データ移動をどうする? MNPで活気づくもう1つの市場「携帯電話ソフト」

特集

2006/10/25 14:50

 携帯電話事業者(キャリア)を変えても、電話番号が変わらない「携帯電話番号ポータビリティ(MNP)」がいよいよスタートした。しかし、端末を変えるとなるとデータの移動が大変だ。電話帳のコピーぐらいならお店でやってくれる場合もあるようだが、メールやら写真やらのデータは自力でなんとかしなければならない。そんなときに役立つのが「携帯電話ソフト」。実際どんなソフトがあって、何が売れているのか? 「BCNランキング」で最新動向をまとめた。

 携帯電話事業者(キャリア)を変えても、電話番号が変わらない「携帯電話番号ポータビリティ(MNP)」がいよいよスタートした。しかし、端末を変えるとなるとデータの移動が大変だ。電話帳のコピーぐらいならお店でやってくれる場合もあるようだが、メールやら写真やらのデータは自力でなんとかしなければならない。そんなときに役立つのが「携帯電話ソフト」。実際どんなソフトがあって、何が売れているのか? 「BCNランキング」で最新動向をまとめた。

●データの移動やバックアップに留まらない多彩な機能を3社で競う

 「携帯電話ソフト」とは、携帯電話内の電話帳やメール、写真などをパソコンに取り込んでバックアップしたり、パソコン上で編集できるソフト。パソコンと携帯電話をUSBケーブルで接続し、データの書き出しや書き戻しを行う。ソフトによっては、待ち受け画像やQRコードの作成、着メロ・着ボイスの作成、住所録や画像の管理、「おサイフケータイ」の利用履歴の確認などもでき、使い道は、単なるデータバックアップや編集にとどまらない。

 アップデート版やダウンロード版を除き、携帯電話ソフトには通常、USBケーブルが付属する。携帯電話ソフト専用のケーブルでないと、ソフトが正常に動作しない場合が多いからだ。だが、キャリアごとにUSBケーブルを接続できるコネクタの形状が異なるため、各メーカーとも、「FOMA用(FOMAとSoftBank 3G兼用)」「au用」「PDC用(NTTドコモのmovaなど第2世代携帯電話用)」「全キャリア用」などと、USBケーブルのタイプや本数の違いによって、複数のパッケージを販売している。そのため、ラインアップが複雑になってしまっている。ソフトメーカーには、このあたりをもっとシンプルに見せる工夫を期待したいところだ。

 それでは、実際に売れ筋をチェックしてみよう。まずは、こうしたパッケージの細かな違いを集約し、全体像がつかめるメーカー別シェアから。
携帯電話ソフトメーカー別販売本数シェア

 「BCNランキング」06年9月のデータで、携帯電話ソフトメーカー別販売本数シェア1位は、「携快電話」シリーズのソースネクスト。シェアは52.9%とダントツだ。同社はMNPの開始を「携帯電話ソフトの存在を知ってもらうチャンス」ととらえ、さらなる販売の拡大に向けて鼻息も荒い。2位は「携帯マスター」シリーズのジャングルでシェアは24.1%、3位は「携帯万能」シリーズのトリスターでシェアは20.8%だった。ここまでの上位3社だけでシェアは95%以上。パッケージ版に限れば、選択肢は余り多くない。偶然の一致だが、携帯電話キャリアの勢力図によく似ている。



●1位は1980円のソースネクスト「携快電話14 FOMA USBコード付き」

 さて、製品別では何が一番売れているのだろうか? 最新の週間ランキングを見ながら、各携帯電話ソフトメーカーの携帯電話番号ポータビリティ(MNP)に向けた取り組みや、ソフトの特徴などを紹介していこう。

携帯電話ソフト製品別販売本数シェア


 10月第3週(06年10月16日-10月22日)、携帯電話ソフト製品別販売本数シェア1位は、ソースネクストの「携快電話14 FOMA USBコード付き」だった。その名の通り、FOMA用のUSBケーブル1本が付属するパッケージで、価格は同シリーズの通常版でもっとも安い1980円。NTTドコモ純正のFOMA USB接続ケーブルが実売1400円程度なので、ソフトとケーブルのセットと考えると、お買い得感は高い。

 「携快電話14」は、発売日が今年6月と少し前だが、メールアドレスの変更通知メールを一括で送信する機能について、設定ボタンを従来より上の階層の目立つ場所に置くなど、MNP利用者を想定した機能強化を行った。また、今回の「14」から、WindowsとMac OS Xの両OSで使えるハイブリッド版とし、新たにMacにも対応。Windows版とは使える機能が異なるが、アドレス帳やメール、カメラ画像のバックアップなど一通りの機能はMacでも利用できる。

 ソースネクストでは、パッケージに「携帯電話番号ポータビリティ対応」と記したシールを貼付するほか、一部量販店では携帯電話売り場にソフトを陳列し、MNP開始を機に携帯電話ソフトの存在を知らないユーザーに対して認知度を高めていく方針だ。

●「携帯万能」と「携帯マスター」は、MNP開始に合わせて一新

 2位は、10月6日に発売したばかりのトリスター「携帯万能17 FOMA 標準版」が獲得。1位との差はわずか3.0ポイントだった。このほか上位10位以内に同シリーズの計5ソフトがランクイン。トリスターは、9月のメーカー別シェアでは3位に甘んじていたが、新製品効果で、10月はかなり追い上げてきそうだ。

 トリスターは、今回新たに、PDC用と第3世代携帯電話(3G)用のUSBケーブル2本を添付した「携帯万能17 PDC+FOMA・SoftBank 3G用」「同 PDC+WIN用」をラインアップ。MNPで第3世代携帯電話に移行するユーザーをターゲットに「番号ポータビリティ(キャリア移行)専用版」と銘打ち、それぞれパッケージの色を変え、店頭で目立つようにした。

 「同 PDC+WIN用」には、同シリーズの「WIN専用」と同じく、従来のau用ケーブルの8倍-10倍以上の速さでデータ転送ができるWIN専用ケーブルが付属する。WIN用に専用ケーブルを用意しているのはトリスターだけで、キャリアを変えると携帯電話番号が変わるため、これまでNTTドコモのmovaなどからauのWINに変えるユーザーは余り多くなかったが、今後は増えると見込んでケーブル2本セットを追加したという。


 機能面では、MNP向けに、携帯電話をパソコンに2台同時に接続し、一括操作で旧端末から新端末にデータ移行できる機能や、変更したメールアドレスを、同社のサーバー経由で確実に通知する「メールアドレス変更通知機能」などを搭載する。また、同シリーズは、3バージョン前の「携帯万能15」からWindowsとMacintosh両方で使えるハイブリッド版として提供しており、最新版ではそれぞれ異なる機能強化を図っている。

 メーカー別シェア2位のジャングルも、MNPに合わせた新バージョン「携帯マスターNX」を投入。MNP開始直前の10月19日に発売した。さらに、ユーザー数の多さから、どのメーカーでも売れ筋となっている「FOMA用」を、2万本限定で通常価格より1500円安い1480円で販売するという、大々的なキャンペーンに打って出た。

 発売から4日間のみの集計にもかかわらず、「携帯マスターNX FOMA用 番号ポータビリティ開始記念キャンペーン版」は同率4位を獲得。もちろん、専用のUSBケーブルが付属しており、ソフトを購入するだけでデータのバックアップや移行ができる。

 ジャングルは、今回単なるデータのバックアップではなく、携帯電話内の「個人情報管理ソフト」という位置づけで新たに開発したという。また、これまでは新バージョンの発売までだったアップデータの提供を、ソフトのライセンス認証から2年間に変更し、ソフトの購入時期に関わらず、一定期間、最新機種に対応できるようにした。続々と発売される新機種への対応。その早さは、各社の実力の見せどころ。さらにアップデータ提供期間を長くすることで、他社との差別化を図った。

●MNP商戦に乗じてどこまで「携帯電話ソフト」の利点をアピールできるか

 携帯電話ソフトを使わなくても、携帯キャリアが同じならば、アドレス帳やメールなど、基本的なデータは、購入した店で新しい端末に移行してもらえる。しかし、MNPを使って、電話番号を変えずに別のキャリアに機種変更した場合は、基本的に「ドコモショップなどの専門ショップでなければデータを移せない」(携帯電話コーナー販売員)という。auに移行する場合に限って、店舗で対応できるが、端末の種類によっては不可能な場合もあるそうだ。

 NTTドコモでは、全国のドコモショップなどで、自分の携帯電話の電話帳やブックマークなどをバックアップできる「メモリーコピー」サービスを行っている。そのデータがあれば、キャリアを問わず、別の端末に丸ごと上書きできる。そのほか、携帯電話の赤外線通信機能やメモリカードを利用するなど、手はないわけではないが、確実にデータを移すには、携帯電話ソフトの手を借りるのが一番手堅さそうだ。


 MNPは、潜在的なキャリア変更希望者を動かし、携帯電話業界の再編を促すと考えられていた。直前の事前調査などでは、MNPを契機にキャリアを変えるユーザーは少なく、思ったより静かな幕開けとの観測もあるようだが、携帯電話ソフトのターゲットは、何もMNP利用者に限らない。携帯電話全体に注目が集まるMNP商戦に乗じて、携帯電話ソフトの存在をどこまでアピールできるか。各社の戦略の成果が出るのは、これからだろう。


*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など22社・ 2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。