SNSの普及が可視化したクラスタ間の分断と情報格差

オピニオン

2018/02/08 19:00

 【不定期連載・重みを増す「ネット対策」~今、起きていること】 昨年、ある海外メーカー製のビルトイン式の食器洗い乾燥機(食洗機)を購入しようと思い、インターネットで検索したが、公式サイトとわずかなユーザーの口コミ以外、ほとんど情報はなく、肝心の工事業者も見つからず断念した。メーカー公式ショールームと、工事を請け負う公認ショップは遠方にしかなく、時間と費用の関係で試せなかったからだ。口コミでは、評価は総じて高かった。


 このメーカーは、あえて家電量販店を販路から外して、百貨店や直営店を訪れる世帯年収の高い層をターゲットにしているそうだ。そうした層は、情報発信に積極的な人の割合が高く、品質に満足すればオンライン/リアルを問わず、勝手に広めてくれる。
 

 発信された口コミは一般層にも目に入り、他社より高額でも納得できれば直営店にわざわざ出向く。基本的にはリアルのつながりを中心に、ネットの力も少し借りつつ、最小限のコストで集客を図り、ハイクラスのイメージと実際の性能の高さで高級路線のブランドを維持する。ブランド戦略として巧みだと感じた。

 今、日本で起きていることは、収入や職種、居住地域、そして情報収集力の違いによるあらゆる要素の「分断」だ。インターネット上に溢れる情報(テキスト・画像・動画・広告)から必要なものを探し出し、その真偽を確かめ、必要があれば自らアクションを起こさなければならない。

 インターネットは全世界共通であり、情報は世界中につながっている。とはいえ、実際は言語によって分かれている。検索エンジンに日本語であるフレーズ・キーワードを入力して調べれば多くのページがヒットするが、たいていは検索結果の上位3ページ程度しか見られない。
 

よく見られるのは検索結果ページの上位3位まで

 上位3ページまでに、公式サイト・公式ショップの購入ページと、評価のいい口コミ、マイナス点があってもいいのでリアルな口コミが表示されれば、そのブランド/メーカー/アイテム/サービスはひとまず成功だ。口コミは企業サイドでは制御できないだけに、自らの顧客層を厳選し、いい口コミを発信するタイプだけをファンに育てなければならない。

 ちなみに、食洗機はパナソニックのスタンダードな機種を、バナー広告でずっと表示されていた出張見積なし・ネット見積もりオンリーの格安業者に発注して取り付けてもらった。ビルトイン食洗機は、新築マンション・戸建て住宅の設備として普及しており、買い替えが中心のため、メーカー数は少ない。その業者がいうところによると、パナソニックが圧倒的なシェアを占め、同社の事例ではほぼ100%だそうだ。発注にあたり決め手になったのは安さと口コミの多さ、そして自社サイトの施工事例の豊富さだ。近所にリアル店舗がない以上、口コミと直感を信じるしかない。

 とはいえ、誰が発信したのかわからない「口コミ」に代わり、メーカーや店舗など、発信元が確かな情報が求められている。そうした状況で、企業自身がターゲットに沿った情報コンテンツを発信する企業サイトのオウンドメディア化は、意識の高い層にリーチするための一つの解といえるだろう。課題は、年収や年齢の幅を広げた、より多くの潜在購入検討者に届ける方法にある。(BCN・嵯峨野 芙美)