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学生が起業! 林業と障がい者雇用、SDGs教育をつなぐ「はしわたしプロジェクト」を開始

インタビュー

2022/03/12 12:00

 フェリス女学院大学に通う学生の難波遥さんが株式会社Hands UPを起業し、取締役として参画する坂地航汰さんとともに「はしわたしプロジェクト」でクラウドファンディングに挑戦。おしゃれなデザインの箸袋に入り、日本の間伐材を使った割り箸は、SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標が学べる教材にもなる。林業と障がい者雇用、SDGs教育をつなぐプロジェクトの最終ゴールは、日本に寄付文化を根付かせること。二人にプロジェクトにかける思いを聞いた。

取材/BCN+R編集長 細田 立圭志 写真/松嶋 優子

「はしわたしプロジェクト」を企画・運営する、学生でHands UP代表の難波遥さん

日本の間伐材を使って、障がいのある人が箸づくりに携わる

――日本の間伐材を使った割り箸づくりが軸になる「はしわたしプロジェクト」のスキームを教えてください。

難波 「はしわたしプロジェクト」は、日本の間伐材を使って、障がいのある方々が割り箸をつくり、9本セットにして、購入した人に届けたり、SDGs(持続可能な開発目標)の教育を受けたくても受けることのできない子どもたちに寄付をしたりすることができる、新しい形のクラウドファンディングのプロジェクトです。

 箸袋にはSDGsに関するオリジナルデザインとコードがプリントされていて、スマートフォン(スマホ)やタブレット端末などでコードを読み取ると90秒間のデジタル絵本が読めるという仕掛けがあります。箸自体がSDGsの教材になるので、どこでもSDGsの教育が受けられます。
 
オリジナルデザインの箸袋はコードを読むとSDGsの教材にもなる

――箸袋のデザインがおしゃれですね。

難波 同じ部活動でお世話になった高校の先輩が描いたオリジナルのデザインです。種類はSDGsの17の目標と、18個目に私たちが独自でつくった目標「守ろう自分の命」を加えた合計18種類あります。例えば、目標1の「貧困をなくそう」の箸袋にあるコードを読み取ると、貧困をなくすために私たちができることや、今の世界の現状がわかるデジタル絵本が読めます。「すべての人に健康と福祉を」など、SDGsの17の目標と、それについて私たちができることなどが学べるのです。

――箸をつくる上で日本の間伐材を使うのはなぜですか。

難波 日本の国土に占める66%が森林で、これは世界2位の高い比率なのですが、日本の割り箸の97%はコストの安い輸入品を使っています。森林を荒廃させないためや住宅用の太い木材を育てるために間伐は必要なのですが、その時に出る間伐材の多くは有効利用されずに燃やされてしまっているのが現状です。

 細くて住宅用には使えなくても、間伐材の素材そのものに問題はありません。ですので、箸をつくるために間伐材を有効活用できれば、CO2の削減にもつながりますし、もともと捨てていた間伐材を買い取ることで林業で働く方々にお金が届く仕組みもつくれます。

――障がいのある方が箸をつくるのはなぜですか? また、どのようにつくるのですか。

坂地 障がいのある方々が一つの作業を覚えるのに半年ほど時間がかかると言われていますが、その間の対価がもらえていなかったり、低賃金で働かされているという現状があります。箸づくりに参加することで、しっかりと対価を得ながら、雇用の促進にもつながります。

 また、メンタル面でもいい作用が生まれます。自分たちがつくったSDGsの教材になる割り箸が、ほかの施設などで使われたりすれば、やりがいや働きがいにつながるでしょうし、障がいのある方々が与えられる側ではなく、与える側になれることで人生の豊かさを感じていただけるようになります。また、本人の気持ちが前向きになることで、サポートするご家族の方々も心配が減って元気になるなど、好循環が生まれます。
 
「割り箸制作を通じて、障がいのある方もそのご家族も元気になれる」と語る坂地航汰さん

坂地 箸のつくり方については、まず間伐材を機械で割り箸サイズに切りますが、中には太すぎるなどサイズが異なるものが出てきます。そこで、障がいのある方々に穴が開いた机の上から箸を通すことで、ちょうどいいサイズの箸だけを揃えるという作業をしていただいています。

 実際の作業は「社会福祉法人山の会」(東京・西多摩郡)さんと「社会福祉法人池田博愛会」(徳島・三好市)さんに、封入や配送は「春うららかな書房大野物流センター共同福祉作業所」(福井・大野市)さんに、間伐材の切断は「多摩木材センター共同組合」(東京・西多摩郡)さんにご協力いただいています。

日本の寄付は117ヵ国中、104位

――プロジェクトはいつごろからスタートしたのですか。

難波 準備したのは2021年の7月です。最初は福祉施設を訪問したり、林業に従事する方々を実際に取材して課題などをヒアリングすることから始めました。

――難波さんは学生ですが、そもそも「はしわたしプロジェクト」を始めようと思ったきっかけは何だったのですか。

難波 海外と違い、日本では寄付する活動が一般的に普及していません。過去1カ月に寄付をした人の割合が117ヵ国中、104位というデータもあるほどの低さです(CAFの2021年度の調査)。

 あるとき、テレビで献血する人へのインタビューを見ていたら、質問された人は「暇だから献血にきた」というのです。暇だから献血はするけど、寄付はしない。この違いはなぜだろうと考えたとき、献血は困っている人に自分の血が届くということが明確にわかりますが、寄付は何に使われのるか不透明さがあるからではないかと思ったのです。ですから、モノを介して寄付をすれば、作り手と使い手がいるので、その方たちへの社会性や使われ方が明確になると思いました。それがプロジェクトを始めたきっかけでした。
 
プロジェクトを始めたきっかけについて語る難波遥さん

――プロジェクトでは、個人で購入できるメニューのほか、企業など法人向けメニューもありますね。

難波 学生団体ではじめたときは「SDGs×Fashionable」というコンセプトでほぼボランティア的な活動をしていました。しかし、これではずっと続けられないということに気づきました。そこで、寄付という文化をもっと広げるためには、企業や行政にこちらから働きかけてプロジェクトに参加してもらう必要性を感じたのです。民間企業の間でも間伐材の箸を使ったSDGs教育の輪が広がり、活動を大きくさせたいと考えてHands UPという法人を設立しました。

 はしわたしプロジェクトの法人向けメニューでは、オリジナルキャラクターによるノベリティや宣伝に使っていただこうというのがミソです。私たちのイラストと企業のキャラクターを組み合わせた箸袋をつくり、コードには企業のPR動画が入れられます。9本セットにすればノベリティになります。
 
企業のノベリティにもなる

――企業にとっても寄付より広告や宣伝の方が予算がつけやすいかもしれませんね。実際に数社からオファーがあったとか。

難波 埼玉の不動産会社のリゾンさんや農家の中森農産さん、千葉の成美学園さん、KANJINさん、シャンボールさんのほか、飲食店やアスリートの方、お寺の住職さんなど、いろいろな業界の方々がプロジェクトに賛同して参加してくださっています。

――つくった箸を使ってもらうためには、どんな活動をしていますか。

坂地 つくった箸は1本1本、飲食店に寄付することも可能です。男女や年齢など、その企業がターゲットにしたい人たちが利用する飲食店に卸すというイメージです。実際に既に何店舗か私たちで開拓してご協力いただいています。

 飲食店の方に実際にお話しすると、みなさん喜ばれて反応がいいです。かわいいデザインの箸が無料でもらえるし、店に来たお客様への話題づくりになったり、SDGsに取り組んでいるアピールにつながったりします。

――プロジェクトの輪が広がって、日本に寄付文化が少しでも根付くことを期待しています。ありがとうございました。



■Profile

難波 遥(なんば・はるか)
大学2年の時に学生団体HANDSUPを立ち上げSDGs×オシャレの領域で活動。ミスユニバーシティを始めとするミスコンテストでは4冠を達成。MCやモデル業、企業研修などを経験し、一人でも多くの個の幸せと可能性の最大化を目指し、2021年12月に株式会社Hands UPを登記。『TIKTOK就活』などをはじめとする社会貢献性と経済性が両立する事業作りを展開している。

坂地 航汰(さかち・こうた)
株式会社Hands UP取締役/株式会社COLBIO 代表取締役。『生物と自然が共に生かし合う世界』をビジョンに掲げ、テクノロジー×クリエイティブをキーワードに、農業や地方創生プロジェクトを行う。人の想いを中心に、ヒトモノカネ情報が循環するWeb3.0プロジェクトを準備中。