<ITジュニアの群像 中学ロボコンへの道>第54回 八戸市立東中学校

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2007/07/04 16:24

 本紙3月19日号で報じたように、中学ロボコンを全国的に普及させた「八戸ロボコン」。その礎を築き上げたのが下山大(ゆたか)八戸市立東中学校教諭である。無作為にチームを編成し、長期間にわたって共同製作活動に励む八戸方式は、創造性や協調性を養う教育的効果が高い点が評価され、「技術・家庭」(東京書籍)の教科書に2006年度から採用されるに至った。今回、下山教諭指導のもと、どのような授業が行われ、生徒たちが取り組んでいるのか、その様子を取材した。

「モノづくりは人づくり」
ロボコンを通じた教育的効果


 本紙3月19日号で報じたように、中学ロボコンを全国的に普及させた「八戸ロボコン」。その礎を築き上げたのが下山大(ゆたか)八戸市立東中学校教諭である。無作為にチームを編成し、長期間にわたって共同製作活動に励む八戸方式は、創造性や協調性を養う教育的効果が高い点が評価され、「技術・家庭」(東京書籍)の教科書に2006年度から採用されるに至った。今回、下山教諭指導のもと、どのような授業が行われ、生徒たちが取り組んでいるのか、その様子を取材した。(相米周二●取材/文)

●仲良しグループを排除し、あえて葛藤を経験させる

 3年生の教室で、生徒たちが熱心に取り組んでいるのは、ロボットキャラクターの型紙づくり。動物あり、人気アニメの主人公ありと、それぞれ個性的である。一人黙々と型紙に鉛筆を走らせる生徒がいる一方、グループでわいわいやり取りするなど、教室はにぎやかだ。

 机の上には「技術・家庭」の教科書が置かれている。頁をめくると、八戸ロボコン大会の模様だけでなく、製作過程の様子も写真で紹介され、ロボコンの進め方や製作マニュアルも、八戸ロボコンの実践例を基に編集されている。3学年を通じて、素材の加工法や電気回路、機械の仕組みなどを学び、その集大成としてロボコンが待っている。チーム編成は11月頃から。今はチーム編成、大会に向けての肩慣らしといったところだ。

 下山大教諭は東中学校に赴任する前は、第三中学、大館中学で教鞭をとった。いずれも八戸市内では「指導が困難な学校」として知られていたが、授業にロボコンを取り入れてから、生徒たちの生活・授業態度は一変する。ロボットを作る楽しさに加え、人間関係の大切さも学ぶことになったからだ。

 「チーム編成は抽選で決める。仲良しグループでチームを組むことはできない。下手をすると嫌いな奴と組むことだってある。それが狙い」と下山教諭。

 自分で選べない人間関係のなかで生徒たちは葛藤やぶつかり合いを通じ、共通の目的に向かって助け合うことの大切さを学んでいく。

 さらに、身の回りのあらゆる物に、作り手の思いや魂が込められていることも理解できるまでになる。「例えば、すぐにキレる生徒がロボット作りに夢中になり、自分の指を切ったり、ハンダごてで火傷を負ったり、数々の痛い思いをしながら、モノづくりの大変さを経験していく。そのうちアクシデントやトラブルにも冷静に対応できるようになり、仲間の失敗にも寛容になってくる」。

 家庭で、学校で、社会で、楽しく逞しく生きていくには助け合いがいかに大切かを知る。そして日常生活での挨拶、服装や言葉の乱れ、授業態度を見直すきっかけとなっていくのである。こうした長年にわたる「モノづくりによる心の教育」への取り組みが評価され、下山教諭は01年度日本機械学会の教育賞を受賞した。

●勝敗よりは個性を重視 可能性を追求させたい

 授業では基本的な技術指導やアドバイスを行うものの、製作を手伝ったりアイデアに意見を述べたりすることはない。「生徒にはいつも自分の作りたいように作れと言ってる。ロボコンでは勝つことが目的ではないから、他人の価値観にも左右されるな、と。自信を持って作ったものならアイデア倒れ賞でも胸を張れ。問題を作るのも解くのも自分たちなんだからと、ハッパをかけるんです」。

 同じルールの下で同じ目的を実現するのにも、多様な機械モデルを製作することができる。このことから、技術にはただ一つの答えがあるのではなく、さまざまな角度から解決方法を考えることの大切さに気づかせる。また、最初は不可能と思うようなことでも、あきらめずに試行錯誤を繰り返すことでアイデアがひらめき、克服できることにも気づかせる。それはやがて「生きるとは何か」について自分自身が主体的な考え方を持ち、価値観を創造することにもつながっていく。これらの点が学習指導の眼目でもあるのだ。

 「ロボット製作には、情緒的な表現ではあるが、命の営みが存在する」と下山教諭は言う。すなわち、小さなもの(部材)から大きなロボットへと育つ「成長」。先生や先輩から受け継ぐ伝統の「技」。補修と改良を繰り返す「免疫」。目的に向かって仕組みや形が洗練されていく「進化」。この4要素は人間にもロボットにも共通するものだと説く。「ただ作って終わりというものではない。終わりのない無数の答えを自分でつくりだす喜びを味わえるのがロボットの製作です」。

 高校、そして大学で技術方面への進路を選択した卒業生も多く、今でも交流は続く。初夏を思わせる日差しを浴びながら、無我夢中で製作に取り組む生徒たちの目は真剣そのものである。

●文武両道を貫き、英語力を強化 小野寺實校長

 東中学は来年、創立20周年を迎える。小野寺校長は今年の2月、八戸市の下長中学から東中学に赴任した。

 「文武両道を貫き、トータルな人間力を身につけてもらいたい。一芸に秀でるのはもちろん大切だ。そして、中学時代にこそ人間関係の基礎をしっかりと築き、それを土台に羽ばたいてもらいたい」

 赴任して、生徒たちに感じた第一印象は、明るくて挨拶もできるが、「ちょっと元気がなく、引っ込み思案」。数年前までは生徒指導が難しかった同校を、PTAとともに学校ぐるみで、よくぞここまで立て直したと評価しつつ、さらに活気と元気に溢れた校風づくりを目指す。そのために、これまで以上に挨拶の励行、部活への全員参加を継続、生徒たちが魅力を感じ、意欲的になれるような授業を模索している。

 授業のなかでは英語を重視する。「英語は日々の積み重ねがものをいう。Aができたら次はBへ。そしてCへと、順を追って進むことが要求され、途中を抜かすと次に進みにくい。ここに勉強の基本があると思う。毎日コツコツと勉強することの大切さを教えたい」。

 八戸ロボコンはまだ実際に見たことがない。だが、技術の授業に熱心に取り組む生徒たちの姿を見るにつけ、机にかじりつく勉強を超えた、さまざまな財産を身につけているとみる。支援と応援を惜しまないと心強いエールを送る。


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今年1月26日に開催されたBCN AWARD 2007/
BCN ITジュニア賞2007表彰式の模様


※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 中学ロボコンへの道>第54回 八戸市立東中学校は、週刊BCN 2007年7月2日発行 vol.1193に掲載した記事を転載したものです。

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