インターネット、「初音ミク」越え、DTM老舗の意地見せる

特集

2008/10/27 10:23

<strong>――村上昇 社長</strong><br />
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 大阪のインターネットは、DTM(デスクトップミュージック)ソフト開発の老舗である。年間トップシェアベンダーを表彰する「BCN AWARD」のサウンド関連ソフト部門では常勝を誇っていた。だが、2007年は思わぬ伏兵にトップの座を奪われる。札幌のクリプトン・フューチャー・メディアが開発した電子の歌姫「初音ミク」のブームに押し切られた。アイドル歌手顔負けの歌唱力を持つソフトで、動画投稿サイトのニコニコ動画を事実上の活動拠点として大ヒット。

●独自路線を突き進む、DTM老舗の意地

―村上昇 社長

 成熟しつつあったDTM市場だが、ニコニコという“発表の場”を得たことで再び成長を始める。DTMベンダーとして看過できない。しかし、社長の村上昇は「クリプトンと同じことはしたくない」と決意した。老舗の意地もある。そこで打ち出したのが、本物の音楽系アーティストの声を取り込む戦略だ。初音ミクから遅れること1年近い今年7月、有力アーティストのGacktさんの声を元にしたボーカルソフト「がくっぽいど」を投入。自分のつくった音楽を、「あの歌手に歌ってほしい」というDTMユーザーのニーズを狙った。初音ミクなどの独立したキャラクターを確立させるクリプトンの路線とは、全く違うアプローチをとる。

 とはいえ、自分の歌声が“一人歩き”することに抵抗を感じるアーティストがいるのも事実。とくに女性アーティストは交渉が難航する。何を歌わされるか分からないという漠然とした不安があるからだ。ただ実際は、音楽的に優れた作品がDTM史に残り、結果的にアーティストの名を高める。アーティスト本人や所属事務所に日参し、DTMやCGM(ユーザー参加型メディア)の可能性を切々と訴える。交渉が座礁し、徒労に終わろうとも、「誰もが知る有名な女性アーティストのボーカルソフトを出してみせる」と、今年度(09年3月期)末から来年度にかけての製品化を目指す。

 並行して、ニコニコ動画向けの映像編集ソフトの年内発売を予定するなど、DTMとCGMの橋渡しをするソフト開発にも力を入れる。J-POPやアニメ・ゲームソングは、今や日本の誇る文化。ネットを通じて世界中へ広がる。「この波に乗り、グローバルで通用する音楽・映像系ソフトベンダーに成長する」野望を抱く。(文中敬称略)(BCN・安藤章司)

週刊BCN 2008年10月27日付 Vol.1257より転載