• ホーム
  • 千人回峰
  • 株式会社アイ・オー・データ機器 代表取締役社長 細野昭雄

パソコンとテレビが融合する時代を見据える――第35回

千人回峰(対談連載)

2009/02/23 00:00

細野昭雄

細野昭雄

アイ・オー・データ機器 代表取締役社長

 アイ・オー・データ機器は、1976年創業、91年上場と、PC周辺機器メーカーのなかでは老舗の部類に入る歴史ある会社だ。最初に創業当時の思い出をうかがおうとすると、いつも温厚な細野社長は、「過去のことよりも、いま、足元のことばかりが気になって……」と笑った。経営者の目は常に明日に向けられているということに、改めて気づかされたインタビューだった。【取材:2008年11月20日、アイ・オー・データ機器営業本部(東京都)にて】

「アクトビラによるNHKの番組再配信は、蟻の一穴になるかもしれません。
これが本格的に普及すれば、録画の必要がなくなるわけですから」と持論を展開する細野社長
 
 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
株式会社BCN 社長 奥田喜久男
 
<1000分の第35回>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

PCとテレビの境目がぼやけてきた時代

 奥田 過去よりも現在ということですが、細野さんの最近の関心事はどんなことでしょうか。

 細野 実は、今日(08年11月20日)は幕張メッセで開かれているInter Bee(国際放送機器展)を見てきたんです。私たちはPC(パソコン)分野が主な事業領域ですので、放送分野は畑違いなのですが、最近はPCを使って映像編集ができるようになっていますし、PC分野と放送分野の接点ができてきていると感じています。放送業界においても、ストレージ製品をずいぶんと活用されているようですので、私たちも放送分野について勉強しなければならないと思っています。

 奥田 展示会には、いまでも頻繁に足を運ばれているのですか。

 細野 そうですね。都合がつけば、足を運ぶようにしています。

 今年(2008年)は、足を運ぶだけではなく、ちょっと背伸びして(笑)、初めてCEATEC JAPAN(最先端IT・エレクトロニクス総合展)に出展したんです。

 奥田 反応はいかがでした?

 細野 私たちは、IPTV用セットトップボックスと地デジ関連製品を出展しました。今回はPC周辺機器としてではなく、デジタル家電周辺機器として展示することで、多くの方に興味を持っていただくことはできたと思っています。ただし、どの程度理解いただけたかは微妙なところがあって、反省材料として今後に活かさなければと思うとともに、改めて新分野の開拓の難しさを感じているところです。

 放送分野というのは、PC業界にいる私たちからすると未知の新分野ではあるのですが、放送分野自体は、PC以上に長い歴史を持っており、枠組みを含め、いろんなものが出来上がっています。そこに後から新参者として入り込もうとするわけですから、市場の創成期からかかわってきたPC分野での苦労とは違った難しさがあります。

注1)IPTV:IP(Internet Protocol)を利用してデジタルテレビ放送を配信するサービスのこと、またはその放送技術の総称。

注2)セットトップボックス:ケーブルテレビ放送や衛星放送、地上波テレビ放送(デジタル放送、アナログ放送)、IP放送(ブロードバンドVODなど)などの放送信号を受信して、一般のテレビで視聴可能な信号に変換する装置。


 奥田 けれど細野さんは、新しい分野を開拓するのが一番得意じゃないですか。

 細野 確かに得意な部分ではあるのですが、放送が関係する分野では、複雑な枠組みや著作権等の権利関係などが存在し、製品開発するにしても、PC周辺機器とは異なった動き方が必要となります。たとえば、ある製品にB-CASカードをつけて発売しようとすると、ARIB(アライブ:社団法人電波産業会)の審査をクリアしないと発行されないルールになっているのですが、その審査のプロセスが非常に複雑でわかりにくいという実態があります。

 その複雑さゆえ、韓国や台湾メーカーに対する参入障壁となり、国内家電メーカーにとってのメリットを生み出しているとも言われています。一方で、私たちのようなPC業界からの新参者にとっても、なかなか高いハードルになっています。ここをうまく乗り越えることで、テレビを中心としたホームネットワーク・デジタル家電周辺市場を開拓していきたいと考えています。

注3)B-CASカード:ARIBとB-CAS社に認証されたデジタル放送受信機などに添付されている、暗号を解除するための鍵データの記録された接触式ICカード。カードの発行はB-CAS社が行う。

 奥田 ホームネットワークというと?

[次のページ]

次へ