない。外部からはハーフミラーを透過して、装着者の目が見えるだけ。特に付属のシェードを外したときには、ただの透明なグラスにしか見えないので、とても映像を視聴しているようには見えない。 

周囲からは映像を見ていることはほとんどわからない

 目の前の世界が当たり前のように見えて、しかもそこに映像が投影されているという視聴体験は、かなり衝撃的。まさしくSF映画やSFアニメで描かれていた近未来の道具を、ついに手に入れたような気分になる。

数値以上に解像感の高い映像、3D表示にも対応



 「MOVERIO BT-100」の液晶パネルは、アスペクト比が16:9の0,52型ワイドパネルで、解像度は960×540ドット。フルHDの解像度でないのは残念だが、実際に視聴してみると、数値以上に解像感は高く感じられる。それは、映像の輝度やコントラストなどを上手にコントロールしているからだろう。液晶プロジェクターで培った技術力を、いかんなく発揮している。

 左右それぞれに投影装置を備えていることから、サイドバイサイド方式の3D映像の表示にも対応している。3D対応テレビのように奥行き感は調整できないが、それでも十分に立体感が味わえた。左右に別の映像が投影できるので、3D対応テレビでありがちなクロストーク(残像感)がないのはすばらしい。

 Dolby Mobileを採用している音声も、音場の広がり感・奥行き感はなかなかのもので、臨場感のあるサウンドが楽しめる。イヤホンは左右のツルの耳部分に装着するようになっていて、コードの短い専用イヤホンが付属している。

遠くを見るほど映像を大きく表示



 シースルーなので、視野に対して投影する映像の割合が常に一定なのも特徴の一つだ。どういうことかというと、50cm四方を注視しているとき、その視野のうちの3割に映像が投影されているとすれば、100m四方を見渡しているときも、同じくその3割に映像が投影されるということ。つまり、近くを見ると映像は小さくなり、遠くを見れば見るほど、映像は大きくなるということだ。

 具体的には、2m先を見ている状態だと、映像の大きさは32型相当、5m先だと80型相当の大画面になり、20m先だと320型相当の巨大画面になるのである。ということは、目の前のノートの上から、2ブロック先の高層ビルの壁面、さらには遠くの山の斜面や海の上、空の彼方にまで映像を映し出して見るようなこともできるというわけだ。

 ただし、透過して見ているため、明るいところを見るほど映像の色の濃さは薄まってしまう。映像の明るさは調節が可能だが、シースルーで投影している映像なので、どうしても限界がある。青空よりも夜空を見上げるほうが、映像がくっきりはっきり見えるし、昼間はやはりシェードの装着が必須のようだ。

昼間はシェードを装着したほうが見やすい

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約6時間のバッテリ駆動、スタンドアローンでどこでも使える



 エプソンが「モバイルビューアー」と呼んでいるように、「MOVERIO BT-100」は、バッテリ駆動で場所を選ばずに使える。バッテリ兼用のコントローラとつなぐだけで、あとはスタンドアローンで利用することができる。AV機器などとの接続は不要だ。

 コントローラは1GBの記憶容量をもち、また、最大32GBまでのmicroSDHCカードを装着できるようになっている。動画ファイル(対応フォーマットはMPEG4とH.246)や音楽ファイル(対応フォーマットはAACとMP3)などをこれらに格納しておけば、どこでも楽しめるというわけだ。バッテリ駆動時間は、動画の連続再生で約6時間。 

 コントローラは、プラットフォームにAndroid 2.2を搭載。スマートフォンやタブレット端末でおなじみのプラットフォームなので、メニュー選択や設定などはスマートフォンと同じ感覚だ。 

Android 2.2搭載で、操作はスマートフォンと同じ感覚

 コントローラ表面の約半分はタッチパッドになっていて、「MOVERIO BT-100」を装着したまま、指一本で操作することができるのは便利。しかも無線LAN対応なので、Wi-Fi環境でインターネットに接続して、ウェブサイトやネット動画を楽しめる。 

Wi-Fi環境でウェブサイトを楽しめる

 AV機器やコンセントにつながっていないと使えないというのでは、せっかくのシースルーも魅力は半減してしまう。屋外で使えるからこそのシースルー、と考えれば、バッテリ駆動で、スタンドアローンで使えて、ワイヤレスでネットにもつながるモバイルビューアーというのは、まさしく理想のヘッドマウントディスプレイとしてのあるべき姿といえる。

製品としてはまだ成長の余地あり? 不満点は――



 ただし、現状の「MOVERIO BT-100」は、ようやく理想への入口に立ったばかり、という印象は拭いきれない。とくに不満に感じたことを挙げるとするなら、次の点だ。

 サイバーパンクっぽいグラス部分など、面白いデザイン処理だと思うのだが、まず問題なのが装着感。映像を投影するために曲面にできず、直線のデザインを採用したのだろうが、屈折させて投影する仕組みから、グラスの横幅とプロジェクターを内蔵しているテンプル部分を固定せざるを得ないために、顔の幅(頭の大きさ)に合わせて左右幅を調節することができないのは、メガネのように装着するのには厳しい。

 次に問題なのが拡張性。スタンドアローンで使えるのは正しい方向だと思うが、だからといって、AV機器などに接続できる機能を一切省いてしまったのはいただけない。映像を変換してmicroSDHCカードに保存しなければ見られないのはかなり面倒だ。せめてHDMI入力があれば、テレビやブルーレイディスク(BD)レコーダーなどとつないで番組や映画ソフトを楽しめたのに……。もちろん、PCと接続してモニタ代わりに使うこともできないわけで、これができていれば、例えば移動中の乗り物内で、機密性の高いデータを周囲に漏れることなく確認したり、修正したりといったことに使えたはずだ。

 コントローラは、プラットフォームにAndroid 2.2を搭載しているのに、Androidマーケットには非対応。スマートフォンなど、ほかのAndroid端末からmicroSD/microSDHCカードを介してアプリをコピーすることはできる。ただし、さまざまなアプリをダウンロードして機能を拡張することはできない。対応アプリをダウンロードできず、MS-OfficeのファイルやPDF文書を開いて確認することもできないのでは、モバイルでの利用価値がかなり低くなってしまう。

SF世界を現実にする最初のきっかけになるか!?



 とにかく、せっかくのモバイルビューアーなのに外部入力端子がなく、実質的にmicroSDHCカードに格納した映像コンテンツしか楽しめないというのはマイナス。ただし、シースルータイプにしたことは、間違いなくヘッドマウントディスプレイの理想形へと道を切り開いたと思う。

 これまでの他社のヘッドマウントディスプレイは、アイマスクのように目の前をすべて覆ってしまって、そのなかで映像を表示するタイプのものばかりだった。その名が示すとおり、頭に装着するモニタといった趣。個人で映像を楽しむぶんには没入感が大きくていいのだが、装着中は外界と遮断したような閉塞感も少なからず感じる。

 「MOVERIO BT-100」の登場によって、新幹線や飛行機のなかで自分の好きな映画を見たり、周囲の目を気にせず仕事に専念したりできる、いわば「電脳メガネ」が現実のものになりつつあるわけだ。バッテリ駆動でシースルーだからどこでも使えるし、周囲の状況を常に確認できる。それがさらに発展していけば、例えば、運転中にナビゲーションはもちろん周囲の車や通行人の情報まで確認できたり、美術館などで作品鑑賞と解説が同時に見ることができたり、現実世界に仮想現実を投影して見せてくれるといった活用法も考えられるだろう。 

自由な姿勢で見ることができるのも魅力

 「MOVERIO BT-100」は、従来のヘッドマウントディスプレイという枠を超えて、近い将来にSFの世界を現実に変えてしまうきっかけになる製品なのかもしれない。(フリーライター・榎木秋彦)