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言語聴覚士の育成を支援、オーティコン補聴器が開催した2泊3日の「サマーキャンプ」をレポート

インタビュー

2022/09/02 17:30

 日本社会の高齢化が加速するなかで、補聴器の注目度が増している。難聴が認知症をはじめ、さまざまな病気の遠因になっていることが科学的に立証され、聴覚をケアする重要性が認知されてきたためだ。一方で日本の補聴器市場では、聴覚の専門家が不足しているという問題がある。こうした課題を解消するために100年以上の歴史をもつ補聴器の老舗メーカーであるオーティコン補聴器は、言語聴覚士を目指す学生を対象に2019年から「オーティコン補聴器みみともサマーキャンプ」を開催している。

 2022年の「オーティコン補聴器みみともサマーキャンプ」は神奈川県のライムリゾート箱根で8月11日~13日の2泊3日で行われた。参加したのは全国の大学や専門学校で聴覚を専攻する30人の学生だ。今年で4回目を迎えるが、20年と21年はコロナ禍でオンライン開催だったため、対面形式での開催は3年ぶりとなった。
 
3年ぶりのリアル開催となった「オーティコン補聴器みみともサマーキャンプ」

聴覚分野で活躍する言語聴覚士を増やす

 読者の中には「言語聴覚士」という言葉が聞き慣れない人もいるだろう。言語聴覚士は厚生労働省の管轄する国家資格で、言語障害・音声障害・嚥下障害などに精通するスペシャリストを指す。対象とする領域が広いため、医療機関はもちろん福祉施設や研究機関など、さまざまな分野で有資格者が活躍している。「言語聴覚士」という名称から聴覚分野に携わる人が多い印象を受けるかもしれないが、実は言語障害や嚥下障害にかかわる人が大部分を占め、聴覚分野で人材が不足しているというのが実情だ。
 
オーティコン補聴器の木下聡プレジデント

 オーティコン補聴器の木下聡プレジデントは、まさにこうした業界全体の問題に対処するためにサマーキャンプを開催していると話す。「すぐに解決することのできない根の深い問題だが、今後状況を改善してくれる可能性がある学生に、聴覚分野についての関心を高めてもらうことが、最初の一歩になる」。業界からの期待は大きく、1年目から多くの参加者が集まった。学生の所属する学校の後押しも大きかったという。また、補聴器に携わる医療関係者や販売店のスタッフの協力も積極的で、ここでしか学ぶことのできない魅力的なプログラムが出来上がった。

 今年のプログラムでは1日目に補聴器に関する最新機器のデモ体験や、デフサッカー(聴覚に障がいがある選手、11人で行うサッカー)日本代表メンバーのトークセッション、2日目に補聴器業界に精通する各分野の専門家による講演や座談会、3日目に聴覚検査の講習やキャンプを総括するグループディスカッションなどが行われた。今回の記事では2日目の講演パートを担当する専門家から、それぞれの環境で言語聴覚士がどのように活躍しているのか、学生にどのようなことを伝えたいのか、インタビューした。
 
難聴者のリアルを知るための難聴VR体験
 
学生によるグループディスカッションの様子

1900万人の難聴患者に求められる仕事にやりがい

 木下プレジデントが22年のサマーキャンプにおける一つの目玉と語ったのが、補聴器診療の第一人者である新田清一先生と鈴木大介先生による講演だ。両氏は済生会宇都宮病院でタッグを組み、新田先生が医師として、鈴木先生が言語聴覚士として、「宇都宮方式聴覚リハビリテーション」と呼ばれる画期的な診療を行っている。講演では「日本の補聴器診察は言語聴覚士がけん引する!」というテーマで、日本における補聴器診察の実態やその現場で言語聴覚士がいかに求められているのかを実技の映像を交えながら語った。
 
左から鈴木大介先生と新田清一先生

 言語聴覚士の鈴木先生は聴覚分野で働くやりがいについて「現在、日本には人口の6分の1に相当する1900万人の難聴患者がいる。音声言語を作る一歩目となる聴覚の改善に貢献することは非常に多くの方を手助けすることにつながる」と語る。多くの患者がいる一方で、働き口はまだ少ないという問題がある。新田先生と鈴木先生のようなドクター×言語聴覚士の組み合わせは全国の医療関係者から注目を集めているものの、まだ稀なケースだという。

 サマーキャンプでの講演を引き受けた理由について鈴木先生は「自分自身が言語聴覚士になる前に具体的に何をしているのか知る機会はほとんどなかった。今は調べやすい環境になっているが、それでも聴覚分野ということになると、まだまだ情報が不足している。自分のやってきたことを伝えることで、興味を持ってもらえればうれしい」と語った。

 「難聴と耳鳴りで困っているすべての人を助ける」ということをライフワークにしている新田先生も、医師の立場から「診療そのものの成熟だけでなく、それを担う人材の育成をしていかなければならない」という意識を持っている。サマーキャンプに対しても「業界を変えていくためには、若い言語聴覚士に教え、影響を広げていくことが一番」と期待を寄せている。また「聴覚領域のリハビリに医師の存在は不可欠だが、中心にいるのは言語聴覚士。大変ではあるが、やりがいのある仕事だ」と学生に向けてエールを送った。

販売店からも言語聴覚士を目指す学生にエール

 補聴器普及を願っているのは医療機関やメーカーだけではない。ユーザーとの接点が多い販売店の果たす役割も大きい。アヅマ補聴器センターを運営するサウンドパレットで代表取締役を務める池上孔規氏も、サマーキャンプのコンセプトに賛同する一人だ。池上氏は販売運営という立場ながら言語聴覚士の資格を持っており、「聴覚系言語聴覚士のキャリアパス」というテーマで学生に向けて講演を行った。

 池上氏は親子3世代にわたって補聴器販売店を経営しているが、医療の現場も知らなければという考えから大学病院のリハビリテーション部(聴覚担当)で言語聴覚士として勤務していた。17年にはグローバルでオーティコンが実施したサマーキャンプにも参加しており、そうした幅広い経験を踏まえた上で補聴器販売のリアルを学生たちに伝えた。
 
補聴器販売店の立場から講演を行った池上孔規氏

 池上氏は「補聴器は専門店以外にメガネ店や健康食品店、ネット通販などでも販売されている。ただ、補聴器は継続的にサポートが必要な医療機器であるにもかかわらず、購入した店舗が補聴器の取り扱いを止めてしまってサポートを受けられないなどの事例も実際に発生している」と指摘。ユーザーに補聴器がベストな状態で届けられない状況がどのようにして起こっているのかを説明した。

 販売現場で重要な業務と池上氏が強調したのは「顧客とのコミュニケーション」だ。「補聴器は使う本人の意思が大事だが、残念なことに加齢性難聴の特徴として、聞こえが悪くなったという自覚がなく、家族の勧めで来店することが多い。補聴器の話より前に、どんなことで困っているのかということをしっかり拾い上げる必要がある」と具体的なシチュエーションを挙げた。

 販売現場で言語聴覚士の資格が生きる機会は顧客対応以外にも多々ある。例えば、補聴器販売店で求められる認定補聴器技能者の資格は本来4年の養成課程を要するが言語聴覚士であれば2年の飛び級が可能。認定補聴器技能者は日本ではまだ4500人程度と少なく、店舗運営側にとって重要な人材だ。言語聴覚士であることは、そうした人材になる近道だといえる。

 このほか、池上氏は自身の経験から「聴覚検査機器に対して十分な知識を備えているので、耳鼻科向けの営業としても能力を発揮できた」といった言語聴覚士だからこその強みを紹介。補聴器のバックグラウンドを理解していることが生きるシチュエーションが多いことを伝えた。池上氏は地域の公民館などで難聴の啓発活動なども行っており、「言語聴覚士を持っているからこそ話せることは多い」とのことだった。

業界の思いを若い世代へ 参加者同士も刺激を受け合う

 今回のサマーキャンプでは合宿所内で関連企業とのポスターセッションや最新機器の展示なども行われた。9月1日の防災の日に向けてオーティコンが準備しているエコ風呂敷プレゼントキャンペーンの企画には学生たちも参加。難聴者は災害時に意思を伝えることが難しいという問題を抱えているが、エコ風呂敷は難聴者であることを伝えるとともに、アイコンで円滑なコミュニケーションがとれるように設計されている。では、どのようなアイコンが必要か。学生たちは難聴者の状況や気持ちを想像しながら、自由にアイディアを出し合った。
 
防災の日プレゼントキャンペーン企画では学生たちがアイディアを出し合った
 
エコ風呂敷は難聴者の災害時を想定して設計されたもの
 
関連企業とのポスターセッション
 
聴覚ケアを支える最新機器に実際に触れることもできた

 参加した学生たちの声も聞いてみた。「言語聴覚士に関心がある」という思いは共通だが、集まった学生たちの目的はそれぞれだ。「言語聴覚士になるために必要なことを学びたい」というものから「聴覚の仕事にかかわるために視野を広げたい」というものまで幅広かった。学生同士でディスカッションする機会や館内展示も設けられていたため、プログラムからだけでなく他の参加者からも刺激を受けているようだった。
 
学生同士のコミュニケーションも刺激に

 まだ言語聴覚士が働く環境はその価値を最大限に生かすほどには整えられていないが、資格が制定された20年以上前と比べるとだいぶ改善は進んでいる。今後、言語聴覚士の活躍の場が広がれば、働く側だけでなく、難聴に悩む多くの人にとっても大きな恩恵があるはずだ。メーカー発信の業界全体を巻き込んだ思いは、みみともサマーキャンプを通して若い世代にも引き継がれたようだった。(BCN・大蔵大輔)

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