PC周辺機器の中でも最もエンドユーザーにとって身近な存在のマウス。市場全体では単価1000~2000円前後の商品が主流だが、家電大型店やPC専門店の売り場には、数千円から1万円以上する高級モデルも多数展示されている。PCを一日中使用するオフィスワーカーの机を見ると、PC本体の付属マウスではなく、自分で購入した高級な製品が置かれていることも少なくない。

 普及価格帯の製品では飽き足らないこだわり派には、どのようなマウスが売れているのか。平均単価5000円以上の中高級マウスを対象に、家電量販店やECショップの実売データを集計した「BCNランキング」で今年の売れ筋商品を調査してみると、その1位は意外なメーカーの商品だった。
 
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 今年1月以降の平均単価5000円以上のマウスを製品別に集計したところ、アップルやロジクールの製品を上回って販売数量1位・シェア11.5%を獲得したのは、Razer(レーザー)の「DeathAdder Elite」だった。Razerというメーカー名になじみのないユーザーも多いと思われるが、同社は2005年に米カリフォルニアで創業したゲーミングデバイスメーカーで、PCゲーマー向け製品では世界有数のブランドとなっている。
 
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中高級マウス市場で今年最も人気となっている「Razer DeathAdder Elite」

 また、3位から5位に入ったロジクールの製品もすべてゲーマー向けの機種。ゲーミングマウス以外の製品も含んだすべての中高級マウス市場で、これだけゲーマー向けの製品が上位にランクインしていることから、PCゲーマー向け商材の販売が好調に推移していることがうかがえる。

 DeathAdder Eliteは昨年12月発売の商品だが、販売推移を見ると、その人気は一過性のものではなく、特に5月以降は連続して、中高級マウス市場で10%以上のシェアを獲得し続けている。Razerで国内マーケティングを担当する寺沢卓哉氏は「今年のゴールデンウィーク以降、とくに勢いが出ているという手応えがある」と話しており、5月からの伸びは店頭の動きと一致する。
 
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中高級マウス市場で今年最も人気となっている「Razer DeathAdder Elite」

 ただ、寺沢氏によると、DeathAdder Eliteは同社の機種の中でも突出してよく売れており、1機種に人気が集中するのは、グローバルでも日本市場特有の現象だという。サイドボタンやDPI切り替え機能、最新の光学センサを搭載し、実売価格が7000~8000円台という納得感のある価格で提供していることから売れ筋商品となったが、日本国内では、ゲーマーコミュニティの中で一度「定番商品」の位置につくと、その評判がさらに多くのユーザーを呼び寄せるというポジティブスパイラルが強く働くことも大きいようだ。

 また、最近はディスプレイが大型化・高解像度化していることから「デザイナーやCADオペレータなど、デスクトップPCで長時間作業を行うユーザーの一部でも評価が高まっている」(寺沢氏)という。DPI切り替え機能のある製品では、マウスポインタの動くスピードをマウス本体のボタンからワンタッチで変更できるので、緻密な作業を行う場面と、画面の端から端へポインタを動かすような場面の両方で、快適な操作が可能だからだ。

 Razerは、ロジクールに比べてマウス市場全体に占めるシェアは小さいものの、DeathAdder Eliteのようにピンポイントで非常に大きな支持を集める製品を有している。伸び悩みが伝えられるPC周辺機器市場だが、ユーザーの動向を細かくみていくと、まだまだ多くの掘り起こすべき“売れる商材”が秘められているといえるだろう。

専門ショップ「RAZERZONE」がオープン1年を経て盛況

 Razer製品が売り上げを伸ばした背景としてさらに挙げられるのが、リアル店舗でのブランド露出の拡大だ。PCショップや家電量販店のゲーミングPC売り場ではRazer製品を集めたコーナーが設けられることが増えているほか、昨年11月には東京・秋葉原の老舗PCパーツ店「TSUKUMO eX.」地下に、Razerブランドの専門ショップ「RAZERSTORE x TSUKUMO」(通称:RAZERZONE)をオープンした。
 
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「RAZERZONE x TSUKUMO」は地下にあり、店舗正面とは別の入口から下りる形

 RAZERZONEはRazerのブランドイメージに合わせた黒と緑の内装に統一されており、マウスやキーボード、ヘッドセットといったRazerのゲーミングデバイスはもちろん、ゲーミングノートPC「Razer Blade」や、日本ではここでしか買えないというRazerブランドのTシャツやバックパックなど、アパレル商品も取り扱う。
 
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「RAZERZONE x TSUKUMO」の店内

 Razer製品だけを販売しているので、売場面積あたりのアイテム数は少なく、秋葉原のパーツショップとしては異例なほどぜいたくなフロアの使い方になっているが、TSUKUMO eX.のRazer製品担当者によると、これだけのアイテム数でもフロアの売り上げはRAZERZONE改装前を超える水準だといい、Razerのブランド力を感じさせる。

 TSUKUMO各店は「BCNランキング」の集計対象店舗ではないが、同店でもDeathAdder Eliteはマウスの人気トップとなっており、発売から1年近くなる現在でも毎月「かなりの台数」が売れているという。価格とスペックのバランスがよく、初心者から上級者まで誰にでも使いやすい機種であることから、店としても勧めやすい商品とのこと。最近では首都圏のPCゲーマーだけでなく、秋葉原を修学旅行で訪れる中高生や、外国人観光客が訪れることも多いといい、一部ではRAZERZONEが観光で立ち寄るスポットとして認知されつつあるようだ
 
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Razerのマウスがずらりと並ぶが、ここでも一番人気は「DeathAdder Elite」

 とくに地方から来た若年層の顧客は、あこがれのプロゲーマーや、ゲーム動画の人気配信者たちが愛用する製品に触れて試せる数少ない機会として、RAZERZONEでの滞在を楽しんでいるという。DeathAdder Eliteはプロの使用にも耐える本格的なスペックを有しながら、価格は1万円以下でお小遣いでも手が届く範囲のため、RAZERZONEを訪れたお土産として買われるケースも多い。

 Razerのマウスを使ってRazerのファンになると、キーボードなど他のデバイスもRazer製品で揃えたくなる心理が働き、複数のアイテムをセット購入するユーザーも増えているという。また、アパレル商品の販売も好調。一般のPC周辺機器に比べて「ブランド商品」としての性格が強い、ゲーミングデバイスならではの動きといえそうだ。
 
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11月25日、プロゲーマーらを招いて開催したRAZERZONE x TSUKUMOの1周年イベントでは、
店内に入りきらないほど大勢のRazerファンが詰めかけた

 ゲーミングPC、ゲーミングデバイスは昨今のPC業界内でも数少ない成長領域のため、注力するメーカーや販売店は多い。しかし「定番商品」の座を得るためには、機能や品質を高めることに加えて、安定したファン層を形成するためのブランディング戦略が、従来のPC関連製品以上に重要になると考えられる。


*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割(パソコンの場合)をカバーしています。