東日本大震災で大きな被害を受けた東北地方。物理的なインフラの被害はもちろんだが、問題の一つとして浮上したのが、インターネットを介した情報の収集・確保についてだった。地方自治体のなかには、住民基本台帳ネットワークシステムにアクセスできず、被災状況などが把握できなくなったところもあった。そんな状況のなかで、バッファローは被災地を支援するために無償のネットワーク構築プロジェクト「ネットワーク支援隊」を進めてきた。その指揮を執る中井一取締役に取り組みを聞いた。(取材・文/佐相彰彦)

◎プロフィール
(なかい はじめ)1964年10月生まれ、愛知県出身。88年3月、愛知工業大学工学部卒業後、メルコ(現バッファロー)に入社。06年、ブロードバンドソリューションズ事業部長に就任。08年、取締役として、無線LANやNAS、地デジチューナーの関連事業を統括する。

被災地のネットワーク化に寄与
無線LANの利便性を伝えて普及へ



Q. 「ネットワーク支援隊」を立ち上げた理由は。

A.
 パートナー企業のSIerから「ネットワーク環境が崩壊して、困っている地方自治体がある」と聞いたのが発端だ。有線LANを構築している自治体が多く、なかには震災で庁舎が使えなくなって、住民基本台帳ネットワークシステムなど、重要なシステムにアクセスできない事態に陥った自治体がある。無線LANを使えば、自治体が抱える問題を解決できると考えてプロジェクトを立ち上げた。CSR(企業の社会的責任)活動の一環だ。


Q. どのようなメンバーで構成しているのか。

A.
 事業部の枠を取り外し、営業や開発、マーケティングなどの部署から10人を集めた。われわれが被災地支援でできることを議論し、その内容を実行に移した。

Q. 被災地で、どのようなネットワークを構築したのか。

A.
 建物の状況に応じて、3パターンの無線LAN環境の構築に取り組んだ。パターン1は、庁舎が一部倒壊して立ち入り禁止となり、一時的に近隣施設で業務しているケース。これは本庁舎のインターネット回線が使えるので、本庁舎と仮庁舎それぞれに屋外アンテナを設置し、最大1kmを2.4GHzの周波数帯で20~100Mbpsで通信する無線アクセスポイント間通信でLANを構築した。

 パターン2は、庁舎は全壊したが、仮庁舎にインターネット回線が構築されているケースで、これは仮庁舎内に無線LANを構築して、早い段階で業務を再開できる環境を整備した。パターン3は、庁舎の全壊に加え、仮庁舎にもインターネット回線がないケース。これはポータブルルータで3Gを使ってインターネット回線を確保し、仮庁舎内の無線LAN環境を構築した。もちろん、どのパターンもAES暗号の導入など、セキュリティに関しては万全を期した。この3パターンで、9自治体の要望に応えた。

Q. 自治体の反応はどうだったのか。

A.
 非常に驚いていた。「まさか、ここまで無線LANが快適だなんて」といった声も聞いた。このような評価は素直にうれしい(笑)。その反面、これまで無線LANに対して「つながりにくい」「ぜい弱なセキュリティ」という間違った認識をもっていた自治体が多かったのではないか、という感触があった。このような機会を与えてくれたことを生かして、正しい無線LANへの認識を広めることが必要だと判断している。

Q. 今後の取り組みは。

A.
 プロジェクトは6月末で終了する予定だったのだが、現在も問い合わせが殺到している状況だ。このため、今後も継続してさまざまな問い合わせに応えることに決めた。当社のもつノウハウが少しでも被災地のお役に立ち、ネットワークメーカーとして、住民の方々が快適な生活を送ることができる環境を整備できればと考えている。

・Turning Point

 取締役に就任し、ネットワーク機器やNAS地デジチューナーの事業を統括するようになって、自社製品でどのような提案が最適なのか模索していたとき、ふと思いついたことがあった。「ユーザーに製品や当社の方向性を理解してもらうには、明確なコーポレートステートメントが必要ではないのか」。

 そこで、09年の株主総会でコーポレートステートメントの変更を提案した。その結果生まれたのが、「デジタルライフ、もっと快適に」。事業統括の立場から、「このコーポレートステートメントを切り口に、トータルな提案活動の強化ができた」と自信をみせる。

※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2011年7月11日付 vol.1390より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは