劇作家の野田秀樹氏が3月1日、自身のWebサイト「野田地図」で「意見書 公演中止で本当に良いのか」と題する文章を掲載した。「コロナウイルス感染症対策による公演自粛の要請を受け」つつも「予定される公演は実施されるべき」と主張。「ひとたび劇場を閉鎖した場合、再開が困難になる恐れがあり、それは『演劇の死』を意味しかねません」と説く。「劇場閉鎖の悪しき前例をつくってはなりません」とも。

演劇に限らず、あらゆるライブイベントの中止や延期が広がっている

 日本の現状は、昭和天皇が崩御する前後、1988年秋から89年にかけて全国を自粛ムードが覆った時に似ている。象徴的な出来事は、日産セフィーロのテレビコマーシャルだ。井上陽水のセリフ「みなさんお元気ですか」が消され口パクになった。「歌舞音曲」の自粛で、さまざまなイベントが中止・延期された。野田氏の主張がこの時のものであれば十分理解できる。公演に踏み切ったとしても、役者にも観客にも命に別状はない。主義主張の問題だ。
 
野田秀樹氏は自身のWebサイト「野田地図」で「意見書 公演中止で本当に良いのか」を掲載した

 今回は、公演を強行することで役者や観客の命にかかわる「かもしれない」。88年当時と大きく異なる。科学的見地から後に「あの程度の感染症でライブや演劇を中止したのはやりすぎだった」と言われるかもしれない。しかし現時点で、どの程度の危険があるか、はっきりとわからない。「なぜもっと早くすべてのイベントを強制的に禁止しなかったのか」と言われるかもしれない。

 要するに何もわからないのだ。わかっているのは、感染者のみならず死者が全世界で多数出ているという事実だけだ。一方で、演劇関係者だけでなく、音楽ライブなど、人を集めるライブのイベントで生計を立てている人たちは、今まさに窮地に陥っている。新型コロナに感染しなくても「経済的に殺されてしまう」かもしれない。
 
東宝・演劇部では3月20日から公演の再開を行うと発表した

 劇場側の実際の対応はまちまちだ。政府の要請に従い3月19日までは全公演を中止したところが多かったが、それ以降は対応が分かれている。国立劇場は3月の公演を中止。松竹でも、歌舞伎座、新橋演舞場、大阪松竹座、南座の直営劇場での3月公演中止を発表した。一方、東宝では3月20日からの感染症対策を講じた上で公演再開を発表した。

 会場側では来場者の検温や換気の強化、オペラグラスなどの貸し出し停止、クロークサービスの停止。係員は全員マスクを着用して対応する。来場者にも制限を設ける。発熱や咳の症状がある人や身近に感染者がいる人、入国制限地域から帰国後14日間を経過しない人などの来場を断る。また、劇場内での近距離での会話、役者の出待ち、入り待ち、プレゼントを控えるよう要請している。

 いつまでも中止を続けるわけにはいかない。どこかのタイミングで再開しなければならない。いつ、どのような形で再開するのか。悩ましい問題だ。ITを駆使したネットでの開催から始めることも。今回の東宝の対応は一つのいいサンプルになる。できるだけ感染のリスクを排除しながら、どうすればイベントが実施できるか。知恵のしぼりどころだ。(BCN・道越一郎)