産直と6次産業化と飲食店

暮らし

2023/10/22 19:00

【外食業界のリアル・2】 生産者と生活者が直接取引を行い、流通業者を通さずに直接届ける「産直」が拡がる一方、「6次産業化」に力を入れる飲食店も増えている。「6次産業」とは1次産業(農畜産物・水産物生産)と 2次産業(食品加工)と3次産業(流通販売)を一貫して行う多角経営を指す。そこで「産直」と「6次産業化」を軸に深堀していくことで、生産者と飲食店の関係を考えていきたい。

「産直」の普及

 コロナ禍における外出自粛は、観光業界や飲食店に多大な影響を与えた、飲食店は営業がままならない状況となり、売上を大きく減らし、生産者からの仕入れも減らさざるを得なくなっていった。一方、巣ごもり消費の拡大によって生活者は自宅で食べる機会が増え、そこに安心安全への関心の高まりも相まって、生産者からの直売、つまり産直は一気に拡大を見せた。

 生活者は「流通を介さないことで安く良いものが買える」「生産者の顔が見える安心がある」と生産者が見える形で商品を紹介する産直のスタイルは時代にもマッチした。また、個人でも簡単に全国に販売することが出来る安価なECが増え、生産者と生活者をマッチングするプラットフォームも普及し、生産者が産直に取り組むことを後押しした。さまざまな料理レシピを提供するインフルエンサーも人気となり、生活者が自分で料理をする楽しさという下地もできていたこともポジティブに働いていたと思われる。

「6次産業化」とは

 6次産業化とは、1次産業として農畜産物や水産物生産、2次産業としての食品加工、3次産業としての流通販売を行う経営の多角化でもあるのだが、ここでは飲食店が1次・2次産業までを取り組むことに絞りたい。

 飲食店経営として重要なものの一つに仕入れの安定化がある。いかに優秀な調理人がいたとしても良い食材を仕入れられないと顧客に提供する食事のクオリティは担保できない。特に大手チェーンとなると店舗数が多く必要な食材も膨大となり、安定的に供給できる仕入れ先を確保すること自体が重要な経営活動となる。6次産業化は、その一つの取り組みといえる。
 

 自分らで生産~加工までを行うことで鮮度・味・品質を管理し、安心で安全な上質の食材を店舗へと継続的に届けることができる。市場を通ることなく直接輸送することで他社には真似できない品質と価格を実現し、差別化にもつながる施策であった。もちろん、農畜産物や水産物などの生産は一朝一夕でできるような簡単なものではない。そのため、長年に渡って生産者と研究に取り組んだり、場合によっては牧場や農園などを買収するということもあったりする。

おいしい関係

 かつて外食業界では「地産地消」という言葉がよく聞かれた。その地域でとれた農林水産物をなるべくその地域で消費しようという取り組みであり、全国各地での成功事例も多かった。だがコロナ禍においては地域だけでの消費にも限界があったが、ライフスタイルの変化やプラットフォームの進化によって、全国への販売が個人でも手軽にできるようになり、それは地域のものを全国で消費する、つまり「地産全消」へと進化した。

 先日、養鶏場や漁師の人と話す機会があったのだが、彼ら曰く「自分らが育てたものがどのようにお客様にどのように提供されていくのかはとても大切で、そのために飲食店に足を運ぶ。そこでこんな食べ方があったのか、こんな味付けがあったのか、という気づきも多い」という。生産者が食材を生み出すプロであり、飲食店が顧客に料理や空間を提供するプロであり、両者が一丸となることで最高の食体験を提供することができるということを、生産者がまるで示し合わせたかのように同じことを語っていたことが印象深い。

 産直と飲食店は一見すると対立構造にあるように思われるかもしれない。だが、生活者に安心・安全でおいしいものを食べて欲しいというのは共通の想いであり、両者はある種の共生関係にあるように思える。生産者が丹精込めて作ったものは生活者に直接もしくは飲食店を介した形で提供され、また飲食店は独自に新たな食体験を生みだそうと試行錯誤し、それは生産者にもフィードバックされている。そこには、ほどよい摩擦が生まれ、結果として良い循環が巡り始めている。産直と飲食店のおいしい関係が始まろうとしている、そんな気がする。(イデア・レコード・左川裕規)