技術の進化によって、睡眠時間や睡眠の質が可視化できるようになり、長時間労働や夜型の生活習慣などの影響で、多くの日本人が「良質な睡眠が取れていない」実態が浮かび上がってきた。軽度な身体の不調は自分で手当てする「セルフメディケーション」が重要といわれるなか、理想と現実が乖離する現状を問う。

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<Point>
(1)30代~50代の2割が「睡眠不足」を自覚
(2)解決策は「就労時間の短縮」「家事負担の軽減」
(3)時間不足を補うAIやIoTデバイスに期待

 

「眠れない理由」1位は仕事、2位は家事

 厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、睡眠で休養が十分にとれていないと回答した割合は、2009年以降増えており、20~50代では2割を超えている。その要因をきくと、20~40代の男性と20代の女性は「仕事」が最も多く、30代、40代の女性は「家事」「仕事」の順だ。睡眠の質の確保のために最も必要なこととして、男性は「就労時間の短縮」、女性はそれに加えて「家事のサポート」を挙げる。寝具を買い替えるなど、「睡眠環境を整えること」が最も重要とみなす人は、そう多くはない。

 寝不足が続くと、糖尿病や認知症の原因になる可能性がある、という研究結果にもとづき、「睡眠負債」という新語も頻繁に使われるようになってきた。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の機構長を務める柳沢正史氏は、世界的にみても日本と韓国の平均睡眠時間は短く、多くはその自覚すらないと警鐘を鳴らしている。

「働き方改革」の先にある”オンライン”と”リアル”の融合

 政府が掲げる「働き方改革」は、勤労世代の睡眠不足をますます悪化させる懸念と、抜本的な改善をもたらすのでないかという期待が入り交じる。検討中の案は、残業の抑制と引き換えに副業・兼業を認め、同時に「高度プロフェッショナル制度」を導入し、裁量労働制の対象を拡大する――というもの。柔軟な働き方とは、結局のところ、労働時間の減少に比例した収入減を許容させるための方便だ。ブラックな職場環境のままでは、人手確保が難しくなってきた現状の追認ともいえる。
 
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 リアル店舗は営業時間を短縮せざるを得ず、いかに短い時間で多く売り上げるか、生産性の向上が課題となる。定休日が増えると、消費者は訪問前に店舗の営業状況を確認する必要に迫られ、スマートフォン向けポイントカードアプリの通知機能やクーポンの実用度が増す。オンラインとリアルは、こうして自然と結びついていく。

新ワード「睡眠負債」をビジネスチャンスと捉える動き

 ダイキン工業、昭和西川、ライオン、ルネサンスの4社は、睡眠から人々の健康を考えるプロジェクト「世界睡眠会議」を16年3月に設立。Webサイトを立ち上げ、安眠・快眠に関する情報を発信している。また、ネスレ日本とフランスベッドは、期間限定で「睡眠カフェ」をオープン。来場者には好評だったという。家電量販店の「コジマ×ビックカメラ」の店舗でも睡眠グッズに力を入れる。

 「睡眠の日」は、世界睡眠デー(World Sleep Day)と同じ3月18日と、日本独自の9月3日の年2回。すでに多くの企業がビジネスになると着目し、「睡眠の日」にあわせてプロモーションを展開している。快眠グッズは、いまや夏の季節商品ではないのだ。
 
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「安眠」「快眠」は、残された数少ない成長分野。AIによるアドバイスやIoTデバイスも役立つ

 労働時間が長く、「就寝時刻の3時間前までに食事を済ませる」「寝る前はPCやスマートフォンなどの画面を見ない」「朝、目覚めたら陽の光を浴びる」といった理想とは程遠い現実がある限り、日々、無自覚に蓄積されていく「睡眠負債」の解消をトリガーとした製品やサービスは、一部の人の興味を大いに引くだろう。話題のスマートスピーカーや時短家電を活用しても、捻出できる時間はわずか。やはり本質的な問題解決が必要だろう。(BCN・嵯峨野 芙美)