日立、無闇にシェア追わずも、技術力のあるテレビ売る

特集

2008/11/07 14:18

 日立製作所の薄型テレビのシェアは10%に満たず、トップ5にも入れない。液晶とPDP(プラズマディスプレイパネル)を併用する数少ない総合電機メーカーにもかかわらず、テレビでは存在感が薄い。

数よりオンリーワンの付加価値



山内浩人 商品戦略企画部部長

山内浩人 商品戦略企画部部長
 だが、独自路線をひた走り、世の中になかった機能やモデルを他社に先んじてリリースしてきたのも日立だ。HDD内蔵を初め、世界最薄、そしてチューナー分離……。「ナンバーワンよりオンリーワン」。薄型テレビ「Wooo」の存在を語るにぴったりの言葉だろう。

 「数(シェア)は大事。だが、日立にしかない技術を使った高付加価値モデルをユーザーに届けることのほうがもっと大切。『技術の日立』らしい製品で、ユーザーを驚かせたい」。商品戦略企画部部長を務める山内浩人はこう話す。低シェアに甘んじている現状に悔しさを滲ませるものの、無闇にシェアを追わないスタンスを貫く。

 その日立の自信作が「UTシリーズ」。テレビチューナーとモニタを切り離し、それを無線でつなぐという新発想。この発想により、世界最薄(2007年10月発表当時)と背面にケーブルとコネクタが全くないデザインが生み出された。これを「360度Beauty」と日立は呼ぶ。「背面がすっきりしていて、ケーブルは電源用1本で済むのでどこから見ても美しい。例えば部屋の真ん中にテレビを置いてもサマになる」というのが謳い文句だ。

 ユーザーがテレビを選ぶ三大要素は、「画質」「サイズ」そして「価格」。画質は、どのメーカーも似たり寄ったりな状況だけに価格はとくに重視される。「UTシリーズ」の価格は、同等サイズの他モデルに比べ2─3万円高い。決して売れ筋ではなく、「UTシリーズ」を投入して日立のシェアが急浮上したわけでもない。

 ただ、部屋の隅っこ配置が当たり前のテレビを解放した効用は大きい。オプションの壁掛けできる専用ユニットと専用スタンドを購入するユーザーは、「UTシリーズ」全購入者の約2割にものぼる。追い求めてきたレイアウト自由型テレビというコンセプトが、消費者に受け入れられている証だろう。

 売れ筋には飛びつかず、独自路線で付加価値モデルに集中する。それが、低シェアでも崩さない日立のプライドだ。(文中敬称略)(取材/田中繁廣・文/木村剛士)


週刊BCN 2008年11月10日付 Vol.1259より転載